永すぎた春

この日は、映画を観に、午後からラピュタ阿佐ヶ谷に出掛ける。
観た映画は「永すぎた春」(監督:田中重雄 主演:若尾文子川口浩)。
私のたっての希望で渋るオットを引きずり観に行った。


ご存知、三島由紀夫のあまりにも有名な小説の映画化作品である。
昔、原作を読んであまりの面白さに興奮している頃、ちょうど12チャンネルの平日
「昼のロードショー」で本作が放映された。
もちろん録画して観たが、こちらの面白さにもすっかりまいってしまった。
その後も、何度もビデオを繰り返して見た(今ではすっかり劣化していると思うが)。
しかし、当時12チャンの「昼のロードショー」はCMを入れて一時間半の枠だった。
どうしたって、ぶった切ってるシーンがあるわけで、完全オリジナルをどうしても
見たかったのである。


しばらくぶりに観た本作はやっぱり面白かった。
大昔ののんびりした時代の、朗らかな作品ではある。
マジメな学生達の固い会話等、ありえないと感じる部分もあるとは思う。
しかし、実はここで描かれているテーマって意外と普遍的なものであったりする。
長い婚約期間に起こる些細で重要な出来事。
それに向き合いうろたえながらも真摯に対応する恋人達。
その二人を、支えたり、時には感情のままに引っ掻き回したりする家族や友人。
その姿を描写することで、自分が幸せになるということ。
ひいては周囲の人々を幸せにするというのはどういうことなのかを、誠実に描いている。
そうしたうえで、「全ての人が等分に幸福になるなんてありえない」という
厳然たる事実も提示する。


これは、優れた原作があればこそ成功した映画であることは間違いないが、
脚本の白坂依志夫氏はこれをホンにおこす際には相当苦労されたのではないかと思う。
原作は、興味深い論理や逆説や心理を的確な言葉で端的に表現している。
その中からどの言葉やセリフをはしょったり拾い上げるのかで、
原作のエッセンスが損なわれる場合もあるが、この点、本作は
ナレーションを多用することで、原作を活かしつつ、独自のユーモアもまぶしており、
とてもうまい脚本だと思った。
原作と変えている部分や付け加えているセリフ等も、もちろんあり、
その違いも個人的には成功していると思っている。


映像的にも、効果的にロケをしたり、セットを組んだり、色彩設計も素晴らしく
眼の保養にもなった。
百子役の若尾文子の衣装も素晴らしい。


役者は、初めて見た時は郁夫役の川口浩が合っていないのではと思ったものだったが、
今回観ると、郁夫の生来の坊ちゃん気質というものがかなり表現されていて驚いた。
しかし、何と言っても百子の兄、東一郎役の船越英二が印象に残る。
原作ではただのボンクラにしか思えなかった「雲の上人」な兄をかなり面白く演じていて、
私は原作より映画の東一郎の方が好きだ。


しかし、この日観たフィルムは音声が少しくぐもるシーンがあったものの、
発色やプリントの状態が良く非常に感動した。
長年の夢だったオリジナルを映画館で観ることが出来て、感無量です。
上映してくれた「ラピュタ阿佐ヶ谷」に感謝致します。(クーラン)

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