四十九日のレシピ 第2回感想

<あらすじ>乙美(風吹ジュン)の四十九日に大宴会をすると決めた熱田家。乙美が自分史を書いていたことを知った百合子
和久井映見)は、大宴会でその人生を模造紙に書いて展示することを思いつく。だが誰も乙美の33年間にあった出来事を知らず、
年表は空白ばかりだった。


色々と辛すぎる。今回も号泣。
離婚届に「こんなこと望んだわけじゃない」と言う浩之(宅間孝行)に対して、「私は届けに判を押して家を出た。これ以上
何を望むと言うの?」と返す百合子。確かに、浩之って何をどうしたいのか。わざわざ東京から百合子を訪ねてくるけど、
何の為に来たのか、よく分からない。お互い顔を見てきっちり話し合って別れたいということなのだろうか?
前回「自分は選べない」と浩之が言ったからこそ、百合子が決めるしかなかったのだ。身を切る思いで家を出た。
そのうえ、綺麗に別れてくれと要求するつもりなのだとしたら、随分残酷な話だ。
こういう事情で妻を捨てるなんて最低だと思うけど、浩之みたいに優柔不断な男の方が更にやっかいだと思う。
駅で自分を待つ浩之を遠くから見つめながら電話で語りかける百合子。きちんと向き合った方がいいのは分かっている。
それでも顔を合わせられない百合子の辛さが伝わってきた。
「どちらか選べないと言ったけど、それは『私をとるか、子供をとるか』ということなのよね。子供を選んでも悪いなんて
思わなくていい。私もずっとあなたの赤ちゃんに会いたかったから」
そうだよなあ。と思う。生物の本能として、殆どの人が自分の子供に会いたいと願うだろう。段々と大きくなっていく彼女のお腹と
苦悩する百合子を交互に見ながら、浩之は何を思っていたのだろうか。この人も辛かったのだろうか。
浩之が持ってきた蜜柑。それは新婚当初すっぱかった実を二人で長い時間かけて育てあげたものだった。そして百合子の手帳には
不妊治療の苦闘の記録がびっしりと書き込まれている。十年の時をかけ甘く生った果実と実らなかった願い。
それはこの二人にしか分からない夫婦の歴史だ。そんな二人のあしあとも「もう終わったんだよ」という百合子の言葉で
消えようとしている。そのあまりの脆さと儚さに涙した。


乙美の真っ白な年表に、「子供を産まない女性の人生は空白なのか」と思わず呟く百合子。そんな百合子に良平(伊東四朗)は
乙美との馴れ初めを語りだす。
乙美は家族の介護でずっと嫁き遅れていたこと。縁日で乙美の屋台の豚まんを食べる良平親子に彼女が一目ぼれしたこと。
乙美との見合いを断った良平に直に理由を聞きに来たこと。
良平が見合いを断ったのは、前妻を亡くして以降そんな気持ちになれなかったからだ。おそらくろくすっぽ見合い写真も見ていない。
乙美をバス停まで送っていくが、根は親切だけど態度がとってもぞんざいでそっけない。偏屈で偉そうで気難しい男。
そんな良平に乙美は語りだす。「こんな私にも夢がある。私が拵えたものを美味しそうに食べてくれる人となら、ずっと幸せに暮らせる」
この言葉に乙美という人の生き方が現れている。誰でも幸せになりたいと思いながら生きている。だけど乙美の場合、それは
自分一人だけではダメで、誰かと共に幸せになりたい。幸せを分かち合いたいということなのかなと思う。
ボーっとしているように見えて実は強い人だと感じた。それは一人で生きてきた寂しさを知っているからなのかもしれない。
そんな人が初めて気持ちをぶつけた相手が良平だったのだ。
この日最後まで断るつもりだった良平がついに思い直したのは、乙美が百合子の為に描いてきた紙芝居だった。
淡く優しい色で描きあげた絵。話したこともない百合子に楽しんでもらおうと心から願って描いてきたもの。
あの紙芝居を見て良平は、三人で幸せになりたいと願う乙美の心。そして自分もまた誰かを幸せに出来るということを、
直感したのではないかと思う。直後のバス発車の二人のやりとりがおかしくて愛おしくて、なんとも言えない名シーンだった。


乙美の自分史には二つしか記載がない。一つはこの世に生まれたこと。もう一つは良平と結婚したこと。
乙美にとっての人生の一大事はこの二つしかなかったのだろう。でも、良平と乙美の気持ちが寄り添ったあの日の出来事は、
二人だけの大切な思い出だ。そして、百合子や教え子達には沢山の手紙や記録を贈っている。誰かの為に心を砕いた乙美の
生き方はそこかしこに遺されている。
自身のことは何も遺さなかった。子供も産まなかった。だから、乙美の人生が真っ白だなんてことがあるか。
百合子に語りかける良平。決してそんなことはないと私も思いたい。
最後に号泣する良平に胸が詰まる。結婚しても従来の性格が変わるわけでもなく、乙美には最後までぞんざいな態度だった。
それなのに、年表に「乙美没」となかなか書き込めず、ようやく書いた後に一人嗚咽する。葬儀で涙も流さなかったことを
責められていたけど、あまりにも突然の別れで受け入れられなかったのだと思う。
人前では泣けない男。「ありがとう」の一言も言えない男。そんな男だからこその嘆きが痛いほど伝わってきた。
伊東四朗の演技にとことん泣かされた。次回はどうやら修羅場らしい(笑)。早く見なくては。(クーラン)