真・女立喰師列伝

渋谷シネ・クイントで「真・女立喰師列伝」を観る。


「金魚姫」(監督:押井守 主演:ひし美ゆり子
昭和の時代に作られた文化振興のドキュメンタリー映画のような懐かしさを覚える作り。
全編、落着いたナレーションで綴られるのもそんな感じで心地良い。
もちろん、ここで語られる伝説の女立喰師のエピソードはフィクションなのだが、ひし美ゆり子
という女優自体が、特定の世代(押井監督や私)の伝説あり、劇中の「鼈甲飴の有理」同様、
ある時代にだけ人々の目の前に存在し、フッと居なくなってしまったかの如き印象であるので、
まさにこれは彼女のドキュメント。まわりの風景も含めすべてが美しい一瞬の夢のよう。


「荒野の弐挺拳銃」(監督:辻本貴則 主演:水野美紀
三池崇史の「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」みたいな映画ですが、徹底したガン・アクションが
素晴らしい。ただ突っ立ってガン撃ちまくっている作品ではない。画面が運動している。
水野美紀以下役者も良く動いている。
「Dandelion」(監督:神山健治 主演:安藤麻吹)     オリジナル・サウンドトラック「真・女立喰師列伝」
この作品が起承転結が一番しっかりしている。ちょっとヒネリが効いていて、ユーモアがあって…。
オムニバスにはこういう作品が一本はないと。この作品が真ん中のあることで全体のバランスが良く
なっている気がする。
それにしても…神山健治(NHKアニメ「精霊の守り人」監督)の喪失感溢れる演技は特筆モノですね。


「草間のささやき」(監督:湯浅弘章 主演:藤田陽子
まず画面の美しさに感動する。全てが唐黍畑に迷い込んだ男の夢なのか…。
これもまた永遠のような一瞬のような夢の如き作品。
そして第2話「荒野の…」と同様、男は、この女にとって自分は特別な存在だと勘違いし、
大切なものを失う。
このオムニバス、一見バラバラな作品が並んでいるかのような印象だが上手く交互にリンクしている。
若松武史は出番は少ないながら強烈なカリスマ性を発揮する。
夜の闇に浮かび上がった氏の顔のコワいこと。


「歌謡の天使」(監督:神谷誠 主演:小倉優子
これはスゴイですね。80年代日本への強烈なアンチテーゼ。
マッカーシズムは我々の知らないところで深く静かに潜航していた、それも国家的な規模で…。
という作品で、アメリカ的なものに溢れ、一億総白痴化した我が国というのは、第1話「金魚姫」と
対をなしている。あちらが、徹底して日本という国の(風俗も含めて)かつてはあった
美しさ・素晴らしさを描いていたのに対し、本作は徹底して、アメリカナイズされアホらしさが支配した
あのころの日本の醜悪さを描いている。
そして古き良き日本を象徴する「鼈甲飴の有里」が時代の変化とともに消えたそのころ、
「クレープのマミ」は現れた。
静寂と狂騒。
それにしてもここで描かれる狂騒の80年代はとてつもなくリアルだ。


オムニバス映画はたいてい玉石混淆でいいものが一個か二個あればめっけもんといった感じだが、
この作品は、どのエピソードも充実した仕上がりだった。(○)