それでも、生きてゆく 最終回感想

<あらすじ>文哉(風間俊介)を許せず悔やみ続ける双葉(満島ひかり)に、洋貴(瑛太)は「これからは自分たちのことを
考えよう」と告げる。文哉の元を訪れた駿輔(時任三郎)は、胸に秘めていた本音を吐露し、文哉と向き合うことを決意。
一方、双葉も今後の生き方についてある決断を下す。


意味ないと思いますが、今頃、第11回の感想です。キツイ展開で、正直ひいてますが、ぽつぽつと書きます。
感情のかけらすら見せない文哉を、拳から血が流れても殴り続ける双葉。
子供の頃から「少年Aの妹」と苛められ、辛い思いをしても、へこたれなかった。
双葉が兄と家族でいることを選んだからだ。いつか兄が帰ってきて、家族みんなで暮らす。それだけを頼りに「生きたいとも
思えない人生」を生きてきた。それが洋貴と出会う前の双葉だった。
しかし、あれから色々な人と出会い、双葉には分かってしまった。文哉の暴力のせいで、人生を変えられた人達がいる。
なのに、文哉自身はそのことを自覚すらしていない。こんな理不尽なことがあっていいのだろうか?いいわけがない。
少なくとも今の文哉とは一緒にいられない。双葉の願いが叶うことはないのだ。それでも、双葉には文哉を心底嫌いになることは
出来ないだろうし、死のうとすれば、また助けてしまうのではないかとも思う。家族だから。
双葉は、自分が文哉に殺されなかったから亜季が死んだと、罪悪感を抱いていたし、真岐(佐藤江梨子)の事件も「お前のせいだ」と
文哉に詰られている。この罪の意識は、無意識に双葉を文哉に縛り付けているような気もする。
結局、双葉は「加害者家族」としてしか生きられないのだろうか?


達彦(柄本明)と亜季の墓参りの場に、響子(大竹しのぶ)は、双葉、隆美(風吹ジュン)、灯里(福田麻由子)を呼び寄せる。
「亜季に謝らないでください。今亜季に言いました。あなたはちゃんと生きたのよ。すごく短かったけど、あなたは幸せだったのよって。
亜季の前では、謝罪も、罰も、後悔もいりません。7年の人生を全うした亜季の冥福を祈ってください。」
「謝るのが下手な加害者家族」に、事件に対して一つの区切りをつける機会を与えた響子。
簡単に「赦し」などとは言えないが、彼らも苦しんでいたということだけは認めているのだと思う。
亜季の人生を「幸せだった」と言い切る響子には思わず涙した。加害者が反省しようがしまいが関係ない。亜季は幸せだった。
生まれてきて良かった。そのことだけは真実なのだ。例え犯人でも、それを否定することは出来ない。文哉からは何も返っては
こなかったが、響子は負けなかったと思う。亜季の短い人生を受け入れる事が出来た。娘の儚い生涯を受け止め、自分も生きていくと
誓った。それは「響子の中にいる亜季」を取り戻したとも言えるのではないか。あれほど、危うかった人が立派にやってのけたのだと
思うと、涙が止まらなかった。


駿輔(時任三郎)は文哉に面会する。真岐の延命拒否の署名に立ち会って以来、訪れなくなった駿輔のことを「加害者家族の誠意
なんて、ひと月も続きやしない」と五郎(小野武彦)は言っていたが、それだけではないと思う。
「文哉を人間に戻すこと。」それが被害者とその家族に対する一番の償いだと考えているのだと思う。今度こそ、駿輔はそれを
やり遂げるつもりなのだ。しかし、面会した文哉の顔を見て、駿輔は思わず涙をこぼす。
「生まれた時は、何も知らない可愛い赤ちゃんだったんだ。文哉、お父さんを恨んでくれ。憎んでくれ!お父さんがお前を
そんなところに行かせてしまった。お前を壊してしまった。お父さん、もうどうしていいのか分からない。お前のことを何も分からない。」
15年間、ずっと胸にあった想いなのだと思う。自分の子供が分からないという絶望。
駿輔はそれをずっと認めたくなかったのかもしれない。ましてや、文哉にそれを言うことなど、考えてもいなかったと思う。
父親として文哉を支えるために、ここに来た。しかし、口をついて出たのは「もうどうしていいのか分からない。」という嘆き。
今の駿輔の正直な気持ちだと思う。
そんな駿輔を初めて見る人のように眺めていた文哉が初めて言葉を発する。
「お母さんの顔が思い出せないんだ。何で?ねえ父さん!何でお母さんの顔思い出せないの?」
大きくて、いつも立派な父が、途方に暮れて泣きじゃくる姿は、子供に戻ってしまった文哉の不安定な心と共鳴したのではないか。
立ち回る先で日向夏を置き続けてきたのは、ずっと助けてもらいたいと思い続けてきたからだろう。あんな形でしか、
助けを求められなかった。
そして、駿輔もどうしようもなかったのだと思う。命がけで自分の子供を産む妻がいて、子供が生まれて、幼い娘もいて、
あの頃の駿輔に何が出来ただろうか?
最後には絶叫となり面会室から連れ出される文哉を呆然と見つめる駿輔。初めて文哉の真の部分に触れた思いだったろう。
文哉が助けを求めたのは、立派な父親ではない。弱くて愚かな父親としての駿輔だったのだと感じる。


