「時をかける少女2010」は映画論映画(ネタバレ)

時をかける少女」(監督:谷口正晃 主演:仲里依紗)を観た。
本作は、原田知世の初主演映画「時をかける少女」から27年後に製作された続編。
筒井康隆の原作にインスパイアされた続編ではなく、あくまでも原田版の続編であることは、
松任谷由美の主題歌を今回も使用していること
・学生時代の深町役の役者の顔が原田版と本作で良く似ていること
・深町=ケン・ソゴルとヒロインが廊下ですれ違うシーンの撮り方が同じであること
・そして、原田版のラスト、白衣で研究室に赴く芳山和子の姿が、そのまま本作のオープニングの
 安田成美の姿に繋がること などからも明らかである)


27年後に続編が作られるということ、それは、いかに原田版が長期に渡って多くの人に愛され
語り継がれているかを物語っているといえる。


私は、原田版もリアルタイムで観ている。
当時、松田優作角川映画復帰が話題になった「探偵物語」の併映が原田版「時をかける少女
だったのだが、優作目的で劇場を訪れ、ついでとばかりに観た「時をかける少女」のほうに魅了
されてしまったのは私だけではなかったはず。


「ハウス」で華々しくデビューした後は、過剰な技巧に次ぐ技巧がストーリーを破綻させ低迷
していた大林宣彦監督だったが、ここでは思い入れたっぷりに思春期のファンタジーを描き切り、
何より、当時の原田知世が持っていた十代の一瞬に見せる輝きを画面に封じ込めることに成功
し傑作となった。


そして27年後の続編は、現代から過去、それも前作が作られた時代の少しだけ前の時代に
タイムリープして、前作の記憶をなぞるようなかたちで物語が進んで行く。


これは、前作をリアルタイムで観ている者には、映画とシンクロして27年前の記憶を追体験
しているようで、まさに自分自身が過去を旅しているかのような気分にさせられる。


27年前の歌舞伎町の満員の映画館で「時をかける少女」を観ていた若かりし頃の自分への
ノスタルジア…時間テーマの作品で、自分の過去と対峙できるとは!!何と出来すぎな構成の妙!


そして、本作のラスト…
失われた思い出が記録された8ミリ映画を観て涙を流すヒロイン。
本作のテーマ「記憶が失われても、心は憶えている」が明確になる。


これは、我々が映画を観ていて、ふと、どこか懐かしさを憶え郷愁に誘われる瞬間
(例えば、アンドレイ・タルコフスキーの映画で、草原が風でざわめくシーン等)を思い出し、
大袈裟に言えば映画とは何か、ということを改めて考えさせてくれる。


過去と現在、我々はなぜ30年前も今も変わらず映画館にいるのか…
本作でヒロインと一緒に涙したひとはわかるはず。


…「時をかける少女」2010年版…傑作です。


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スカートの丈に時の流れを感じる…。