リミット-刑事の現場2- 最終回感想

既に放送は終了したが、「リミット-刑事の現場2-」の最終回の感想をひっそりと。
〈あらすじ〉茉莉亜(加藤あい)を誘拐したまま黒川(ARATA)が失跡する。
さらに、東野(杉本哲太)の判断ミスで黒川との裏取引に失敗。
冷静さを失い暴れる啓吾(森山未來)は、捜査から外されてしまう。
そんな時、黒川から梅木(武田鉄矢)に電話があり、「啓吾をかつてのお前と同じ目に遭わせる」と言う。
梅木は、黒川の居場所はかつて自分の恋人が殺された場所だと直感。啓吾とともに直行する。


いよいよ最終回。今回もこれでもかというほど、人間の境界が描かれている。
茉莉亜を誘拐した黒川に衝動的に銃を向け「殺す!」と叫ぶ啓吾。
梅木に静止されるが、冷静さを失って暴れまわり、捜査からは外されて軟禁状態に。
狂乱の果て、梅木に「茉莉亜が死んだら、俺は黒川を殺してあんたも殺す」と言う。
これまで刑事という仕事に誇りをもち、愛や優しさをうたいあげていた啓吾はどこへいってしまったのか。
「お前も憎しみで心がいっぱいになれば人を殺す奴だ。」と言っていた梅木の言葉を思い出す。
人間がいとも簡単にその境界を超えようとする姿をここでも見せられる。


梅木は、その啓吾の姿に自身を見る思いだったのではないだろうか。
この18年復讐のことだけを考えて生きてきた自分は、いつの間にかこういう人間になっていたのだ。
幸せな記憶はどんどん薄れ、憎しみしか残っていない自分。
黒川を憎み、黒川を生んだ社会を憎み、警察組織を憎み、神を憎んだ。これは試練なのか?
試練ならもうすぐ終わるのか?試練の終わり(復讐)は刻一刻と近づいている。
しかし、それが梅木にもたらすのは決して救いなどにはならない。梅木にも筒井(若村麻由美)にも
それが分かっている。それなのに、憎悪という感情の前では、人間は為す術がないのかと思わされる。


茉莉亜もまた黒川によって人間の境界を試されていた。
恋人をひき逃げした犯人・大石(モロ師岡)を黒川が拉致してくる。
すぐ病院に連れて行ってくれたら助かったかもしれないのに、どうして逃げたのか。
思わず憎しみの言葉をぶつける茉莉亜。しかし大石は、もう勘弁してくれ。自分は罪を償ったのだ。
あれから家族は世間に迫害され今では会うことも出来ない。これ以上どうすればいいのか。と泣く。
大石の叫びに思わず絶句する茉莉亜。しかしその様子を眺めていた黒川は、大石をクズと罵り
「どいつも自分のことばかりで人の痛みを分かろうともしない。人間は終わっている。」と言う。


確かに、大石の言っていることは殆ど逆ギレだし、茉莉亜達に負わせた心の傷を思えば、
お前は死ぬまでそんなことを言えた立場ではないはずだ。と思う。
でも、大石はそんなことは分かりすぎるくらいに分かっているような気がする。「罪を償った」と
言っていたが、法律上の罪を償っても、人一人の命を奪った罪の意識は死ぬまで消えることはない。
家族にも会えず、世間の目を気にして、生涯その罪と向き合わなくてはいけない。
それは当然のことだと分かってはいても、どうしようもなく辛くなる時もあるだろう。
茉莉亜の一言は、大石がこの数年考えないようにしてきた辛さをぶちまける呼び水となったのだと思う。
彼をクズとは思わない。しかし、人間はどうしようもなく弱い生き物なのだ。ということを、
自分のことのように感じた。


黒川は茉莉亜に、自身の解放と大石の命のどちらかを選べと迫る。
命乞いする大石を見下ろす茉莉亜の姿に彼女が人間の境界を越えることを確信する黒川。
しかし、大石に近づいた茉莉亜は「ごめんなさい。私はあなたが苦しんでいることに気が付かなかった。
あなたを許します。」と呟く。泣きながら「ありがとう。」と告げる大石。
この礼の言葉は、命を救ってくれただけに対してではないように感じた。
出口の見えない辛さを抱える大石は、誰かに許すといってほしかったのだと思う。
命と慈悲を大石に与えた茉莉亜。彼女は自分の意思で人間に踏みとどまったのだ。
灯世といい茉莉亜といい、黒川の歪んだ願いは叶えられることはない。


