それでも、生きてゆく 第10回感想

<あらすじ>逃亡中の文哉(風間俊介)は、実の母親の面影を探すために因島を訪れていた。洋貴(瑛太)は行方をくらました
双葉(満島ひかり)を心配し、心当たりのある場所へ向かう。そこで双葉と再会した洋貴は、共に文哉を捜し始めるが、
思わぬ形で文哉を発見する。


意味ないと思いますが、今頃、第10回の感想です。キツイ展開で、正直ひいてますが、ぽつぽつと書きます。
文哉は因島の祖父母に母親との思い出を語る。文哉の話から推察すると、父親は家におらず、母親は育児ノイローゼ気味だったとも
考えられるが、子供の記憶だからはっきりと断定も出来ない。しかし、母親が死ぬところを目撃したことが、文哉の人格形成に
大きく関わっていることは間違いなさそうだ。
「あんた達が生まれてこなければ何回もハワイに行けた・・・」そう言い続けていた母親が死んだ時、自分がいたから母親は
死んでしまった。自分の存在が母親を殺したのだと思い込んでしまったのだろうか(もしくは本当に殺したのか?)。
そのショックもあったのか母親の顔を思い出せないらしい。
父・妹・継母を殺す夢を何度も見たと言う。家族を心底憎んでいたわけではないのだと思う。自分の存在が母親を殺したのなら、
今度は家族を殺してしまうかもしれない。自分を怖れ、衝動と闘い続けていたのだと思う。文哉を止められるのは、記憶の中の
母親だけだったのだろう。「文哉は生まれてきて良かった」と記憶の中のお母さんが言ってくれれば、衝動は抑えられたの
かもしれない。でも、文哉は母親の顔を思い出せず、自分や家族に向けられるはずの暴力は関係ない亜紀に対して爆発してしまった。
他人の亜紀を殺したことで、文哉の中で命に対する敬意や怖れの感覚が完全に無くなってしまったのではないかと感じる。
心が無くなってしまったのだと思う。


隆美(風吹ジュン)の元を、響子(大竹しのぶ)が訪れる。響子に促され、この15年の思いを告白する隆美。
「あなたを憎んでいた。15年間あなたのことを考えて生きてきた。あなたには同情する人がいる。私には死ねと言う人がいる。
何の違いがあるのかと思った。娘が殺されたこと。息子が人を殺したこと。この苦しみに何の違いがあるのかと思った」
身勝手な言い分にもとれるが、この隆美の気持が漠然と理解できるような気もした。昔、知人に「自分の子供が殺されるのと、
人殺しの親になるのとでは、どちらがいい?」と聞かれたことがある。無神経で無責任な者同士の会話だったが、互いに答えは
出せなかった。どちらもこの世のものとも思えないほど辛くて苦しいことに違いない。
命だけは取り返しがつかない。立場は違えど、加害者家族と被害者家族が、事件の前の人生に戻ることは絶対にない。
癒えない苦しみを死ぬまで背負うという意味では違いはないのだと思う。
「響子が憎かった」と隆美は言っていたが、15年間ずっと響子を意識し続け、響子の家族よりも幸せな家族になるのだと
踏ん張ってきたのだろう。その一念でずっと双葉と灯里(福田麻由子)を守ってきた。嫌がらせも含め響子の存在が隆美を
強くしたのだと思うと、この二人は「憎しみ」だけではなく「母親」としても繋がっていたのだと感じる。遠くて近い苦しみを
背負った母親同士として、互いの気配を感じ取っていたのだと思う。
そんな隆美に「あなた達を許せる日が来るとは、今も思えない。でも私達は、被害者家族と加害者家族だけど、同じ乗り物に
乗っていて、一生、降りることは出来ない。じゃあ、行き先は一緒に考えないと・・・。」と語りかける響子。
無関係に暮らそうが、死ぬまで苦しみを背負って生きてなければならないのは同じ。ならば、互いに少しでもより良い人生を
送る道を考えたい。洋貴と双葉が懸命に模索しているものを、響子も見つけようとしている。でも、それは何なのだろうと思う。
文哉を更生させることが、それに当たるのかもしれないが、かなり難しい。事実、響子が積年の思いをぶつけても、文哉からは
何もかえってはこなかった。更生させることが出来なければ、洋貴達はより良い人生を送る事が出来ないのだろうか?
難しい問いだと思う。だからこそ、響子は隆美に呼びかけたのではないか。生きる為に一緒に考えよう、互いに知恵を出し合おうと。


