それでも、生きてゆく 第9回感想

<あらすじ>傷害事件の容疑者として警察から指名手配された文哉(風間俊介)が遠山家にやって来る。隆美(風吹ジュン)ら
家族が動揺する中、双葉(満島ひかり)は犯した罪の重さを文哉に説く。双葉から連絡を受けた洋貴(瑛太)は遠山家を訪問。
ついに文哉との再会を果たす。


今頃、第9回の感想です。お、重い。今回も物凄い回だった。
洋貴が双葉に語った「心はどこにあるのか?」という話が興味深い。
「人体模型には内臓の全部があるけど、心はどこにもない。自分はこれと同じなのかと思っていた。文哉もそうかもしれない。
心がないのかもしれない。だったら話なんかできない・・・。」
これまで洋貴はずっと文哉に会いたいと望んできたが、それは復讐の為だと本人も思ってきたはずだ。それが、「何を話すのか?」
そもそも「話なんて出来るのか?」と考えている洋貴は、文哉に対する思いが微妙に変化しているようにも見える。
それは「ついこの前まで、文哉と自分は同じだったのかもしれない。でも今は違う。」と洋貴が確信しているからではないかと思う。
洋貴と文哉の違いはなんなのか? 洋貴自身が知りたいと思い始めているからではないかと思う。


文哉が突然遠山家を訪れる。隆美が差し出したスリッパを「お客さん用でしょ」とよけ、自分がいない家族写真を見つけて顔を歪ませる。
「何十年でも待つから」と、自首をすすめる駿輔には「また僕を見捨てるんですか?」と切り返す。あの時、文哉は駿輔に
気が付いていたのだ。愕然とする駿輔。「捨てたんだよね。邪魔だったから。」と静かに詰る文哉に、「すまなかった」と
謝ることしかできない。文哉にとっては、これが駿輔との15年だった。
しかし、文哉を見て、「心がない」とはどういうことなのか?と考えてしまった。
文哉の家族に対する一連の言動は、「自分も家族の一員なのに!」という強い主張や、「それなのに見捨てられた」という
嘆きが見て取れる。「心がない」なら、そんなことで傷つきはしないだろう。
「取り返しがつかないんだよ!命奪ったら、もう償えないんだよ!」と言う双葉に「死んだ人はそこで終わりだけど、
殺した方は生きてかなきゃいけないんだよ!お兄ちゃんかわいそうなんだよ。」と返す文哉。
身勝手極まりない言い草だが、これを聞いて「この人は本当に14歳のままなのだ」と思った。自分の目線でしか物事を捉えることが
出来ない子供が「なぜ分かってくれないのか!」と地団太を踏んでいる姿に見える。何かトラウマがあるのだろうが、
命の重さを理解していないという点では、小学生以下の倫理観しか持ち合わせていない。「心がない」というよりも「子供のまま」
という気もする。そんな自分はおかしいとどこかで感じてもいたのだと思う。その状態で、社会で生きていくうちに、
段々と摺合せが出来なくなってしまったのではないか。真岐(佐藤江梨子)の件は、起こるべくして起こってしまった出来事の
ような気がする。久しぶりの家族に「本当の自分」で接する文哉。本来なら、これも15年前にやっておかなくてはならない
ことだったと思う。心を取り戻すことができたのかもしれない。文哉は祖母の居場所も、家族の引っ越し先も把握していた。
立ち寄る先々で日向夏を置いていたのは、家族に自分を見つけてほしいというメッセージのように思える。こうなる前に迎えに
来てほしいとずっと願っていたのかもしれない。遠ざけながらも、家族の存在が心の隅にあったのだ。「心がない」文哉の唯一の
拠り所だったのかもしれない。そして文哉の家族は、あくまでも駿輔と双葉だけなのだ。


「心がない」文哉と再会した洋貴は、予想通り文哉と話すことは出来なかった。「何を話すのか」以前に殴り合うことしか出来ず
文哉を取り逃がす。しかし、洋貴はなぜか包丁を持って行かなかった。
「良かった。深見さんには人を殺して欲しくないから。」と双葉は言うが、洋貴には納得出来ない。
「これから一生、またあんな思いしながら生きていけというのか。責任能力がない!そう言って、また裁判されないまま出てくる。
平気な顔して、どこかで暮らして、そしてまた同じことを誰かに・・・。」と叫ぶ洋貴に、何も言い返せない双葉。
「そんなことあるはずがない」と言えたなら、どんなにいいだろう。しかし、現実は洋貴の言う通りになっている。
五郎(小野武彦)の果樹園で真岐と悠里の記念樹に添えられた写真の幸せそうな笑顔を見て、文哉の罪の重さを、まざまざと
見せつけられる双葉。文哉の存在が、幸せな親子の未来を奪い、洋貴の将来をも奪おうとしている。それが事実なのだ。
泣きながら何かを決断した双葉の瞳に不安なものを感じる。


「本当に双葉を大事に思っているなら復讐なんて考えは捨てたほうがいい。それは双葉を追い詰めるだけ」と五月(倉科カナ)は言う。
復讐をやり遂げたとしても、洋貴と双葉に何が残るというのか。本当に支え合う関係なら、未来を考えるためのものにしなければ
ならないということなのだと思う。そんな言葉にも励まされ、ようやく洋貴が出した答え。
「心って大好きな人から貰うものだと思う。僕は、亜季から、父から、母から、心を貰った。人を好きになると、その人から心を貰える。
遠山さん、あなたからも貰いました。だから、復讐より大事なものがあるんじゃないかって・・・。」
そう双葉に語りかける洋貴の顔は、霧が晴れたような表情を浮かべている。誰かを好きになるということは、その人から心を
貰うということ。心がなかった洋貴に父が生き直すきっかけを与え、双葉は支え合う関係をもたらした。洋貴はもう、心がない人間でも
無気力な人間でもない。ならば、生きていかなくてはならないのだと思う。本当の意味で生きていると思える日々を送らなくては
ならないのだと思う。
皮肉なことに双葉は洋貴と真逆の決意を固めている。誰からも心を貰えなかった兄を楽にしてやれるのは自分だけと思いつめている。
洋貴の未来のために哀しい決意をする双葉。兄が大好きな双葉にそんな事が出来るのだろうか?(クーラン)