そして、ついに梅木の恋人が殺されたマンションで黒川との最終対決が為される。
黒川は18年前の再現として、殺害直前の灯世の言葉を茉莉亜に朗読させる。
「私は梅木さんを心から尊敬し愛しています。あの人はきっとたくさんの人を守り救ってくれます。
この世界は明るく希望に満ちていると教えてくれます。だってあの人は正義の味方だから。」
そして茉莉亜も自分の言葉で啓吾に語りかける。
「これからは未来だけ考えて生きてゆきたい。あなたは強い愛を持っている。だから自分を信じて。」


しかし、マンションに転がり込んできた啓吾は、目の色が変わり、唸り声を上げ黒川に飛び掛る。
屋上まで黒川を追い詰めていく啓吾の身のこなし、そして箍が外れたような表情はまるで獣のようで、
何が自分を怒りに駆り立てているのかさえ、この瞬間は分からなくなっていると感じた。
これが啓吾の、というか人間の本来の姿なのかと思わせる。
これが人の最終的な姿なら、確かに人間は終わっている。怒りで我を忘れた啓吾に黒川が囁く。
「殺せよ。俺はもう人間のフリするのはやめた。お前も早く正体を出せ!」
黒川の望みは希望に満ちた世界で生きることではなく、人を自分と同じ獣に貶めることなのだということ
がよくわかる。その為なら、例え死んでも本望なのだ。まさに悪魔の挑発に乗ろうとする啓吾。
しかし茉莉亜の呼びかけが啓吾を我に返らせる。
だが、もう一人の悪魔は黒川に拳銃を突きつけ啓吾に告げる。
「こいつは俺が殺す。俺はもう生きていく気力がない。」そんな梅木に啓吾が語りかける。
「こいつ殺した時点であんたの負けだ。あんたもこいつと同じ獣と成り下がる。
確かに人間は終わってる。でも俺は愛を武器に憎しみと一生闘い続ける。だから見届けてほしい」


ついさっきまで獣のようだった啓吾の言葉には若干説得力がないようにも感じたが、逆に境界を漂った
人間だからこそ言える宣言なのだとも思えた。
啓吾の言葉に、復讐を断念する梅木。灯世の名を叫び慟哭する。
梅木が灯世を失った哀しみに向き合うのは、もしかしたらこれが初めてなのかもしれないと思った。
憎しみに凝り固まって顧みることのなかった灯世の喪失を初めて感じて流す涙なのだ。


最後の審判は終わった。黒川は捕まり、梅木は警察を辞める。啓吾は梅木に告げる。
「本当は怖いです。どんなに人を愛しても憎しみの塊になるかもしれない。」
そんな啓吾に梅木は答える。「無駄と分かっていても、諦めるよりも、人を愛する方がマシだ。」
そして、声高らかに叫ぶ。「加藤刑事の健闘を祈ります!」


人間は終わっている。世界は暗く希望も見いだせない。
こんな世の中を照らす灯など無いのかもしれない。しかし、そんな世界を愛という脆い武器だけで
生き抜こうとする啓吾に、梅木が送る心からのエールなのだと思った。
途中から奇跡的に光が差し込むラストシーンは、非常に美しく感じられ、その重い余韻とともに
いつまでも心に残る名シーンになった。


キャストは森山未來武田鉄矢ともに出色。特に齢60にして野獣刑事を演じる武田氏には圧倒された。
森山氏は初めの甘っちょろさと、最終回、獣化した啓吾の解釈と演技が非常に素晴らしく目を逸らすこと
ができなかった。また、ARATA氏の黒川は、当初虐げられてきた者という雰囲気は感じさせなかった
が、これほどの悪魔を、役に喰われず演じられる役者はこのARATA氏くらいだったと思う。
あと、逆セクハラ上等のやさぐれ女刑事を演じる若村さんが、かっちょ良かったです。


毎回、様々な形で人間のリミットを描いた本作。役者と脚本家と演出家ががっぷり組み合って、
最高の内容とテンションのドラマを毎回私達に届けてくれた。
愛と憎しみが共存する人間という存在の不確かさ、脆さ、強さに、毎回考えさせられました。
素敵なドラマありがとうございました。(クーラン)