それでも、生きてゆく 第8回感想

<あらすじ>洋貴(瑛太)と耕平(田中圭)は、文哉(風間俊介)が働いているという果樹園へ向かう。一方、文哉からの電話を
受けた双葉(満島ひかり)は、兄の意味深な言葉に動揺する。果樹園に到着した洋貴らは、駿輔(時任三郎)から思いもよらぬ
事実を聞かされる。


今頃、第8回の感想です。お、重い。今回も物凄い回だった。
真岐(佐藤江梨子)は文哉に襲われ、意識不明の重体になっていた。頭に大怪我をしたのにシャンプーの心配をする父・五郎
小野武彦)の動転ぶりが、辛くて見ていられない。何かをすることで、取り乱すのをかろうじて抑えているような言動で、
男親の哀しさに溢れている。そして、こんな時にも、洋貴達の為に軽食を買ってくる、この年代の気遣いに涙が出た。
軽食は駿輔の分もあって、用意する義理もないのに、それでも買ってしまったのだろう。五郎という人の人柄が現れていると思う。
しかし、そんな五郎に医者は「意識が戻る可能性は低い」と告げる。茫洋とした顔が残酷な事実を認識し、悲しみで歪んでいく様が
辛くて仕方がなかった。こんな善良な人が、どうしてこんな酷い目にあわなければならないのか。
「娘が自分より長生きすることが一番の親孝行。」 あの時の父娘の会話がこんな形でかえってくるとは思わなかった。


文哉と向き合おうとした矢先にこんなことが起こり、駿輔は呆然自失。車道を彷徨い轢かれそうになるが、本人には何も見えて
いないのだろう。というか、いっそ死んでしまいたいと思ったのかもしれない。間一髪で洋貴に助けられるが、
「このまま生きて、償いきれるんでしょうか・・・。15年経っても償い切れないのに!」と泣きながら地面を叩く。
どん詰まりの駿輔の絶望が伝わってくる。駿輔の財布には家族の写真が納められている。駿輔と隆美と灯里と双葉が微笑む写真。
この家族を守るために文哉を捨てた罰なのだろうか? 15年前と同じ悲劇がまた繰り返されようとしている。
今まで、駿輔が守ってきたもの、苦しんできたこと、全てが無駄だったのだろうか? 
そんな駿輔に、五郎が用意した軽食を差し出す洋貴。「あのお父さんが買ってきてくれました。あなたの分だと仰ってました。」
震えながら、それを受け取る駿輔の姿が印象的だった。食事って、根本的には「生きる為」に摂るものだと思う。
ならば、誰かの為に食事を用意するということは、大袈裟に言えばその人の命を繋げたい、その人を生かしたい、ということ
でもあると感じる。駿輔の為にパンを買った五郎は、そこまで深く考えていなかっただろうが、少なくとも駿輔に死んでほしいとは
考えてはいないと思う。それよりも、文哉の親として、やらなければならないことを駿輔に果たしてほしいのではないかと感じる。
駿輔にとっては辛いだけだろう。死ぬことも許されない。生きて償いきることも出来ない。それでも、駿輔にしか出来ないことなのだ。


双葉の元に文哉から電話がかかってくる。妹の口から出るのは「深見さん」の名ばかりで、文哉は苛立ったのかもしれない。
「双葉が嫌だって言うから、こんなことになった。双葉のせいで、また人を殺した。」と詰る文哉にショックを受ける。
あの時もそうだった。双葉が文哉に殺されなかったから、亜紀が死んだ。ここでもまた、15年前と同じ苦しみが繰り返されようと
していることに愕然とした。文哉の勝手な言い分には怒りを覚えるが、彼は双葉に甘えているのかなとも思う。
15年間誰にも甘えられず、本当の自分を見せずにきたのだろう。雪絵がもしかしたらそういう存在になったのかもしれないが、
自分でぶち壊してしまった。あれ以来「誰かを想ったり想われること」はなかったのだろうし、その分、双葉に寄せる思いが
深いのだとも感じる。「また人を殺した」と言う文哉は、双葉には本当の自分を、「殺す僕」を隠さなくなった。
そんな自分を受け入れてくれるのは双葉だけだと考えているのだと思う。


