「ハート・ロッカー」…ビグローの描く刺激中毒の男たち(ネタバレ)

ハート・ロッカーを観た。
監督のキャスリン・ビグローは、嘗て「ニア・ダーク/月夜の出来事」で、我が愛しのランス・ヘンリクセンを一際魅力的に撮ってくれた人だけに期待度120%で劇場に赴いた。
果たして「ハート・ロッカー」は、ならず者の爆弾処理班の気の抜けない戦場での日々を描き、スリルもあって達者な話術だが、臨場感のあるタッチといって、また例の如く手持ちカメラのグラグラした映像を観させられるのにはちょっと辟易とした。観づらいし集中できない(作り手の狙いもそこにある場合も多い)
固定カメラで撮っても演出次第ではいくらでもリアリティは出せるはず。ビグローの映画は今迄こんな撮り方ではなかった。
爆発の衝撃で砂塵が舞い上がる様をハイスピード・カメラで撮影した冒頭のシーン(ここはグラグラ映像ではない)の如き映像をもっと堪能したかった。
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ところで、本作は巻頭で、戦場での緊張を麻薬のような中毒性があるものと説明しているが、この刺激中毒の男たちというのはビグローがしばしば登場させるキャラクターだ。
ここでの刺激中毒は言うまでもなく主人公のウィリアム・ジェームス軍曹(ジェレミー・レナー)だが、本作において、彼がイラクに赴任した登場のシーンからラストシーンで再び戦地に赴くまで、精神的な変化や成長が全くみられないのは如何なものか。
彼はもともとこういう男であり、今後もこのままであるという様な描き方で、この2時間の映画のなかで描かれたことのなにひとつとして彼に影響を与えていないのが気になった。
本作は反戦映画でもセミドキュメンタリー映画でもなく、極限状態のなかでしか「生」を実感できない人間の話であり、それはすなわちいつもながらのビグロー流アクション映画なのだ。ならば、そこで描かれる男達の心情になにかしら情感を喚起させるものが欲しかったのだ。
ビグローの旧作「ハートブルー」でキアヌ・リーブス演じるFBIが、潜入捜査の過程で己の刺激中毒性の本能に気付き、しかし、それでも日常に留まる強さを会得したような。