洋貴は、「これからも一緒にいたい」と双葉に告げるが、双葉は自分の決意を明かす。
真岐の娘・悠里の母親になるつもりだと言うのだ。何回もお願いして、真岐の延命治療をしてくれることになった。
草間ファームに住みこみ、10年でも20年でも、悠里がいる限りそばにいる。終わりはない。母親になるとは、そういうことだから。
愕然とする洋貴。「何故、あなたが背負う?」と詰め寄る洋貴に「真面目な人でいたい。甘えたくない。文哉が亜紀にしたこと・
真岐にしたこと、忘れたらいけないと思った。」と答える双葉。
いかにも双葉らしい選択だと思う。駿輔は文哉を人間に戻す道を選び、双葉は悠里を守る道を選んだ。それが彼らの償いの
形なのだと思う。結局、双葉は「加害者家族」としての生き方を選んだことになる。それは「文哉に人生を決められた」
ということなのかもしれない。でも、それだけではないのだとも思う。
今度、双葉が選んだのは、心から「生きたい」と願う、悠里の為に「生きなければならない」と思える人生なのだ。
本当は洋貴と一緒にそんな人生を送りたいと願っていたのかもしれない。しかし、五郎と悠里のことを見ないフリをして
生きていくことは、双葉にとって幸せなことではないのだ。それに、悠里の傍にいるということは、真岐を思い、亜季を忘れない
ということ。亜季を思うことは、洋貴を思う心へと繋がっていく。一緒にいられなくても、いつも洋貴を想っている。
悠里を思うこと、洋貴を想うこと。それは双葉の希望なのだ。楽な生き方ではないけれど、これが、双葉の愛の形であり、
幸せの形なのだと感じる。幸せになりたいと願う双葉が辿り着いた結論なのだと思う。
本来なら関わるべきではない、顔も見たくない相手に、孫を託すことを受け入れる五郎の度量の大きさも心に沁みた。
15年前とは違った形で、被害者家族と加害者家族が関わっていくのではないかと感じる。


双葉の決意を受けて、「僕は文哉に会いに行く。」と告げる洋貴。
「何度でも、拒否されても行く。そしたら僕ら、道は別々だけど、同じ目的地を見てる感じじゃないですか。それって、すごい嬉しい」
一緒にいられなくても、心は双葉と共にあるために、文哉を諦めないと言う洋貴。
洋貴も双葉と同じことを考えている。ここまで互いのことを理解しているのに、それでも離れなければならないのかと、
苦しくなった。遊園地デートでの、抱擁シーンには号泣。「ホント言うと、ずっとこうして欲しかった。」と囁く双葉。
手も握ったことのない二人の最初で最後の抱擁。苦しい時、寂しい時、他の誰でもない、洋貴に抱きしめてほしかった。
初めて洋貴に打ち明ける双葉の女心が切なすぎて涙した。
決意通りに、洋貴は文哉と面会する。双葉の決意を聞いて「俺のせいじゃない」と言う文哉。自分がしたことを、双葉のせいに
しておきながら、自分のことは認めようとしない文哉は、やっぱり子供のようで、腹が立った。しかし、立ち去ろうとする文哉に、
洋貴はある物を見せる。それは、赤ん坊を抱いて笑う文哉の母の写真。文哉の瞳から涙が溢れる。
初めて、文哉に感情が生まれたのかなと思う。そこから、心が生まれ、いつか文哉も人間に戻るかもしれない。
そうあってほしいと心から願う。


洋貴と双葉、其々の新しい生活が始まった。二人はなぜか手紙を木の枝に結びつける。それは、二人にとっては、相手に届く
ことのない郵便ポストなのだ。
「遠山さん。朝日を見て、まぶしくて、遠山さんの今日一日を思います。」
「深見さん。こうして朝日を見てるとどうしてか、深見さんも同じ朝日を見てる気がします。いつもあなたを思っています。
私が誰かと繋いだ手のその先で、誰かがあなたの手を繋ぎますように。繋いだ手に込めた思いが届きますように。
悲しみの向こう側へ、進め。」
二人は結ばれないのかもしれない。けれど、互いを大切に想う心は消えることはない。周囲の人を思いやる時、その思いは、
巡り巡ってきっと相手に届いているに違いない。そんな風に互いを想いあっていると感じる。家族でも、友人でも、恋人でもない。
けれど、誰よりも近い存在。いつか恋の感情が薄れていっても、互いの存在は希望であり、生きていく心の支えなのだと思う。
これも一つの愛の成就の形なのかな。切ないけど。困難な状況でも希望を見出す力。それを身に付けていく二人を見て、
人間って凄いなと思わされた。どう考えても、幸せな結末ではないのだけれど、だからと言って、決して不幸せではない。
二人とも、初回とは全く違った表情に変わって、笑顔が浮かんでいる。その笑顔に、それでも、生きていく理由が裏打ちされていた。


全体的には、脚本、演出、キャストともに非の打ちどころのない作品だった。シリアスなシーンに独特のユーモアを入れてくる
脚本に毎回唸りました。打ちのめされたような感じ。
個人的には、耕平(田中圭)が結構好きでした。耕平は耕平なりに、悩んで苦しんで頑張って「普通」になったのだと思う。
「普通」であろうとすることは、決して薄っぺらではないと思う。
家族の為に文哉を捨てた駿輔の弱さや苦しみも、とても心に響いた。時任さんの演技も凄かったと思う。
二人の母を演じた大竹さんと風吹さんの、底知れない感じには、毎回身震いさせられた。
主演のお二人の演技には、笑って泣かされて、こちらの感情を全て持って行かれました。
正直、見る度に毎回抜け殻のようになってしまうほど、しんどかったけど、それでも見てしまう素晴らしい作品でした。
ありがとうございました!