またきた

この日は映画を観に有楽町に出かけた。
開映時刻の関係で、昼前という休日の我々にとって驚異的に早い時刻に出発する。


この日観た映画は「黒澤明 −生誕100周年記念 特別上映−」から
「天国と地獄」(1963年作品 出演:三船敏郎仲代達矢山崎努香川京子)。
〈あらすじ〉会社での権力闘争の只中にいる権藤の息子が誘拐される。
ところが浚われたのは運転手の子供だった。息子と間違えられたのだ。
しかし犯人は権藤に身代金を要求してくる。
それを支払うことは、権藤が会社での地位も財産もすべてを失うことを意味した。
権藤は身代金を支払うのか。それとも・・・。


恥ずかしながら初見です。面白かった。そして長かった。
前半は、権藤の中で吹き荒れる「人間としての善意」と「保身に走ろうとする悪意」の凄まじい対立が
描かれ、殆ど室内劇の様相を呈している。「静」の画面で役者の演技を腰を据えて見せる。
まるで舞台のような演出だった。
それが、列車での身代金受け渡しシーン以降は「動」の画面になり、警察が総力を挙げて
犯人を追い詰めていくサスペンスに変化しており、一粒で二度美味しい展開だった。
それもこれも、多面的な人間の心理を描ききった緻密な脚本があってこそだと思う。
カメラはその時々で感情が揺らぐ人物の表情を執拗に丁寧に撮りあげる。
常に緊張感を伴う演出はさすがだった。
重厚でひとつも緩んだシーンが無いので、これもまたかなりの集中力を要した。
先日観た「野良犬」では、犯人の社会に対する歪んだ怒りが伝わってくる演出になっていたが、
本作は、それよりも警察の執念や捜査モノの旨みをより味わえるように感じた。
時々挟まれる小ギャグにほっとさせられるのも良かったです。(クーラン)

天国と地獄<普及版> [DVD]

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