ルパン三世 ルパンVS複製人間
本作を初めて観たのは劇場公開された1978年の暮れ。
幼少時、父に連れられて池袋劇場という映画館での鑑賞だった。
劇場前は相当の混雑で入場自体が危ぶまれ、気弱だった私は、
隣接劇場の「ピンクパンサー4」でもいっか、と、優柔不断に靡きかけたが、
父の「オレはこっちが観たい!」という強固な信念により、
満員のルパン上映館に突入、
本作鑑賞に至った。(ルパンにして良かった。父の英断に感謝。)
本編開始前にマイケル・ホイの「Mr.BOOミスター・ブー」の予告編が上映され
祭りの準備は整った。
それにしても…ルパンにクルーゾォ警部にホイ3兄弟
…何という素晴らしい時代だったことか!
そして本編。
ドラキュラ映画風な冒頭から、過去の映画の記憶、その断片を再構築したような作品だった。
不二子が素肌に皮のツナギを着てハーレーダビッドソンを駆る(「あの胸にもういちど」)
運転手の顔が見えない機械獣のような大型タンクローリーの執拗な追跡
(「激突!」、タンクローリーのデザインは「コンボイ」)
ルパンがベッドごと宇宙空間へ(「マニトウ」)
太陽と月と地球が同一線上に並ぶ(「2001年宇宙の旅」)
不老不死を願い悪魔に魂を売ったマモー(「ファントム・オブ・パラダイス」)…等々。
「ルパン三世 カリオストロの城」のラストシーンにおける銭形警部の言葉
(「大変なものを盗みやがった。あなたの心を。」)風にクサイ表現を借りれば
『新旧名作映画の有名なシーンを盗みやがった』といったところか。
いや、映画だけではない。構図がキリコの「街の神秘と憂愁」や
エッシャーのだまし絵になっていたり、
マモーに「不確実性が生んだ私生児に過ぎない」と言わせてみたり。
(「不確実性の時代」当時のベストセラー)
はじけるキャンディー・ドンパッチが出てきたり(TVではカットされる)
…と、面白いもの流行のものはナンデモ詰め込んだ世界。
しかし本作は、当時あまた製作された一連のパロディ映画(「ケンタッキー・フライド・ムービー」や
「金田一耕助の冒険」)とは一線を画す。
劇中、こんな台詞のやり取りがある。
ルパン「夢…取り返しに行かなきゃ」
次元「夢ってのは女のことか?」
ルパン「…実際、クラシックだよ。おまえって奴は」
この台詞!これにグッとこない人っているのだろうか。
嗚呼…こんな台詞、いくつになったら言えるのか。(多分、一生言えない)
酸いも甘いも噛み分けた成熟した男性のみが似合うであろうこんな台詞を、劇中サラっと言わせて
しまう脚本の秀逸さ。
宮崎ルパンでは絶対描かれない(描けない)初期ルパンの持っていた艶っぽさの再現に成功している。
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では、ルパンにとっての本当の「夢」とは何だったのか?
それは、マモーによって深層心理を暴かれた際に言及される。
その結果は
「ルパンは夢を見ない」
ということだった。
彼はモノを盗む、しかし、モノに執着しない。
彼は神であり、そして狂人である。
「ルパンは夢を見ない」このひとことで、ルパンというキャラクターの本質を巧みに言い表す、
これもまた秀逸。
過度なパロディという表装に隠された、アニメが一番に苦手とする「魅力的な大人を描くこと」に成功して
いる生真面目な作劇という本作の構造は、即ち
シリアスな本質を悪ノリで包み隠すルパン三世のキャラクターそのものではないか。(○)