リミット-刑事の現場2- 第四回感想

既に第五回も放映されているが、「リミット-刑事の現場2-」の第四回感想をひっそりと。

〈あらすじ〉啓吾(森山未來)は茉莉亜(加藤あい)が姿を消し、悲嘆に暮れていた。
一方、梅木(武田鉄矢)は18年前に自分の恋人を殺して服役していた黒川(ARATA)が出所したと
知り、復讐しようとするが、東野(杉本哲太)に阻止されて軟禁状態に。
そんな中、梅木の予言通り、黒川が連続殺人事件を起こし、梅木と啓吾は捜査を開始。
黒川は少年を誘拐し、梅木に「命のリミットは8時間」と電話してくる。


今回は、「もう一人の悪魔」黒川が降臨する大変重要な回となっている。
冒頭、黒川に復讐しようとした梅木が、東野に阻止されて軟禁される。
そこで、梅木と東野の過去の関係が明らかにされる。恋人が殺害された時、踏み込もうとした
梅木を止め令状を取るよう薦めたのは、当時彼と組んでいた東野だったのだ。
「あれが正しかったのか正直分からない。だから、今まであなたを庇ってきた。
いつかは昔の尊敬していた梅さんに戻ってくれるだろうと信じて。でも、あなたには愛想が尽きた。」
梅木に告げる東野。しかし、その言葉とは裏腹に、東野が梅木を殺人犯にしたくないと、強く思っている
ことが伝わってくる。もちろん保身もあるだろう。しかし、東野もこの18年間苦しんできたのだ。
そして、それは梅木にとっては思いもしない事実だったのではないだろうか。
梅木は、東野のせいというよりも、自分の決断で恋人を亡くしたことを悔やんでいるのだ。
と当時に硬直した警察組織にも絶望したのだろう。しかし、東野がどんな思いで長い年月、
梅木の傍にいたのか、憎悪でいっぱいになった梅木には推し量ることが出来なかったのだ。


啓吾と茉莉亜も辛い局面を向かえている。梅木の問いかけにより目を背けていた闇に向きあう茉莉亜。
彼女の眼には啓吾もお腹の子供も映らない。思考はひたすら過去の事件に向かうばかりだ。
必死に気持ちを留まらせようとする啓吾に「どうしても比べちゃうの。彼と啓吾を」と言い放つ茉莉亜。
残酷な言葉だと思う。しかしそれを知りながらも言わなくてはならなかった茉莉亜の辛さもよく分かる。
「愛」とか「忘れる」とかだけの問題ではない。理不尽な事件で幸せを失ったことに対する無念に
向き合わなくては、彼女には人生の続きなど考えられないのだろう。
啓吾の優しさ故に今まで言えなかった一言。
それはとても残酷だけど、彼女が自分勝手で浅はかな女性だと思うことは出来ない。


そして、今回、ついに黒川が登場した。初登場は墓地で茉莉亜と出会うシーン。
演じるのはARATA氏で、一見穏やかそうな顔立ちの彼からは悪魔の片鱗は窺えない。
しかし、出所後すぐに自分の父母を殺害する。母親に手をかけるまでの件は非常に恐ろしく、
また彼がこれまで味わってきた痛みや絶望を垣間見ることが出来た。
そして、その黒川と電話越しに会話する梅木。まるで恋焦がれた相手と語り合うかのような表情。
そしてみなぎる緊張感にひと時たりとも目を逸らせなかった。
梅木にとっては、18年間待ち望んでいた復讐の相手。
一方、黒川も自分を虐げてきた人間に復讐することだけを望みに刑務所での18年間を過ごしてきた。
愛されなかったから黒川が両親を殺したことを理解する梅木。
電話越しの会話だけで梅木が長い年月不幸だったことを悟り、嬉し涙を流す黒川。
追う者と追われる者の関係でありながら、手に取るように互いの心理を理解している二人に、
何とも言えない皮肉を感じる。


そして、皮肉というか、二人が悪魔に変わった原因についても考えさせられた。
黒川はなぜ梅木の恋人・灯世を殺したのか?それまでの黒川の人生は、家庭でも学校でも職場でも
常に虐げられ続けてきた。そして、黒川はおそらくそれを受け入れてしまっていたのだと思う。
しかし、灯世と梅木が心から愛しあい信頼しあっている姿を見せられ、それまで世の中に対し
積もり積もっていた恨みが、愛の象徴のような二人に向ったのだ。
そして、梅木に不幸のどん底を味わわせ悪魔に変えた。
しかし、人間のリミットを越えた黒川は、もう人に戻る必要はないと考えたのではないだろうか?
虐げられてきた自分でも、人を不幸にすることが出来る。
愛されたことがない黒川はそのことに恐れも躊躇もない。
リミットを越えたことで、黒川は自分に「復讐」の権利があると気が付いたのだ。
梅木と灯世の深い愛情が黒川の歪んだ怒りを爆発させ、それが梅木を憎悪の虜とさせた。
そう考えると、なんて皮肉なことなのだろうと思う。


しかし、梅木は「リミットを越える」ことが出来るのだろうか?
後半灯世の思い出を語る梅木は、幸せな記憶はどんどん薄れ今の自分には憎しみしか残っていないと
言う。長い間、黒木を恨み続け、何がこれほどまで自分を憎しみに駆り立てるのか、もう分からなく
なっているのだと思う。いつか啓吾が「人間が思いのままに人を殺せば動物と同じになってしまう」と
言っていたが、そういう意味では、今の梅木は憎しみの感情に囚われた動物に近い存在になると思う。
しかし、灯世とやっていたゲームに興じることで、彼女の思い出を留めておこうとする梅木は
寂しく哀しい人間にしか見えない。
第一話から繰り返し挿入されてきたこのゲームは、梅木を人間に繋ぎ止めておく儀式のように感じる。


しかし人間のリミットを遥かに越えた黒川は茉莉亜を誘拐する。
それに対する啓吾の行動に驚かされた。衝動的に黒川に銃を向け「殺す!」と叫ぶのだ。
梅木よりも早く臨界点を超えようとする啓吾。これが啓吾の本当の姿なのだろうか?
そして、啓吾と梅木は「悪魔」に勝つことが出来るのだろうか?
次回は最終回。なるべく早く見ます。(クーラン)