それでも、生きてゆく 第7回感想

<あらすじ>洋貴(瑛太)は、文哉(風間俊介)の担当看護師だった雪恵(酒井若菜)を、響子(大竹しのぶ)らが待つ自宅へ連れ帰る。
雪恵は、文哉の医療少年院時代の話や出所後の様子を語り、二人の間に起きたある出来事について打ち明ける。
それを聞いた洋貴は、文哉が更生していないと確信する。


今頃、第7回の感想です。お、重い。今回も物凄い回だった。
雪絵が語る文哉との過去が衝撃だった。更生施設で二人は出会い、担当看護師だった雪絵は文哉に惹かれ、距離を縮めていく。
雪絵自身も家族とうまくいってなかったり、男に貢いだり、笑顔が少ない寂しい人だった。そんな雪絵が他の子とどこか違った
雰囲気を漂わせる文哉に興味を抱く気持ちがなんとなく理解できる。しかし、最初の接触で「本当に治ったの? 治ったふりしてるだけ
じゃない?」と雪絵は問いただす。文哉の本当の姿を知りたい。自分には冷静に見極められるという自負があったのだと思う。
けれど、思いのほか素直に心を開いてくる文哉に、雪絵は知らず知らずのうちにのめり込んでいく。折り紙の金魚を信頼の証のように
渡し続ける文哉。無口で控えめな彼との秘密の交流に心が満たされる雪絵。寂しい者同士が心を温めあうような感覚だったのかも
しれない。この頃から雪絵は文哉と一緒にいたいと思い始めていたのだと思う。
しかし、文哉は本当に治ったのだろうか?退院を控え文哉は雪絵と気になる会話をする。
「治ったことが嬉しいです。」「治ったの?」「先生が治ったって、言ってくれました」「どうして、治ったら嬉しいの?」
「人を殺すことは良くないことだからです。」
この時の文哉の口調が、暗記した文章をただ口から発しているだけとでもいうような機械的な物言いで、とても不安な気持ちになった。
「人を殺してはいけない」ということを、本当の意味で理解していない。覚えた「答え」を唱えているだけ。という印象を受ける。
「治った」と信じたいのに、文哉自身が一番「それ」に納得していなかったのだと思う。
退院の前日、雪絵に見せたあの絵は、文哉の最後の問いかけだったのではないだろうか? 自分は本当にここから出てしまって
いいのだろうか? 外にいる沢山の「可哀想な金魚」を殺さずにいられるのだろうか? 「治ったの?」と何度も聞いてきた雪絵に、
文哉は止めてもらいたかったのかもしれない。でも、雪絵はその絵をしまいこんでしまったのだ。


退院した文哉は雪絵と暮らし始める。「君も変わったし、君に会った私も変わって驚いてる。」と微笑みを浮かべる雪絵。
「治った?殺す僕は消えた?」と問いかける文哉に「消えたよ。君はもう特別な子じゃない。誰も殺さない。」と答える。
ずっと言ってあげられなかった言葉をようやく心から言う事が出来た。それは雪絵が文哉の更生を信じ、笑顔で未来を語れた
瞬間だったと思う。
しかし、雪絵の幸福は長く続かなかった。文哉の子を妊娠したのだ。それを知った文哉は雪絵のお腹の中の子供を流産させる・・・。
ショックだった。法的には違うが、文哉はある意味二人目を殺したとも言える。しかもそれは自分の子だ。
雪絵は文哉の仕業だと確信している。これだけでも衝撃なのに、更に雪絵を打ちのめしたのは文哉がつけていた日記だった。
そこには、必死に殺人衝動を抑えこもうとする文哉の心の内が記されていた。文哉は治っていなかったのだ。
それでも、雪絵が子供を身籠る時までは心の闇と闘っていたのだと思う。雪絵に「ビールを買いに行かせた」直後、
ルーベンスの画集を見て思わず彼女を追いかけたあの瞬間だけは「特別な子」の顔には見えなかった。でも間に合わなかった。
「殺す僕が、僕の子供を殺すのを見ているだけ」となってしまった。
文哉自身、治ったと、「殺す僕」は消えたと思いたかったに違いない。でも、これではっきりと自覚してしまった。
文哉は治っていなかった。また殺してしまった。そして雪絵は逃げた。
あの後の文哉はどうやって生きてきたのかと思う。
沢山の「可哀想な金魚」が泳ぐ社会で、「殺す僕」を心の内で抑え込みながら、何を思って生きてきたのか。社会にとっても、
本人にとっても危険極まりないこの状態で、文哉が「外」に出ることは、果たして良いことだったのだろうか? 
文哉に同情する気持ちは全くないが、これが彼の人生にとって最良の判断だったとは、とても思えない。


雪絵の話を聞いて愕然とする洋貴達。許せない相手とは思っていたが、ここまで文哉が変わっていないとは考えてもみなかっただろう。
「亜紀を取り返す」ため、「人生を取り戻す」ために、文哉と会いたいと望む洋貴と響子。しかし、今の文哉に会っても二人が
満足できる答えが見つかるのだろうか? 「彼を楽にしてあげてほしい」と雪絵は言っていた。それは洋貴の手で文哉の人生を
終わらせるということなのだろうか? 洋貴はそのつもりだろう。でも今の文哉を殺しても、洋貴の人生が取り戻せるとは思えない。


草間ファームでは、文哉の事件を知った真岐(佐藤江梨子)が激しく怯えていた。
真岐は良くも悪くも素直な女性なのだと思う。好悪の情を隠さないし、文哉を受け付けなくなった時の「拒絶」や「恐怖」の反応は、
あまりにもはっきりしている。真岐は全く悪くはないが、彼女のはっきりし過ぎる対応が、必死に抑え込んでいた文哉の衝動の
呼び水になったような気がしてならない。
それでも、文哉は真岐の娘・悠里には衝動を抑える事が出来たのだ。「殺す僕」が離そうとしない金槌を必死で投げ捨てた。
文哉に促されるまま、自分への殺意を微塵も感じず、真岐のもとへと歩き出す悠里。あまりにも美しい画で息をのんだ。
これが文哉の救いになるのかも知れないと思った。でも、違っていた。
「あんたみたいな人間、生まれてこなければよかったのよ!」真岐の叫びに顔色を変える文哉。
これこそが「殺す僕」を動かすスイッチなのではないかと思う。最悪の事態になってしまうのだろうか?


そんな中、響子が双葉に語った言葉が印象的だった。
「あなただって、洋貴だって、幸せになりたいって思っていいのよ。幸せになるために、二人で考えるの。洋貴は、あなたが
幸せになる方法。あなたは、洋貴が幸せになる方法。」
被害者家族でも、加害者家族でも、幸せになりたいと考えたっていい。以前の響子には言えなかった言葉だ。雪絵の告白を聞いて、
双葉の話を聞いて、その上で、この言葉を言い切るところに意味があると思う。
加害者家族にとっても、被害者家族にとっても、今後文哉と対面することは、どう考えても幸せなことではないだろう。
でも、その先にしか互いの未来はないと信じているのだ。それを始めたのは洋貴と双葉で、二人は今ボロボロになっている。
それでも、響子は二人が選んだ道は正しいのだと言ってあげたかったのではないかと思う。
響子の目に段々と精気が戻ってきているような感じがしていたが、この時の響子は人間の顔だった。傷ついた双葉を包みこむような
響子のまなざしに涙が出た。次回も凄そうです。(クーラン)