「ゾンビ」ディレクターズ・カット完全版

シアターN渋谷でHDリマスター ジョージ・A・ロメロ ディレクターズ・カット版上映中のさなか、
ふらりと訪れた某所のレンタルビデオ屋のVHSワゴンセールのなかに本作を発見!
販売価格50円也。なんという叩き売り…。即、ワゴンから救出!!



この「ゾンビ ディレクターズ・カット完全版」のVHSは、ご覧のとおり
の素晴らしいパッゲージ・デザイン。
レーザーディスクで本作が発売された時のジャケット・デザインを
加工したもので、15年前、銀座のシネパトスで劇場公開された時の
パンフレットのデザインと同様のものだ。
これを50円で入手できるとは!!
(更に、コッポラの「カンバセーション…盗聴…」「ハメット」
80年代のフィルム・ノワールの佳作「キリング・タイム」(未DVD)も
発見!救出に成功!!…皆50円…このビデオ屋凄い!!!)




ところで、本作はディレクターズ・カットということで、70年代に劇場公開されたもの
及び、テレビ東京で放送されたもの(所謂ダリオ・アルジェント編集版)とは、使用されている
音楽や映像が若干異なる。


テレ東で25,6年前に放送された吹き替えバージョンに慣れ親しんだ者には、翻訳のニュアンス違いや
内海賢二の声でないケン・フォーレの声(って当たり前なんだけど)に違和感を覚えてしまうのだが、
一番の違いを感じるのは以下のシーン。


ショッピングモールにバリケードを築き、外部からのリビング・デッドの侵入を防いだ主人公一同は、
このモノに溢れた豊かな世界で束の間の幸福な瞬間を過ごす。
しかし、トム・サヴィーニら略奪ヘルス・エンジェルの登場により、防壁は破壊され、再び、
世界は地獄の様相を呈する。


アルジェント版は、恋するデイブ・エンゲとゲイラン・ロスの幸せなシーンに重点を置き編集して
おり、その後の悪夢は、正にこの「秘密の夢の世界」が悪魔によって踏みにじられてしまったという
悲壮感が強調されている。(正と悪の対立)


転じて、当該ロメロのディレクターズ・カット版は、バリケードを築き、夢の生活を手にした後の
退屈な日常の描写が延々と続き、ケン・フォーレのSWAT隊員(彼のシーンに重点をおいている)にも
倦怠感が満ち満ちてくる。
怠惰な日々…そこに、暴走マッド・ギャングの登場。虚ろだった彼(フォーレ)の焦点が再び定まる。
殺し合う彼のなんと活き活きとした表情!…と、「哀れ愚かなるは人間」という本作のテーマを
ことさら強調している。(正も悪もない、皆一緒)


これ、同じ素材を使用しながらも、編集ひとつでこんなにも印象が変わるなんて。


作り手が作品のどこに重きを置き、我々に提示するか。
そして、そのことで観客である我々は、作り手のそれぞれの資質を読み取れること。
・アルジェントが意外にロマンチスト。
・ロメロは現実的。
演出とは、こういうことなのかな…などということを改めて考えさせてくれる。
色々な魅力が詰まった作品だが、ヴァージョン違いが存在し、異なる感性の鬼才がそれぞれを
手懸けている故、こんなことを考えさせてくれる。
こうしたところも本作の素晴しさの所以であると思う。