それでも、生きてゆく 第4回感想

<あらすじ>双葉(満島ひかり)達が暮らす家を訪ねた響子(大竹しのぶ)は、駿輔(時任三郎)と鉢合わせる。
双葉は、洋貴(瑛太)と共にかつて住んでいた家に行くが、空き地となったそこには日向夏が置かれていた。
洋貴は、文哉(風間俊介)からのメッセ―ジではないかと考える。一方、名前を変えて果樹園で働く文哉は、過去を知る
紗歩(安藤サクラ)に付きまとわれていた。


今頃、第4回の感想です。お、重い。第4回は双葉の父・駿輔の苦悩が描かれる。
訪れた釣堀で、「双葉ちゃんでしょ。会いたくなかった・・・」と響子に言われた双葉は、いたたまれず出ていく。
響子は全てを知ってしまったのだ。「(双葉に)会いたくなかった」という響子の言葉は複雑な本音だと思う。業者に嫌がらせを
委託しても、響子はその詳細な内容を目にしようとはしなかった。現在の双葉の顔も知らなかった。写真を撮らせて確認すれば
いいものをそうしなかった。嫌がらせをしている対象、特に子供については深く知りたくなかったのだと思う。知ってしまえば
「嫌がらせ」へと駆り立てる気持ちが鈍ってしまう。顔を知らないからこそ、今まで酷いことが出来たのだと思う。
双葉と対面した時は強張っていた響子だが、昔の亜紀と双葉の思い出を語る時は優しい顔をしていた。双葉への気持は、
怒りや憎しみだけとも言えないような気もする。自ら達彦の位牌に手を合わせ思い出を語る響子を見て、ようやく達彦も許されたのかな
と思った。時折浮かぶ微笑みは、前回までは見られなかったもので、恐怖から少しだけ遠ざかったように見える響子の姿に、
せめてこのままでいてほしいと感じる。


双葉は、「被害者家族と会うべきだ」と家族に訴えるが、聞く耳を持たない。妹・灯里(福田麻由子)には「警察に訴えるべき。
賠償金請求されたらどうするの?」と言われる始末だ。
ここ最近ずっと洋貴と響子の苦悩を見てきた双葉には、彼らとの交流を敵対関係と決めつける家族の考え方に馴染めない。
賠償云々も現実的に考えなければならないことなのだろうが、今はまだそれ以前の問題なのだ。15年経っても一歩も前に
進んでいない。それは、文哉をなかったことにする両親にも問題があると双葉は気付いている。
その双葉に「文哉と会ったことがある」と告白する駿輔。「懸命に働く文哉を見て、何を言おうと家に連れて帰ろうと思った。
でも家族の笑顔が消えてしまうと思ったら出来なかった。家族を守る為に息子を捨てたんだ。」
音信不通だった息子に声もかけずに立ち去った父に失望する双葉。文哉を見た時、双葉は反射的に「お兄ちゃん!」と呼びかけていた。
それが家族というものではないのか?「文哉は人を殺したんだ。分かってくれ!」と言う駿輔を「分からない。酷いと思う。
親じゃないと思う。」とはねつける双葉。双葉がここまではっきりと父を非難するのは初めてなんじゃないかと思う。
これまでの双葉なら分かってくれていた。だから駿輔は非難されて傷ついただろう。でも、これは双葉がずっと両親に言えなかった
言葉なのだと思う。駿輔は家族を守ろうとしている、苦しんでいると分かっているから今まで言えなかった。
でもそれは、結局被害者家族を苦しめ、加害者家族である自分達も苦しめていることに、双葉は気が付いてしまったのだと思う。


訪れた釣堀で、水面に浮かんだボートの上、2人だけの空間に浸る洋貴と双葉。
「こういう所にいると、世界中何も悪い事なんかないような気がしてくる。過去も未来も世界中、怖い夜も何にも悪いことなしで。」
と呟く双葉。そこでは、二人は普通の男と女でいられる。「このままずっと・・・。」の後は、「ここでこうしていられたらいいのに」
と言いたかったのかもしれない。しかし「でもそれって、亜季もいなかったことになりますよね?」という洋貴の言葉に寂しく頷く。
亜紀がいなかったということは、あの事件がなかったということ。そしてそれは文哉もいなかったということになる。
あの事件がどんなに辛い出来事でも、亜紀が家族でない人生も、文哉が家族でない人生も、二人には考えられない。
二人は逃げないと決めたのだ。だから、双葉は父が哀しい。「人って逃げてばかりいると、命より先に目が死ぬ。可哀想なお父さん・・・」
逃げても、逃げなくても皆苦しんでいる。虚ろに呟く双葉の姿も哀しかった。


