それでも、生きてゆく 第6回感想

<あらすじ>洋貴(瑛太)と響子(大竹しのぶ)の元を、家出した双葉(満島ひかり)を捜して隆美(風吹ジュン)が訪れ、
そこに駿輔(時任三郎)も駆け付ける。2人は改めて響子に事件のことを謝罪しようとするが、なかなか切り出せない。
双葉は祖母が入所する施設で文哉(風間俊介)と再会。15年間の空白を埋めたい双葉は、帰ろうとする兄の後をついて行く。


今頃、第6回の感想です。お、重い。今回も物凄い回だった。
駿輔・隆美と響子・洋貴が一堂に会する。響子の対応が意外だった。塩を撒いて追っ払うのかと思ったが、とりあえず
「お茶」を出して訪ねてきた人への礼を尽くそうとする。しかし、平静を装っても彼女の動揺は明らかだ。響子のすすめで、被害者家族と
加害者家族が素麺をつつき合う昼食の図は、なんとも不可思議で間抜けだった。これほど味のしない食事があるかと思う(笑)。
それでも彼らと話をしようとする響子に驚いた。お茶を淹れながら「違う・・・」と言っていたが、あれはどういう意味だったのかなと
思う。響子は、加害者家族を「殺したいほど憎い相手」と言っていた。だから会いたくないと言っていた。でも、実際に顔を合わせると、
彼らを「殺したい」とは感じなかったのかもしれない。謝罪しようとする駿輔達の機先を何度もそぐ響子。謝罪の言葉を聞いて
平静でいられる自信がなかったのだと思う。徐々に壊れていった家族の思い出と亜紀の思い出をぽつぽつと語りだすが、
更に謝罪の言葉を口にする駿輔に「だから!!そうじゃなくて!!」と拳を振り上げる。でもその拳は振り下ろせなかった。
「あっちはあっちで色々あったんだ。と思ってしまったから」と言っていたが、響子にそんな感情が去来したこと自体が、
大きな変化だと感じる。
本来ならば、こういうことはもっと早くにやっておくべきだったのだろう。15年前の響子なら叩いていたと思う。
その時叩いて罵っていたら、その後の響子は変わっていたのだろうか?
私には分からないが、響子が彼らを叩けないのは、苦しみ続けてきた駿輔達の痛みが、今では分かってしまうからだと思う。
そして、この人は今、誰かに話したいのだとも思った。亜紀のこと、壊れた家族のこと、響子はこれまで誰にも話さなかった。
でも、ようやく話したいと思い始めた。誰かに話すことで、自分自身を見つめようとしているのだと思う。でも、話す相手は
誰でもいいというわけではない。響子はなぜだか、駿輔達に聞いてもらいたくなったのかもしれない。
前は無意識に双葉に打ち明けていた。それは偶然ではなくて、彼らに同種類の人間の匂いを感じたからだと思う。
罪の意識に苦しんできたことや、何かを心から喜ぶことが出来なくなってしまった感覚。どこか似たような気配が漂っている。
そんな心で生きてきた人同士だからなのだと、なんとなく理解できる。


「自分なら洋貴の悲しみを半分に分けあえる。双葉は洋貴の悲しみを2倍にする人だ」と五月(倉科カナ)は言う。
その通りだと思う。被害者家族と加害者家族が顔を突き合わせても、互いに苦しい思いをするだけだ。
それでも、五月と洋貴は「同じ」ではないのだと思う。生きていることにずっと負い目を感じていた。負い目に押しつぶされそうに
なりながら死ぬことも出来なかった。そんな風に生きてきた洋貴に一番近いのは、同じような生を生きてきた双葉なのだ。
そして、響子も同じことを感じているのだと思う。

