「エグザイル/絆」(シーゲル、ペキンパーそしてジョニー・トー)

過日、新宿シネマスクエアとうきゅうでジョニー・トー監督作品「エグザイル/絆」を観る。
これは面白かった!やはりジョニー・トーの映画はガン・アクションだ!


組織の首領の狙撃に失敗して逃亡中の男。(ニック・チョン
その男を始末しにやって来た男。(アンソニー・ウォンロイ・チョン
逃亡者を守るべくやって来た男。(フランシス・ンとラム・シュ)
彼らは、かつて仲間同志であり、再会は5人の逃避行の始まりとなる…。


冒頭、白昼のがらんとした街。
逃亡者を待つ男達のうしろ姿を捉えたショットから、只事ではない緊張感が漲る。
ロング・コートのなびかせかたにも才気を感じて、ファースト・シーンから傑作の予感。
ほどなく、逃亡中のニック・チョンが現れ銃撃戦となるのだが、最近のハリウッド映画とは
おおきく異なる個々の役者の身体能力。そして演出のリズム。
この時点でもう傑作を確信!


その後は想像もつかない方向にストーリィが転がる面白さ、そして怒涛のクライマックス!
この銃撃戦の素晴らしさはどうだ!


血と硝煙とスローモーションのアンサンブル!!
現在の映画界で最も美しい銃撃戦を演出できるのはジョニー・トーだ!


主人公のアンソニー・ウォンは皆の兄貴分的存在で、クールを装っているが、実は決断力・判断力に
乏しく銃の腕もイマイチだ。(肝心なシーンではほとんど命中していない、又は撃てない)
反して、銃にしか興味のない弟分のロイ・チョンは、マニアックなまでの正確な射撃ぶり
(空き缶のリフティングは名シーン)。
また、コメディ・リリーフ的なキャラクターに見える小太りのラム・シュも、そんな外見を裏切り、
どの状況においても確実なバック・アップをみせる
…等々、シューティングにも個々のキャラクターの描き分けがなされているから、銃撃戦が単調に
ならない。


気心の知れた常連俳優(上記5人に加え、お馴染みのサイモン・ヤムがワルノリ気味の大熱演!)に
よる現場は、たいそう幸福な時間だったことだろう。その勢いが画面から伝わってくる。


「ロンゲスト・ナイト*1」「ヒーロー・ネバー・ダイ」「暗戦/デッド・エンド」「ザ・ミッション/非常の掟」
そして本作と、私はすべて劇場で観ているのがささやかな自慢だが
(実際、「エレクション」あたりから急に騒ぎだした評論家のなんと多かったことか)こうして観ていると
ジョニー・トーは間違いなくドン・シーゲルサム・ペキンパーウォルター・ヒルに匹敵する男性映画の
最高峰の演出家であると断言できる。


本作は傑作だが、しかし最高傑作ではない。ジョニー・トーの作家としての円熟はこれからである、
と信じたい。

*1:ジョニー・トーは製作で監督は別の人だが「遊星よりの物体X」がハワード・ホークスの作品であるように、「ロンゲスト・ナイト」の事実上の監督もトーであるハズだ!