食物連鎖の頂点に立つ女  

先日、テレビ朝日で「未来講師めぐる」が始まった。
どう考えてもセクスィー部長御出演のフジテレビ「未来教授サワムラ」にカブセテいるとしか
思えないが、脚本は宮藤官九郎
いつかこの枠で書いてくるに違いないと思っていたが、やはりきた。
主演は深田恭子だ。なんでも満腹になると20年後の未来が見えるという役らしい。
それを聞いた時「なるほど深田にピッタリの役だ」と思った。
なぜなら私の彼女に対する認識は「食物連鎖の頂点に立つ女」だからだ。 


深田恭子を初めて見たのはドラマ「神様、もう少しだけ」である。
もちろん主演の金城武見たさに毎回見ていたが、アジアのスーパースター相手に全く物怖じ
しない演技で、スケールがデカイなとぼんやり思ったことがある。
その後も順調にキャリアを積んでいたようだが、ある日の深夜番組で驚くべきものを見た。
深田恭子が人気とんこつラーメン店のラーメンを試食しまくり、各ラーメンの味をオモチャの
ピアノで表現していたのだ。
その頃、彼女は「とんこつラーメン」にはまっていたらしく、夜中も相当店に食べに
行っていたようだ。
夜中にとんこつラーメン…。うぷっ、アリかよ?と私は思い、期待の若手女優の野放しぶりに
驚いたものだった(事務所でも管理しきれないほどのスケールだったのか?)。


そのすぐ後だったと思う。日本韓国の初合作ドラマ「フレンズ」に彼女は主演する。
その頃「シュリ」を見て個人的韓流ブーム状態だった私は期待をもって見たがびっくりした。
深田恭子が横1.5倍になっていたからだ。しかも重責のストレスからか顔には
吹き出物らしきものが・・・。
助演で矢田亜希子が出演していたが、美貌の点で言えば彼女の方が上回っていただろう。
しかし女優力はどうか?
果たして深田は圧倒的な求心力でドラマを引っ張っていく。
なんとなく生きてきた普通の少女が、韓国人青年と恋に落ち、お互いを思いやることで、
自らの意識と人生を変えていく―。
いわゆる等身大の少女の役だが、彼女はあたかも「これは深田の一部分ではないか?」と
思わせるほど、見ている側に感情移入させる。
確かに主演女優を魅力的に撮ることは演出家の必要最低条件だが、それを差し引いたとしても
彼女は大変魅力的だったと思う。
相手役はウォンビンウォンビンくんも確かに素敵でファンになったが、彼は等身大の
青年の役をあまりにも完璧に演じすぎた為にかえって、深田恭子に体格も存在感も
わずかながら喰われてしまったように感じる(あくまでも個人的な意見です)。


その後、しばらくして(横幅が元に戻った)深田は映画「下妻物語」に主演。
ロリータ・ファッションを愛する孤高の女子高生を演じるが、映画の彼女を見てショックを受けた。
深田がいわゆるロリータファッションを見事に着こなしていたからだ。
あのアクが強い服。しかし、深田は明らかに服よりも優位に立っていた。
彼女の存在感はあの服の威力を捻じ伏せる(服の威力を喰っている)。
そして、美しいことしかしない(バスに乗るのは美しくない為、片道数キロをロリータで歩く)、
美しいものしか口にしない(弁当箱にはファンシーな菓子しか詰めない)等、
常に美しく生きるという強靭な思想を実践する主人公を、絵空事ではないリアリティーのある
人物に造形してみせる。
つまりは「こんな人ホントにいそう。ていうか深田ってこんな人では?」と思わせる。
普通でない服を着た普通でない少女の心情に、観ている側をいとも簡単に引きずり込む。
その荒業は殆ど暴力的ともいえるほどだ。


役者は「自分を役に近づけて演じるタイプ」と「役を自分に近づけて演じるタイプ」の二種類が
あると言う。
深田はもちろん後者だ。役を完全に自分の支配下に置いている(ていうか役を喰っている)。
その結果、何を演じても「深田恭子にしか見えない」ということも言えるし、成功と失敗の落差も
激しく感じる(成功例:下妻物語 失敗例:南君の恋人)。
しかし、それは彼女が大根だからではない。
吉永小百合は何を演じても「吉永小百合」だが彼女を大根だと言う人は多くはいまい。
深田はそういう類の役者なのだ。
役者としてのこの独特なありようは、葉物野菜しか食ってなさそうなおきれいな女優達には
出せないものだろう。 


現在深田は「未来講師めぐる」で武田真治星野源正名僕蔵、そして地井武男
(ちい散歩見てます!)等の渋いトコつく個性派俳優と共演しているが、役も共演者も難なく
制圧している。そして、役の上でも食いまくっていた。脚本も面白いし今後が期待できる。  


ちなみに、深田恭子は実写版「ヤッターマン」のドロンジョ役に決定している。
監督は三池崇史。三池は以前「殺し屋1」を映画化する際、悪食俳優「浅野忠信」を垣原役に
迎えることで、アクの強い原作を解体し、自己の作品として再構築することに成功している。
今回の配役が、強烈な印象を残すオリジナルの呪縛から解き放つ為のキャスティングで
あるなら、深田はまさに敵役なハズだ。
夜中にラーメンを食い、菓子を食い、酒も飲む。服を喰い、役すら喰うが、自己は喰われない。
まさに食物連鎖の頂点に立つ女「深田恭子」。
彼女は、タツノコプロと声優・小原乃梨子の芸のしのぎあいによって作られた悪女キャラ
ドロンジョ」もサクッと戴いてしまうのか?
この映画の成功は深田恭子にかかっていると言っても過言ではないだろう
(↑DVD出たら観るつもりですけどね)。(クーラン)