「野獣死すべし」…伊達邦彦のやり場のない怒り
池袋の新文芸座で仲代達矢主演の「野獣死すべし(1959年 須川栄三監督)」を観ました。
物静かな秀才と評判の大学院生伊達邦彦(仲代)は、
そんな評判をよそにボクシング・ジムに通い肉体改造に精を出す。
彼はまた大学において射撃部に所属し、銃撃のテクニックにも磨きをかける。
彼の目的は、母校の夥しい額の入学金強奪を
完全犯罪として成立させることだった。
将来に希望の持てない伊達・仲代は平然と秩序を無視し殺人・強奪を繰り返す。
それを追う新人刑事真杉(小泉博)もまた、安月給で恋人(白川由美)と所帯を持つことも憚れ
忸怩たる思いから、伊達の行動原理を理解する。
作品の背景には
社会的地位の変化が困難で閉鎖性が強い社会に対する反逆が
あって、そのニヒリズム、アナーキズムが秀逸なハード・ボイルド
としての立ち位置を明確にしたと思います。
この作品が製作されたのは1959年。その後、日本は高度経済成長
から空前の好景気を迎え、この作品の思想は過去の遺物となってしまったかにみえました。
(したがって松田優作版はそんな繁栄を謳歌していた時代を反映し『惰眠を貪る愚民を憎み殺す』
というように変更していました。この解釈は、80年代にあって全く正しいと思います。)
しかし50年たって2009年の今、時代はひとまわりしてしまって、この惨憺たる空気は再び現実の
ものとなってしまいました。
伊達の通う大学の学生は口々に呟く…
「大学出てもロクな職にありつけない」
「あるところには金はあるのに、俺たちにはまわってこない」と。
これは、今、毎日のように我々が耳にする言葉ではないですか!
時代の空気を吸って、再び息を吹き返す生き物のような作品。
それはまさにこの作品が傑作である所以ではないかと思いますね。
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・仲代達矢のガラス細工のように感情のない目つきは逸品。氏は非常に作品のテーマを理解して演じていたと思われる。
・上記の小泉博(ゴジラ映画等で御馴染み)との対立は、同じ想いを抱きつつもそれを実行できる男とできない男の差異が描かれ秀逸。
・全編を彩る黛敏郎のモダン・ジャズ。そしてナイトシーン。キレのいい演出。ナゼか現れるシスター・ボーイ(死語)等上質のヨーロッパ暗黒映画の趣。
・東野英治郎(水戸光圀)は、この映画の当時、顔がロバート・ダヴィ(「ダイ・ハード」「007消されたライセンス」)にそっくりである。
などなどミドコロ多し。観てよかったです!