「濡れた荒野を走れ(1973年日活 沢田幸弘監督、長谷川和彦脚本)」についてオレ(夫)も書く

この映画を観るのは二度目。
初めて観たのは旧文芸座。「男が主演のロマンポルノ」みたいな企画のなかの一本で、
村川透の「白い指の戯れ」が併映だったと記憶する。
もう20年も前のことだ。
(20年前にポルノ映画が観れる年齢だった自分にゾっとする…
ということは、今はもう…)

濡れた荒野を走れ [DVD]  ←今回観たのはラピュタ阿佐ヶ谷


暴行、略奪を行ったのち、自ら現場検証して証拠隠滅する悪徳刑事グループ
(主犯格地井武男)。
やりたい放題、悪の限りを尽くしていたある日、精神病棟に拘束されていた
かつての同僚が逃走。
グループは、この男から今までの悪行が洩れるのを恐れ
心神喪失も演技ではないかと疑っている)抹殺に向かう…。


冒頭に描かれる教会での暴行シーンはスタンリー・キューブリック
時計じかけのオレンジ(72年日本公開)」みたい。
更に、追跡を逃れ列車に飛び乗る元同僚氏を発見した地井刑事。列車を
追って線路の側道を車で爆走!
ウィリアム・フリードキンの「フレンチ・コネクション(72年公開)」
の有名な高架線下のカーチェイスそのまんま。
この当時、流行ってた洋モノ・バイオレンス映画への日本からのやけっぱちな
回答のような作品である。
なにしろカーチェイスで勢い余って踏み切りなぎ倒しちゃう程のやけっぱちさ。
(ゲリラ撮影っぽい…いいのか?)
恐らくフリードキン映画の1/10以下の予算であろう本作だが、ガッツでそれに
匹敵するシーンを撮っており、かなりのもの。


そんな逃亡の過程で元同僚氏、ゆきずりの女子高生と恋におち、二人の逃避行
にあいなる…って、ムサい中年男にいきなり惚れる女子高生がいるかよ!と
鑑賞後飲み屋で妻にくだを巻くと
「それがロマンポルノの『ロマン』じゃないの!」とたしなめられる。
そ、そうか、確かに。


…しかしまぁ、色んな方々への配慮に欠けるシーンの連続で、今じゃ絶対に撮ること
の出来ない禁断の映画。
警察対ヤクザみたいな「悪」対「それ以上の悪」とかの対立もない。
悪はすべて体制側にあり刑事同士が殺し合う世界。


泥絵の具をぶちまけて描かれたような、このくすんだ世界で、ラストシーン
地井刑事はずっとかけっぱなしだったサングラスを外し、画面のこちらに向かって
不敵な笑みをうかべる(この映画で地井が笑顔を見せるのはこのシーンのみ)。


このとき彼は何を想った…?(○)