Mother 第二回感想

先日「Mother」第二回を見たので、今更ながら感想を。
〈あらすじ〉奈緒松雪泰子)は怜南(れな・芦田愛菜)を継美という名に変え東京へ向かうが、
下車した駅でバッグを盗まれてしまう。途方に暮れた奈緒は子供の頃に預けられていた施設を訪ねる。
だが、施設は荒れ果て、立ち退きを迫られている老婆が一人で暮らしていた。
その老婆こそ奈緒が世話になった桃子(高田敏江)だった。
一方、奈緒を心配した妹・果歩(倉科カナ)は奈緒の小学校を訪ねる。


アバンの段階で奈緒がトントン拍子にすっからかんになってしまったのには笑ったが巧い展開だと思う。
おかげでこの擬似親子は、金に任せて二人っきりで篭るような逃避行が出来なくなった。
人ごみに埋没しながらも社会に繋がらなければ生きていけなくなってしまったのだ。
しかし、今の奈緒を見ていると、誘拐こそしたものの「継美(怜南)を体を張って守っていく」といった
気概のようなものが全く感じられない。それよりも未だ戸惑う気持を抑えることが出来ない様子で、
天真爛漫な継美の扱いにもてこずっている。子供を前にして思いっきり頭を抱えこむ様子は
何とも頼りなく、これではいくら「大丈夫」と言われても不安になるよと思ってしまった。


思うに、この二人の「擬似親子」の関係は、まだ始まったばかりで形も絆もあやふやなものなのだ。
奈緒が誘拐した子供は、か弱くても立派に意思を持った人間だ。寂しい者同志であったとしても、
一方的に愛するだけでは伝わらない。互いに心を通わせる努力をしなければ関係が縮まることはない。
人と関わってこなかった奈緒にとってはストレスだろう。それに、継美に向ける感情は、
果たして母性と言えるものなのだろうか?そんな時、奈緒の前に現れたのが桃子だ。


桃子は痴呆症で自分を6歳の少女だと思い込んでいたが、奈緒と継美がやって来たことで
回復の兆しが現れてくる。
奈緒は、幼いとき発した「生まれてくる子供がかわいそうだから、私はお母さんにはならない」という
言葉に、桃子が心を痛めていたこと、また、施設は子供達の故郷だから閉鎖はしないと言い続けていた
ことを知る。家族という形ではなかったが、奈緒は誰かに大切に思われていた子供だったのだ。
そのことを知ってどれだけ奈緒が救われたかわからないと思う。


しかし、継美とはなかなか距離を縮めることが出来ない。「室蘭行方不明少女」のニュースを見ていた
継美に「ママに会いたいのなら我慢しなくていいよ」と告げるが、継美は
「ニュースは間違ってる。怜南ちゃんのお母さんは怜南ちゃんの帰りを待ってないよ」とだけ答える。
継美は嘘はついていない。でも、質問の答えにもなっていない。哀しい真実を口にすることで、
実母への思慕を堪え、奈緒の期待に添おうとする継美のけなげさに胸が痛む。


しかし、この継美という子のどうしようもない哀しさが溢れてくるのは、その後だ。
桃子が立ち退かされると知った奈緒は継美と出て行こうとするが、継美は静かにこう言う。
「先生。私をここに置いていって。私は桃子さんと暮らすから。大丈夫。我慢しなくてもいいよ。」
この子は知っていたのだ。奈緒が逃亡生活の不安に押しつぶされそうになっていることも。
継美を持て余していることも。それを知って「あること」を覚悟している。
奈緒の言う「大丈夫」と継美の言う「大丈夫」では、これほどまでに重みが違うのかと思わされた。
このシーンはホントに戦慄だった。


継美の言葉は奈緒を打ち砕き、思わず桃子に「私はあの子の為に精一杯母親役をやっているのに」
と口走る。この言葉は肝だと思うのだが、これは奈緒の欺瞞に近い心情を表す言葉ではないか。
「やってあげてる」のに相手には伝わっていない。気持は分かるが継美自身を見ていない。
これは母性というよりある意味自己満足にしか過ぎない。
その象徴が継美の靴で、窮屈な靴に我慢する様子に桃子はとっくに気付いていた。
「子供の頃、奈緒ちゃんだっていろんなもの我慢したでしょう?それはなぜ?」という桃子の問いに
「また捨てられるのが怖かったから」と答える奈緒
継美もまた我慢していたのだ。窮屈な靴も、本当のお母さんも。
そして、今度は奈緒に捨てられる前に、また自分で自分を捨てようとしていたのだ。


やがて桃子と別れのときがやって来る。
立ち退かされる桃子に「ごめんね。何も出来なくて」と謝る奈緒
そんな奈緒に桃子は「嬉しかった。奈緒ちゃんがお母さんになってくれた。ありがとう。」と叫ぶ。
なんというか、これが母性というものなのかなと思わされた。
桃子は奈緒が母親になったことを自分の喜びとして受け取っている。
そして、育てた子供達に見返りを求めることもしない。まさに無償の愛だ。
愛し方・愛され方が分からない奈緒に、そんな愛情を教える為、桃子は奈緒の前に現れたのだと思う。


菜の花畑での、奈緒と継美の仲直りのシーンが心に染みる。
「こっち向いて」と言う奈緒に「はいはい」と生意気に答える継美(笑)。
この二人にはこれからもこんな喧嘩や仲直りを繰り返して親子になっていってほしい。


奈緒を巡る実母(田中裕子)と養母(高畑淳子)の関係にも目が離せない。
どちらもそれぞれの愛し方で奈緒を想っていることがわかる。
数十年振りなのにすれ違っただけで我が子と分かる実母。
遠くから震える声で「奈緒」と呼ぶ姿に、娘への狂おしいほどの愛情を感じた。
とにかく田中裕子のオーラが凄すぎる。今後の展開に期待大です。(クーラン)