洋貴は駿輔と面談する。しかし、埒のあかない会話にイラついてくる。
「逮捕以来息子とは会っていない」「面会も拒否された」「会いたくなかったからだと思う」「それがどうしてなのかは分からない」
文哉が何故亜季を殺したのか。自分がしたことを、今どう思っているのか。何を質問しても何も分からない。
駿輔は苦しみに耐えて答えてはいるが、これが彼と文哉の15年かと思うと、無責任と言うか、他人事のように感じた。
ところが、ここで昔、近所に住んでいた女性が駿輔に気付き罵倒する。
「ネクタイも締めないでよく会えるわ。お宅の息子、女の子を殺したのよ!よく生きていられる。お宅昔から偉そうだったものね。
頭下げなさいよ!手突いて謝りなさいよ!人殺し!」
横やりで入った罵詈雑言の激しさにショックを受ける洋貴。その先には土下座している駿輔が。
このシーンには嫌悪感を抱いた。勿論、一番嫌悪したのは罵倒した女性だ。被害者家族の糾弾と関係のない第三者の糾弾は、
全くの別物だと思う。後者はいわゆる「世論」なのかもしれないが、過ぎるとただの「悪意」でしかなくなってしまう。
それに気づかないこの女性をイヤだと思った。
そして、土下座をする駿輔にも若干の嫌悪を感じた。大体、この謝罪は誰に向けたものなのだろうか? 
私には、洋貴に対してというよりも、女性が象徴する「世間」に向けたもののように思えて仕方がなかった。
事件前の駿輔は街でも目立つエリート然とした男だったらしい。それが息子が事件を起こした後は、日本中に叩かれ、職も奪われて、
住む所も転々としてきた。駿輔はそれを加害者家族の罪として粛々と受け止めている。罵倒されたことも数限りなくあったのだろうが、
その度にこの人はこうやって謝り続けてきたのだろう。しかし、この15年、この人は関係のない人には頭を下げ続け、一番謝罪
しなければならない相手とは、顔すら合わせていないのだ。店で女性に土下座する駿輔は罪と苦しみを全身で受け止めている。
真っ当な人だと思う。でも、この人は謝ることで問題をすり替えようとしている。洋貴にとってはまだ謝罪の段階ではないのだ。
事件の真相を何も知らないのだから。その洋貴の心意に駿輔は応えようとしない。家族を守るために息子のことを知りたくない。
世間に謝り続けることで思考停止しようとしている駿輔が哀しかった。


文哉を殺すという洋貴を止めることもしない駿輔に、洋貴は苛立って語り始める。
「死んだ父は、駄目な父だったけど、最後は覚悟していた。悲しいことや、恐ろしいことや理不尽なこと。そんな、逃げ出したく
なるようなことと、最後は向きあう覚悟をした。そんな父を、最後の最後に尊敬した。」そして、「双葉も文哉もお父さんっ子だと
言っていた。」と伝える。命が消える前、必死の叫びで息子を生き直させた達彦。家族を守る為に息子を捨てた駿輔。
どちらも同じ父親だ。でも、双葉はそんな駿輔を「親じゃない」と言う。
何かから家族を守ろうするうちに、いつの間にか駿輔は文哉の父ではなくなり、双葉の父でもなくなろうとしている。
そのことに、駿輔は気が付いたのではないかと思った。被害者の兄が加害者の父に息子と向き合うと決意させるというのは、
皮肉な展開だと思う。
しかし、妻の隆美(風吹ジュン)は文哉を断じて受け入れようとはしない。 
「この家に人殺しは入れません!」自分が双葉に放った言葉、それを今度は妻に投げつけられて絶句する駿輔。
親が子を断絶する。駿輔が今まで文哉にしてきたことを突き付けられているのだと思う。
しかし「お兄ちゃんは家族なんだから、受け入れるしかない。」と言う双葉と灯里にパニックに陥った隆美は禁断の一言を口にする。
「お兄ちゃんは、母さんが産んだ子供じゃないの。」そして「私はどっち?」と聞く双葉に答えられない隆美。
後悔してもしきれない痛恨の一言だったと思う。自分が産んだ灯里を文哉という災いから守りたい一心だった。
その瞬間は双葉の存在を忘れていたのだろう。泣き崩れる隆美に「いいよいいよ。」と力なく笑う双葉。
こんな時にも家族を気遣う双葉が哀しかった。
これまで、双葉が「生きたいとも思えない人生」を生きてきたのは、ひとえに家族を守るためだったと思う。その守るべき家族が
揺らいでしまった。洋貴が、駿輔に文哉と向き合う決意をさせなければ、こんなことにはならなかったのだろうか?
しかし、明かされた秘密は、あの事件にかかわることなのかもしれない。
「お兄ちゃんと双葉は、同じだよ。同じ夜を見たんだ。」双葉が回想する文哉の言葉は何を意味するのだろうか?(クーラン)