 
その双葉はついに文哉と再会する。15年ぶりの再会で感極まる双葉に対して、まるで昨日別れたかのような自然な反応の文哉に、
とてつもない違和感を覚えた。事件の記憶が無いのかと思ったほどだったが、双葉の近況を聞くと「就職できなかったか・・・。
学校でも嫌な思いさせられたか?・・・あいつら!」と呟く。「あいつら」とは誰を指しているのか。双葉以外の家族のことか、
それとも「世間」を指すのか。どちらにせよ、これまで双葉が嫌な思いをしてきた元凶は文哉であって「あいつら」ではない。
しかし、文哉にはその自覚もないようで、言葉の端々に何か釈然としないものを感じる。
それでも文哉は、ようやく辿り着いた双葉の居場所なのだ。「一緒に連れてって!」と縋る姿に、家出以来、切実に「居場所」を
求めていたことが分かる。それすら失くしてしまったら、双葉が生きる意味も無くなってしまう。そして、今の文哉も双葉のことを
同じように考えているのかなと感じる。「二人で因島に渡ろう」と妹を急かす文哉を見ると、この人も寂しくて仕方がなかったのかな
と思う。互いの存在にしがみつくような兄妹の図がなんだか息苦しく感じた。


双葉は洋貴を呼び出すと、文哉と会ったことを告げる。文哉の居場所を迫る洋貴に「ゴリラが好きだったことを、お兄ちゃんは
覚えていてくれて、だから動物園に連れて行ってくれた」と答える双葉。それは「優しいお兄ちゃん」の思い出に逃げて、
事実から眼を反らしていた以前の双葉と同じ。突然の双葉の決別にショックを受ける洋貴。「裏切られた」という感情が
一番近いのではないかと思う。被害者家族と加害者家族で、「悲しみを2倍にする相手」で、それでも、つぶれそうな二人だから
一緒でなければここまでやってはこられなかった。芯の部分で分かりあえていると、互いにそう思っていると、どこかで
信じていたのだと思う。「僕とあなたは、元々立場が違う」込み上げる怒りを抑え、自分に言い聞かせるように呟く洋貴の姿が
印象的だった。どんなに失望しても、今の洋貴には、双葉のことを、以前のように「敵だ」とは思えないし、言えないのだ。
「お疲れっす」と微笑んで去ろうとする洋貴。約束通りに「優しくしてくれる」洋貴の袖に思わず縋り付いてしまう双葉。
自分の居場所を確保するために洋貴と決別した。でも双葉が切り捨てたものは、「居場所」よりもっと近い存在ではなかったのか。
まるで自分が切り捨てられたかのように立ち尽くす双葉の姿が痛々しかった。


双葉は考え抜いた揚句、「洋貴に会って、反省しているところを見せてあげてほしい」と切り出す。しかし返ってきたのは、
「何でお兄ちゃんが反省するんだ?」という文哉の言葉だった。
これには愕然とした。前々から文哉のあの絵にはどんな意味が込められているのかと思ってきた。あの絵は「反省していない」と
解釈するのが正しいのか、もしかしたら「深い罪の意識が美しく描かせている」という考え方もあるのかもしれない。
それとも全く違う意味が込められているのだろうか。出来れば「自分が犯した罪を認めて反省した。」という意味であってほしいと
願っていた。でなければ、双葉の苦しみが報われない。でも現実は違っていた。文哉は反省していなかった。
「亜季ちゃんは天国に行ったんだ。」と口走り、たった二人の兄妹なのに、何でそんなこと言うんだ?」と双葉を詰る文哉。
「自分と同じ」である双葉に理解されないとは思ってもみなかったのだと思う。昔の双葉なら、きっと自分に寄り添ってくれたはず。
だから否定されて、思わず本当の自分を見せてしまう。
でも、妹が文哉と同じでいられなくなったのは、他ならぬ彼自身のせいなのだ。あれから15年、色々な思いが双葉を変えて、
目の前の妹は「お兄ちゃんが亜季ちゃんを殺したんでしょ?」と迫ってくる。双葉も、絶対に信じたくない、口が裂けても
言いたくない言葉だったと思う。「私と深見さんは一緒なんだよ。15年間、立場は全然違うけど似たような思いで生きてきた」
と語る妹は、いつの間にか遠い存在になっていた。文哉もまた双葉に裏切られた思いを抱いたのかもしれない。
どんなに慕っていても、今の文哉が自分の「居場所」になることは絶対にないのだと、双葉には心底分かってしまったのだと思う。


洋貴とも文哉とも離れてしまった双葉はどうなるのか心配。本当の文哉を知るのが怖いです。(クーラン)