文哉は双葉を追って「釣堀ふかみ」に辿り着くが、妹とは入れ違いで、代わりに亜紀の母・響子と対面する。
最初は恐怖に駆られていたが、次第に激昂していく響子。
自分のしたことについて「そういう病気なんです。病気って、自分じゃどうしようもできないから・・・。」と言い募る文哉を張り倒す。
大の男と死に物狂いで格闘して、恨みと憎しみの言葉をぶつけ、一歩も引かない響子。真岐に続いて響子と、文哉は二人の母親と
対峙しているが、文哉への恐怖が勝っていた真岐に対して、響子は怒りのあまり恐怖を凌駕してしまっている。響子の壮絶な
戦いぶりに文哉は完全に圧倒されていた。
「あなたが中学生だったとしても、心を失ったんだとしても、私はあんたを許さない!!殺せるものなら殺しなさい!
あなたが死ぬまで、私は絶対に死なないから!!」
15年間ずっと言ってやりたいと思い続けてきた言葉だったと思う。恨みと憎しみの言葉で思い切り罵ってやりたいと思ってきたはずだ。
しかし、返ってきたのは「三日月湖に浮かぶ亜季ちゃん、綺麗だった。だからおばさん、そんなに落ち込まないで。」という
文哉の答えだった。絶望と怒りのあまり、そばにあったイスで文哉の頭を殴りつける響子。
響子の憎しみを真正面で受け止めたことで、文哉の重しのようなものが完全に外れてしまったような気がする。
文哉は、少なくとも、双葉以外の人の前では「殺す僕」を認めようとはしなかった。殺したことを覚えていない、もしくは
思い出したくないのは、それを自分で認めたくないからだろう。でも、響子には亜紀を殺したことを認めた。
「人を殺してはいけない」ということを、本当の意味で理解していない自分を見せた。殆どやけくそになっているのかもしれないが、
「殺す僕」を隠して生きることに限界が近づいているのだと思う。
響子の絶望も深い。恨みと怒りの言葉をぶつけても何も届かない。今の文哉にはどんな言葉を言っても届かないのだ。
洋貴と響子は「亜紀を取り返す」ため、「人生を取り戻す」ために、文哉に会いたいと望んできた。しかし今の文哉からは
何も取り戻せない。何かが返ってくるとすれば、それは文哉が自分のしたことを本当の意味で理解した時だと感じる。
そんな日が果たしてくるのだろうか?


双葉は駿輔と病院で再会。娘と話す駿輔を見て、五郎の抑えていた感情が爆発する。
「あんた娘がいるのか!?返してくれ!俺の娘返してくれ!!娘返せ!!」と駿輔に掴みかかる五郎を警察が引き離す。
正直、五郎にはもっと言わせてあげてほしかった。よくここまで保ったと思う。15年間言えなかった響子よりはマシなのかも
しれないが、五郎の今後の為にも、負の感情をもっと吐き出した方が良いようにも感じる。それを受け止める駿輔は辛いだけだろうが、
これも今の駿輔にしか出来ないことだと思う。


「死にたい。」と思わず呟いた双葉を「死ぬとか言うなよ!!」と怒鳴りつける洋貴が印象的だった。
「できるものなら、何もかも忘れて、何もかも投げ出して、どこか遠くの、僕らのこと、誰も知らないところに行きたい。
二人だけで。」切ない告白が胸に迫ってきた。
前回、双葉が語った「洋貴さんに靴と靴下を買ってあげたい。あと、深見さんの為に、ごはんとか作ってあげたい」という言葉も
控えめで心温まる愛の言葉だと思ったが、同じくらい控えめに吐き出された洋貴の告白に思わず涙した。
被害者家族で、加害者家族で、なのに、いつ間にか互いの胸に芽生えていた想いを、ついに口にしてしまった。
本当はもっとずっと前から思っていたし、言いたかったのだと思う。それでも、二人の顔に笑みはない。
いつか、心の底から「やったーっ」てなれる日が、二人にも来るのだろうか? (クーラン)