「誰も守れない」感想(ネタバレあり)

連休中、時間があったので、以前放映されたフジテレビスペシャルドラマ「誰も守れない」
(脚本: 君塚良一)をようやく見た。
本作を見た要因は「佐藤浩市」と「松田龍平」の共演だが、面白かった。簡単に感想を。


ストーリーはこんな感じ。
大手企業の取締役である尾上(山本圭)が何者かに襲われる事件が発生。
暴力団課の勝浦(佐藤浩市)と部下の三島(松田龍平)は被害者家族の警護を命じられる。
尾上の娘である令子(木村佳乃)は勝浦のカウンセリングを担当した精神科医であった。
尾上は過去に財務省との癒着疑惑があり、そのネタを暴力団に掴まれてゆすられていたのでは。
勝浦と三島は暴力団組長(大杉蓮)に接触し、探りを入れるが「今、一番怖いのはヤクザじゃなくて、
若者だよ。」と一蹴される。ネットでは、令子が身に覚えのない中傷を受けていた。
そんな折、令子の患者(成宮寛貴)に違和感を覚え男を尾行していた三島が行方不明になり、
数日後、薬物中毒となって発見される・・・。


結論から言えば、一連の事件の犯人はこの患者でしかもあっさり逮捕される。
動機は、令子に好意を抱きカウンセリングに通うが相手にされず、家族に危害を加えることで彼女を
傷つけようとした個人的な恨みだ。
そしてそれは「復讐屋」という携帯裏サイトへの発注により為されたのである。
ここで事件は「財務省癒着云々」というスケールから「激安犯罪」に転じる。
しかし、動機の矮小さと反比例して暴力は過激だ。
本作が面白かったのは、まさにここにあるのではないかと思う。


一般人が、プロだか素人だか分からない相手に「暴力」を依頼し、依頼された方は、「たかだか五万円」
で、見ず知らずの他人に大怪我を負わせ、人一人を拉致りシャブ漬けにして街中に放り出す・・・。
現在は組織暴力を相手にしている勝浦は、一般人が簡単に一線を超え凶悪犯罪に手を染める、
そして、特段の理由もなく、ある日突然暴力の嵐に晒される今の世の中の現実を目の当たりにする。
また、それを可能としている要因の一つとして、ネット社会での悪意も認識する。


そして、今回その被害の象徴として描かれるのが、シャブ中と化した三島で、禁断症状に苦しむ
彼と勝浦の対話には、長く時間を割かれており、その悲惨さに目を逸らすことが出来ない。
ゴールデンのテレビで、ここまで描くのは珍しいと思う。
人格崩壊しかけている三島と、彼が吐く暴言に傷つきながらも語りかける勝浦との、静かで凍るような
対決は素晴らしかった。演じる松田龍平の鬼気迫る演技には一見の価値があった。


本作では、事件が解決してもカタルシスは得られない。
代わりに得るのは、暴力に至る短絡的思考。犯罪へ加担する罪悪感の希薄さ。蔓延する薬物。
そして、姿を現さずに人を傷付けるネットでの悪意等が溢れる、寒々とした現実の認識だ。
「悪意の連鎖」をこれでもかと見せつけ、ゴロリと投げ出してある。
例え、それを不快に感じても「大袈裟な内容だ」と言い切ることが出来るだろうか?


テレビがここまで描く日がやってきたのか、と思う一方、それに対するこの脚本家の「答え」を知りたい
とも思う。それは、おそらく、続編の映画「誰も守ってくれない」(出演:志田未来)で描かれているの
だろう。公開は既に終わっているが、そのうち是非見ようと思っている。(クーラン)