リミット-刑事の現場2- 第二回感想

既に第三回も放映されているが、「リミット-刑事の現場2-」の第二回感想をひっそりと。
〈あらすじ〉問題刑事・梅木(武田鉄矢)の監視役を命じられた啓吾(森山未來)は、不満を抱きながら
捜査に同行する。2人は公園を不法占拠していたホームレスが焼死した事件を担当することに。
啓吾は現場の状況から、すぐに事故死と判断するが、梅木は「面倒な事件だから手を抜いても
いいのか」とくぎを刺す。間もなく、梅木の強引な捜査によって、放火の実行犯が明らかに。
さらに、犯行を依頼した闇サイトがあると分かり、捜査を進めていくが・・・。


今回も、人間のリミット、そして揺らぎつつある啓吾のアイデンティティを見据える大変厳しい内容と
なっている。
ホームレス焼死事件について、町内会長や周辺住民への聞き込みの末、事故死との判断を下す
啓吾に、梅木は「ホームレスなんてどうでもいいや〜、か?」と嫌味を言う。
声を荒げて反論する啓吾だったが、「だったらなぜ仲間のホームレスからは聞き込みをやらなかった!」
と一喝され言葉を失う。梅木の言うとおりだったからだ。
「お前も他の奴らと同じだ。ホームレスなんていう違法居住者の為に、真面目に捜査するのが
馬鹿馬鹿しいんだろう!」梅木に吐き捨てられ青ざめる啓吾。
前作を含め、これまでの啓吾は、熱血バカで人並み以上に優しい人物として描かれていた。
啓吾自身も自分は善人(であろうとしている)とずっと思ってきただろう。
しかし無意識に目を背けていた(ホームレスに対する)嫌悪の情を梅木に言い当てられ衝撃を受ける。
その言葉は重くのしかかり、自分の嫌悪の情に向き合わされた啓吾の表情は、完全に目が
据わっており、怖いぐらいだ。そんな啓吾を妊娠中の恋人茉莉亜(加藤あい)は
「そんなに悪い人には見えなかったけど」と慰める。
しかし、啓吾にとっての梅木は、もはや良い悪いの次元で関われる人物ではないのだ。


その後、梅木の強引とも言える聞き込みから一人の男が捜査線上に浮かぶ。梅木は、シラを切る男の
首根っこを掴むと、泣き叫ぶ男の訴えにも耳を貸さず、「被害者は熱かったろうな!」と顔面すれすれ
までライターの炎を近づけていく。堪らず水をぶっかけ梅木を怒鳴りつける啓吾。
しかし男は、啓吾の足に取り縋ると「まさか死ぬとは思わなかったんだ!」と泣き叫ぶ。
周りの迷惑も考えず、拷問どころか被疑者を殺しかねない梅木に喰って掛かる啓吾。
「あなたは単に凶暴で人を痛ぶったり苦しめたりするのが好きなだけだ!」
しかし、命を脅かされる程の脅威に晒されなければ、犯人が自白しなかったのも事実なのだ。
暴力に暴力でもって対抗する梅木のやり方に嫌気がさしながらも、反面、啓吾は自分の中にある保身
や梅木を疎ましく思う感情にまたもや向き合わされて鬱々とする。人を憎むより愛したい啓吾なのに。
梅木は啓吾をどこまで追い詰めるのか。不安な気持ちにさせられる。


ところが、二人が捕らえた男は「実行犯」で、それを闇サイトで依頼した「主犯」がいることが判明。
キャリア・井坂(細田よしひこ)のネット追跡によって、あっけなく犯人の身元が割れる。
主犯は、啓吾が先日聞き込みをした「町会長」(森本レオ)だったのだ。
車にはねられ大怪我をした孫や町の人の為にこの公園を造ったのだ。と主張する会長。
「いいじゃないですか!あの人達の一人や二人いなくなったって。誰が困るんですか!」
激昂する会長をじっと見つめる啓吾。その目にはうっすらと涙が浮かび、会長に先日の自分を
重ね合わせているかのような表情で、心を打たれる。


しかし、梅木は会長を引っ立てるとある場所に連れて行く。そこは遺体の保管室だった。
梅木は、会長が「殺した」ホームレスの遺体を突きつけると「さっきの言葉もう一度言ってやれ!」
と叫ぶ。逃げ出す会長を引きずり戻しては「自分の罪の結果」を眼前に突きつける。
「こいつはゴミか?違う!人間だ!公園を綺麗にしたければ、チンピラに頼まないで、自分の手を汚して
掃除すればよかったんだ!」またもや繰り広げられる地獄絵に耐え切れず目を背ける啓吾。
しかし、嘔吐する会長の背中をさすると「自分もホームレスを嫌悪していた。でもあんなヤツ殺しちゃえ!
と殺していたら、動物と変わらない。俺たちは人間なんですよ。」と静かに語りかける。
梅木は扉を開けると「罪を認めて人間としてまっとうに生きるか、逃げて偽善者として生きるか、選べ!」
と迫る。思わず逃げ出そうとする会長だが、天から降り注ぐような陽の光に良心を咎められたのか、
部屋を出ることが出来ない。罪を認めたのだ。しかし、会長の口から新たに明かされる衝撃の真実。
「ゴミの処分」は会長の独断で行ったことではなく、「町民の総意」だったのだ。


梅木と啓吾は人間のリミットを越えた者を一人、また人間へと戻した。しかし、それが何だと言うのか。
この事件の背後にある無数の悪意の前では、梅木も啓吾も無力だ。
神の啓示のような光と深い闇が同居する室内。その中で呆然と佇む三人の姿に胸が詰まる。


新たに実況検分が行われる現場に群がる身勝手な住民達。彼らを眺めながら、啓吾は梅木に問う。
「俺達の仕事って何なんですかね」「人の善意や良心なんて当てにならない。
俺達の仕事は人を本気で憎んで憎んで憎みきることだ。お前には向いてない。」
以前の「愛に溢れている啓吾」だったら、正面きって反論しただろう。しかし今の啓吾にはそれが
出来ない。「人間はもう、ダメかもしれないな」梅木はそう呟くと去っていく。


「人間なのだから、衝動のまま人を殺してはならない。」と啓吾は語った。
しかし、人間そのものが劣化しているとしたら?
劣化した人間、もしくはリミットを遥かに越え人間でなくなった者にその信念は通用するのか?
考えると暗然とさせられる。
大げさかもしれない。しかし、人間を「ゴミ」と称して処分する者。金の為に人間に火をつける者。
人間が燃える光景を救助もせず撮影する者。
この回で描かれた彼らは己が人間の境界を漂っていることにさえ気が付いていない。
梅木は、啓吾の語る信念は既に放棄しているようにも感じる。梅木が犯罪者に対して行う行為は、
「目には目を」ではないが、罪を犯した者にその罪の実態を直視させることだ。
その為に相手を徹底して痛ぶり、苦しめ、更には見たくもない醜い心までもを直視させる。
まさに悪魔だ。梅木が「悪魔」と言われる所以がようやくわかったような気がする。
こんなことは確かに人を憎みきらなくてはやり遂げることは出来ないだろう。


梅木の考えに頷くことも出来ず、しかし反論の言葉すら持ち合わせていない啓吾。
梅木と警察組織との板ばさみ、そしてなにより「悪魔」のもたらす不穏な空気に疲弊し、
彼の精神は揺らぎかけている。このまま「悪魔」に飲み込まれてしまうのか?
続きがとても気になる。次回の展開が楽しみです。(クーラン)