黒執事総評(ネタバレあり)

黒執事が終わった。面白かった〜。半年間存分に楽しんだ。


19世紀後半、ヴィクトリア朝時代の英国(のパラレルワールドと思われる)。
その繁栄の陰には、女王(英国王家)の為、イギリス裏社会の管理や汚れ仕事を代々請け負い、
「悪の貴族」「女王の番犬」と恐れられ、忌み嫌われる一族がいた。
その名門貴族・ファントムハイヴ家当主シエルと彼に仕える漆黒の執事・セバスチャンの物語。
しかし、この完璧な執事の正体は、人間ではなく悪魔。
12歳の党首シエルは2年前の誕生日、何者かに両親を惨殺され屋敷を焼き払われた。
自身もどこかに監禁され家畜同然の扱いを受ける(原作では黒ミサの生贄とされる)。
その時に、悪魔を召喚し「復讐を果たすまでシエルの手足となり、彼を殺さず守り抜く」という契約を
結び、以降執事として仕えさせる。
契約終了後、シエルの魂はセバスチャンのものとなる事になっている。
両親を殺し、シエルを地獄に突き落としたのは誰なのか?


最初に原作を読んだ時、抱える背景の陰惨さとコメディ部分のブレンドがよく分からず困惑したが、
徐々に面白くなってくる。
本作の最大の面白さは、シエルとセバスチャンの拮抗する関係だと思う。
主と執事。捕食者と餌。契約者同士。互いが互いを支配し隷属している。
しかし、実際のところは少し違う。シエルはセバスチャンがいなければ脆弱な子供に過ぎない。
それを重々承知しながら「ゲーム(復讐)のプレイヤーは僕。貴様は駒だ。」と悪魔に傲然と言い放つ。
その誇り高い様が面白い。
対する悪魔には忠誠心等もちろんない。その行動原理は美学。
セバスチャンはその為に完璧な執事を演じ、最強の駒であり続ける。
そんなセバスを繋いでおくには、契約もあるが、揺るぎない自己を持つ悪魔好みの上等な魂で
あり続けなければならない。
そのせいだろうか。セバスチャンのドS発言が繰りだされるたび、なにやらエロスさえ感じる(爆)。

黒執事 I 【完全生産限定版】 [DVD]

黒執事 I 【完全生産限定版】 [DVD]

アニメ版は「マダムレッド」の死までは大体原作どおりだったが、それ以降はオリジナルストーリー
を多用。
純粋な憎悪を糧に生きる少年が全てをかけて臨むゲームの勝敗を描き、決着をつけている。
続いている原作をアニメで完結するのはとても難しいと思うのだけど、非常に思い切ったストーリー
展開で、とても面白かった。


後半は、シエルのアイデンティティが崩壊するような残酷な真実や出来事が次々と起こる。
その最たるものが、シエルが「番犬」として仕える女王の正体だろう。
アルバートを亡くし、嘆き哀しむヴィクトリア女王に「虐殺の天使」が忍び寄り契約を交わし、
女王の執事「アッシュ」となる。
女王は天使に言われるがまま、新世紀を迎えるため「一点の曇りなく輝く王国」を作ろうとする。
その為には、国に蔓延る「不浄」を一掃しなければならず、その手始めに「裏社会の秩序」
ファントムハイヴ家を闇に葬ろうとした。
シエルが捜し求めていた復讐の相手は、彼が忠誠を誓っていた女王(とその執事)だったのだ・・・。
原作にはない、この情け容赦ない展開には、唖然とさせられた。
他にも起こる様々な出来事が少年の復讐への決意を揺るがせ、そんなシエルをセバスチャンは
侮蔑の眼差しで眺めるが・・・。
アニメ版は、少年の決意が徐々にブレ始め、最強の駒を失い苦悩しながらも、やがて信念と誇りを
取り戻すまでの心の動きを、何話にも亘り丁寧に描いている。とても見応えがあった。


最終回、やがて訪れた「審判の日」。
業火の中、地獄絵と化したロンドンでついにラスボス「虐殺の天使」と対峙するセバスチャンとシエル。
ここの見せ方も非常に上手く「セバスチャンの本当の姿」を敢えて描かない演出等、原作への配慮と
センスを感じた。


しかし、最終回の凄みは、後半の殆どを、これから死を迎えるシエルと死を与えるセバスチャンの会話に
費やしているところだろう。
復讐が完結すれば契約は終了し、シエルの魂はセバスチャンに喰われる。
それをシエルは泣きもせず笑いもせず、静かに淡々と受け止める。
「最後の場所」に行き着くまでの旅路で、自分の人生を振り返り、出会った人々の自分への思いを
「ただ綺麗だと思う」と語る。
死へと向かう少年を包んでいるのは虚無や絶望ではない。初めての「安らぎ」なのだ。
現世での未来もない。来世もない。それでも、死をもってしか救われない魂もあるのだ。
それは哀しいことなのだけど、これはシエルがようやく得ることが出来た「安寧」なのだとも思えて、
なんだかとても不思議な感慨がありましたね。
ラスト、セバスチャンに顔を撫でられ魂を喰われる(であろう)シエル。
一人の少年が、新世紀を前に「時代の流れ」として淘汰される一族の運命を背負い、
考え、決断し、精一杯やり遂げた。
そして、最大の決断「悪魔との契約」にもきっちりオトシマエをつけた。
そういう物語として終わった。とても素晴らしかったと思う。


岡田麿里氏を初めとする脚本陣は、原作を生かし、広げに広げた風呂敷をきっちりと畳んでいて
本当に面白かった。
作画はたまに安定しない回もあったが、最終回のレベルが異常に高く目を見張りましたね。
声優陣は、そこここに漂うエロスを演出の意図通り演じる小野大輔氏の美声には毎回唸らされた
(つーか、エロい)。なんといっても、坂本真綾嬢のシエル坊ちゃんには相当萌えました!


そして、この愛すべきキャラクター達を産み出し、アニメ版の恐るべきストーリー展開も
許容する太っ腹な原作者、枢やな氏は、真のつわものだと思う。
原作の続きも楽しみにしています。(クーラン)

黒執事 6 (Gファンタジーコミックス)

黒執事 6 (Gファンタジーコミックス)