それでも、生きてゆく 第5回感想

<あらすじ>洋貴(瑛太)は、五月(倉科カナ)に医療少年院で文哉(風間俊介)の担当看護師だった東雪恵が行方不明に
なっていることを話す。事件性を疑う洋貴に、五月は文哉探しの協力を申し出る。そこに、双葉(満島ひかり)が現れる。
自分と文哉の出生の秘密を知った双葉は、行き場を失いやって来たのだ。その夜、五月は双葉の洋貴への気持ちを探ろうとする。


今頃、第5回の感想です。お、重い。今回も物凄い回だった。
駿輔(時任三郎)が洋貴を訪ねてきた。今度はネクタイを締め、背筋を伸ばし、洋貴の目をまっすぐ見つめて「15年前に出来なかった
謝罪をさせてほしい。文哉を必ず見つけて、うちに連れて帰って必ず償わせる。」と告げる。それは、前回「文哉を殺す」と
言った洋貴に対する答えでもあり、「息子を殺さないでくれ」という父親としての控えめな訴えでもある。駿輔は文哉の父親で
あることに腹を括ったのだと思った。相反する目的の二人だが、文哉と向き合おうとしている点では一致している。
洋貴は、謝り続ける駿輔よりも文哉の父でいると決めた駿輔の方を、信じたのだと思った。
その駿輔は双葉に実母の話をする。「生きてる?」と聞かれ「死んだ」と答えていたが、微妙に答えに間があったように感じる。
嘘はついていないと思うが、普通の死に方ではないのかもしれない。もしかすると、文哉の事件と何か関係があるのだろうか?


「もっと早く離れていれば良かった」という駿輔に、「私は自分の人生を、一度も疑ったことはない。結婚したことも、
双葉や文哉の母になると決めたことも後悔していない」と答える隆美(風吹ジュン)。人殺しの親と後ろ指を指され続ける人生でも、
そう言い切れる隆美を単純にすごいと思った。前回、響子(大竹しのぶ)を一瞥して「あの人でしょ?嫌がらせしてたの」と
事もなげに言う隆美を「随分図太い人だな」と思っていた。でも、それだけではないのだと思った。どんなに辛いことがあっても、
家族だけはしっかり守ってきたという自負が、この人にはある。この家族こそが隆美という人の居場所なのだ。
「初めて双葉の手を握った時、ぎゅーって握り返してきた。きっと一人じゃ生きられないんだろうって思った。
私が守ってあげなきゃいけないんだと思った。」
その時から、ずっと娘達を守ってきた隆美。しかし、駿輔は文哉と向き合うことを決め、双葉は出生の秘密を知ってしまった。
「文哉」の名前は禁句ではなくなり、この家族は大きく変わろうとしている。それでも、家族を守ろうとするのが、隆美という
人なのだと思う。


しかし、居場所である家族を守り続ける人もいれば、その居場所から出ていかなくては、生きていけない人もいる。
響子の長い長い告白には、胸を掻き毟られた。
「優しくされると、あなたに何が分かるの?って思った。子供連れた母親見ると疎ましく思った。前向きに生きようって言われると
死にたくなった。みんな死ねばいいのにと思っていた。母親から子供取ったら、母親じゃなくなるんじゃなくて、人じゃなくなる・・・」。
響子は全てを憎んでいた。自分を守ってくれている家庭までも憎んでいた。恨んで、恨んで、何が憎いのかも分からなくなるくらい、
この世のありとあらゆるものを憎悪していた。本当に生きているのが不思議なくらい響子は壊れていたのだと、この告白を聞いて
やっと分かったような気がした。耕平(田中圭)でさえ理解できない闇の中で、響子はずっと生きていたのだ。
こんな状態でなぜ生きなければならないのか、響子にはもう分からないのだと思う。
「夢に出てきたあの少年は何も答えてくれなくて、ただ私を見返していた。その時、気づきました。この子と私、同じ人間だって。
人やめてしまった人だって。このまま死んだら亜季が悲しむ。そう思えたら、初めて生きようかなって思った。
私が言いたいことは、ずっと一つしかない。亜季を返してって。私が、言いたいことは一つしかなかったの。
私、あの少年に会いに行きます。会って、亜季、返してもらいます。」
その一言を言わなければ、響子は今後の人生を生きていくことが出来ない。そして、その一言を言いたい人間はこの世に
ただ一人しかいない。あの少年しかいないのだ。響子はようやくそのことが分かったのだと感じる。15年前にその一言を言えていれば、
響子のその後は変わっていたのだろうか? 言っても言わなくても、亜紀は返ってこない。ならば、響子にとって、亜紀を取り返すとは
どういうことなのだろう。自分がどうなってしまうのか。その一言を言うまでは響子にも分からないのだと思う。
でも、そうしなければ、この人はいつまでたっても「生きよう」と思うことは出来ないのだと感じる。


過去に囚われて前を向こうとしない母親の姿は耕平にとってはショックだったと思う。
耕平とその家族で、響子を優しく見守ってきた。居場所を作ってきた。耕平は間違ってはいないと思う。でも、世の中は理不尽な
ことばかりなのだと感じた。こんなに頑張っても報われない。妹を殺されたことも、せっかく作った居場所から母が出ていくことも、
耕平が悪いわけではない。耕平の優しさや正しさだけでは響子を救えなかったというだけ。殺された子供のことしか考えられない
哀しい母親を持ってしまった不運だと思う。耕平にとっての母と兄は、もう一つの居場所はどうなってしまうのか。
優しい耕平だけに胸が痛む。


出生の秘密を知り、家族という居場所も無くしてしまった双葉が痛々しい。
いつかは兄も一緒に家族みんなで暮らしたい。それだけを願って、双葉は「生きたいとも思えない人生」を生きてきた。
でも、母にとって、妹にとって、兄は家族ではなかった。ならば、私も家族ではなかったのだろうか? この家族にとって、
兄も自分も不必要な人間だったのだろうか? 
芯の部分が崩れ落ちようとしている双葉を、そっと励ます洋貴とのやり取りが、おかしくて優しくて涙が出た。
「辛いこと、色々あると思うけど、そのうち、うまくいきますよ。遠山さん、頑張ってるから。」
頑張ったのに、こんなことになって、何がどううまくいくのか。安易な慰めの言葉なのかもしれない。でも、誰かが「頑張ってる」と
いってくれて、それが他ならぬ洋貴の言葉で、双葉はどれだけ嬉しかったろう。一人ぼっちの双葉が、今、手を握っていてほしいと
願う相手は洋貴なのだと思う。しかし、それは決して望んではいけないことなのだ。
灯里(福田麻由子)との電話のシーンも切ない。とても心配しているのに、平静を装う灯里。大袈裟に心配したらもう家族では
なくなってしまいそうで、不安なのだと思った。「今すぐ帰ってきて!」と本当は言いたいのに、名前を呼ぶことしか出来ない
妹の気持を思うと、切なくてたまらない。妹の気遣いを察しているのに、今は帰る事が出来ない双葉の寂しさを思うと涙が出た。
自分の居場所を探してようやく辿り着いた祖母に「なんか疲れちゃったよ・・・。」と呟く双葉の姿が哀しい。
ずっとへこたれなかった。でも今は誰の為に何のために頑張ればいいのか分からない。
そこに文哉が現れる。双葉の居場所はやはり文哉なのだろうか?   (クーラン)