ようやく五郎(小野武彦)に会ってもらえた駿輔(時任三郎)は厳しい現実を突きつけられる。五郎は真岐(佐藤江梨子)の
延命を中止しようとしていたのだ。もちろん五郎の本意ではない。しかし、このままでは莫大な金がかかり、孫に何も残せなくなる。
眠り続ける真岐の前で、延命拒否同意書にサインする五郎。
「今からサインする。父親が娘の命を諦めるところだ。目そらさんと、見とけ!」
親が子供の命を断ち切る場に立ち会う駿輔。これほど残酷な罰はあるだろうかと思う。
でも、五郎も駿輔に対する怒りや憎しみの感情だけで、こんな目にあわせているわけではないのだと感じる。くしゃくしゃになった
延命拒否同意書は、五郎の深い迷いの現れだ。一人だけでは、どうあっても、やり遂げる事が出来なかった。だから、その行為を
見届ける相手に駿輔を選んだのだと思う。五郎も駿輔達と同じ乗り物に乗ってしまったのだ。駿輔に対する感情や対処しなければ
ならない現実。降りかかった理不尽なこと全てに向き合う五郎の悲痛な嘆きに涙した。


洋貴と双葉はプールで自殺を試みる文哉と遭遇する。文哉を殺すために持ち歩いていたナイフで、彼の戒めを解く洋貴。
半狂乱で文哉にすがる双葉。双葉も兄を殺すつもりだったのに、いざとなったら一番に文哉の命を心配した。これも一つの
家族の姿なのだと思う。駿輔も双葉も、こんなに苦しみ、困らせられても、それでも文哉に生きていてほしいと無意識に願ってしまう。
好きだとか、嫌いだとかでは言い表せない複雑な感情。簡単に断ち切れたらどんなに楽かと思う。今では洋貴も、そんな双葉の気持が
理解出来てしまうのだろう。もう一度、文哉を信じてみたいと今の正直な気持ちで語りかける洋貴。
「死んだら、殺したら、悲しみが増える。増やしたくなかったら、悲しいお話の続きを書き足すしかない。
今朝、トイレで朝日を見たんだ。楽しくても、辛くても、幸せでも、虚しくても、生きることに価値があっても、なくても、今日は始まる。
あの便所の窓からは、この15年間毎日ずっと今日が始まるのが見えていたんだ。俺、お前と一緒に朝日を見たい。
一緒に見に行きたい。もうそれだけでいい。」
双葉にとって朝日は生きる希望。今朝、同じ空の下で、同じ朝日を見て、洋貴も同じことを思っていた。そして、それを文哉と
一緒に見たいと言ってくれた。双葉にとっては、今までの苦しみが報われる、そして救われる言葉だったと思う。


しかし、文哉から返ってきたのは「ごはんまだかな。お兄ちゃんお腹すいてんだよ。」という言葉。
「自首すればいいんだろ。謝ればいいのか。ごめんな、洋貴。双葉、ごめんな。」心がない人間が発っした、ただの音声だった。
愕然とする洋貴と双葉。兄妹なのに理解しあえないと決定的に悟った瞬間だったと思う。
父も妹も今の文哉には用がない。文哉にとって意味のあるものは、顔も覚えていない母親との記憶だけなのだ。
生まれてこなければよかったと言われた文哉。この世に存在することを否定されたままの文哉。そのまま大きくなって、人間なのに、
善悪の意味も人の命の重みも理解できない生き物になった。心がない人間には、悲しみも希望も感じとることは出来ない。
苦しんだ末、洋貴と双葉が辿り着いた先にいたのは、この理解しがたい人間だった・・・。


心がない人間の前では、人の苦しみも、怒りも、真心も無力だった。洋貴と双葉は物語をどう書き足していくのだろうか?