不毛地帯 第二回感想

すでに第三回が放映されているが、今更「不毛地帯」第二回の感想を
〈あらすじ〉防衛庁の第2次防FX(=次期主力戦闘機)の受注が、政治家の利権の為に利用されている
事を知った壹岐正(唐沢寿明)は、軍人時代の人脈を利用しないという自らの申し出を撤回し、
社長の大門一三(原田芳雄)に東京支社航空機部への異動を申し出る。
2次防の候補は、近畿商事が押すラッキード社のラッキードF104と、東京商事が推すグラント社の
スーパードラゴンF11の2機だった。だが、東京商事の鮫島辰三(遠藤憲一)による裏工作によって、
グラント社のスーパードラゴンが有利な状況にあった・・・。


初回に続き第二話も非常に面白かった。第二の人生を「2度と同じ過ちを犯さないように国を守り、
発展させていく」事に費やそうと決意した壹岐。
そんな壹岐にとっては、国を守る為にあるべき戦闘機が政治家の利権に利用されようとしている実態は
許せるものではなく、現状を打破しようと熾烈なビジネスの世界に身を投じる。
しかし、そのビジネスの世界は「正しいこと」だけがまかり通る世界ではないことを壹岐は早々と
認識させられる。東京商事の鮫島が官房長の貝塚段田安則)と太いパイプをもつならば、
近畿商事は自由党総務会長・大川(亀石征一郎)の力を借りようとする。
もちろんタダで済むわけがない。結果的には東京商事と「同じ穴のむじな」なのだ。
思わず眉をひそめる壹岐。「政治家の力を借りることぐらいフェア・プレイのうち」
「泥を被ってなんぼの商売だ!」と平然と言い放つ里井(岸部一徳)と大門にビジネスの世界の
どす黒い部分が垣間見える。その闇に否応なく巻き込まれようとしている壹岐にも不安を感じる。


壹岐と鮫島の初対面のシーンが面白かった。会話は何気ない挨拶程度のものだったが、名刺交換が
まるで「銃の抜き合い」のようにも見え、静けさ・緊張感とともに、これから繰り広げられる
「黒い頭脳戦」への期待がいやがうえにも高まる。面白いシーンだったと思う。


しかし、頼みの大川が鮫島の実弾攻撃(金)に揺らぎ急に態度を変える。
そこで壹岐は、軍人時代からの旧知の仲で経済企画庁長官の久松清蔵(伊東四朗)に会いに行く。
久松と情報交換をした壹岐は部下の小出(松重豊)とともに、グラント側から総理派に送金されている
通称「G資金」のルートを追い、G資金の円転換が主に京浜銀行で行われていることを掴むと、
匿名で大蔵省に告発文を送る。京浜銀行には大蔵省銀行局の機動検査が入り、それによって、
国防会議も当分の間延期される事となる。


あれほど嫌がっていた軍人時代のコネをも使い粛々と頭脳戦を実行していく壹岐。
もはや顔からは表情が窺えず、何を考えているのか容易には見当がつかない。
色々と抱える思いはあるのだろうが、黙々と任務(仕事)をこなしていく壹岐を見ていると、
例え好きでなくとも、この人はこういった深謀に向いているのだということを感じずにいられなかった。


壹岐は、ラッキード側と値下げ交渉を進める里井に、グラントの価格見積表を入手し、それを
ラッキード社に提示して新たな見積表を作成させるべきだと提案する。
壹岐から、グラントの価格見積表が必要だと聞かされた小出はその役を買ってでる。
防衛庁調査課出身の小出は川又(柳葉敏郎)の部下でもある芦田(古田新太)に接触し、
機密書類扱いになっている見積表を入手することに成功し、それを複写する。


この小出が明らかに怪しいキャラクターで面白かった。裏表があるというよりも、長年感情を抑えて
笑顔を作っているうちに、それが張り付いて取れなくなってしまったという感じ。
若干愚鈍な印象を与える為に周りに軽んじられ、それを察しながらも「笑っている」川又の姿は
なにやら不気味な様相を呈している。
見積表と見返りに建売住宅の頭金を要求するいかにも小市民的な芦田の人物像も面白い。
この世は全て金次第。かつての軍隊と今の防衛庁では人材の質や価値観も変わってきているのだ。


また、怪しげな新聞記者・田原(阿部サダヲ)が壹岐の前に現れ、妻の佳子(和久井映見)は
夫の身を案じる。そんな妻を労い、ストール?を買ってくる壹岐の姿にいかにも「昭和の男」
といった感じを受ける。
壹岐は妻に心配をかけていることを気にして品を買ってきたのだろう。もしかしたら、労う言葉を
口にするのが恥ずかしかったのかもしれない。でも、佳子の欲しい物はそんなものではないのだ。
夫の現状を把握して支えられるところがあれば支えていきたい。その為にも言葉や会話が欲しいのだと
思う。贈られる物に誤魔化されず、うかない顔で夫を見つめる佳子の姿に聡明さと哀しさを感じる。


壹岐は、美術館で開かれている新人陶芸展で秋津千里(小雪)と再会する。
千里に「以前と変わった様子だ。背広も似合ってすっかり商社マンらしくなった」と言われ、
思わず答えに窮する壹岐。大門の言うように「泥水を被る」ことが商社マンの必然なら、
壹岐は間違いなく「商社マンらしくなった」ということなのだろうが・・・。
兵頭(竹野内豊)と呑んでいる時に、「相手に勝つ為に、人に言えないようなこともした」と
思わず内心を吐露する壹岐。そんな壹岐に兵頭は「国防の為、正義の為に手を汚すことがあっても
仕方がない」と声をかける。しかし、壹岐の心は晴れることはない。
眼前に迫った成功は却って壹岐の憂いを深くしているように見えた。


ところが、ラッキードF104がエドワード空軍基地でのテスト・フライト中に墜落する。墜落の原因は不明。
同じ頃、墜落事故を知った鮫島は毎朝新聞の田原に電話を入れ、事故は一夜にして世界中を駆け巡る。
ここまで、ずっとタメてタメての「静」の演出が突然弾けて「動」の演出になった。
というか、ここまでタメたからこそ、わずかな撮り方の違いで濃度が変わるのだと思う。
「何かの気配」を感じゆっくりと振り返る鮫島。突如入るテレックス。そして電話のクローズアップと
物凄いテンションを醸し出して、まるで劇画という感じ。
鮫島の高笑いをどんどん引いて撮っていくシーンは最高潮の盛り上がりだった。
近畿商事のラッキードは、そして壹岐の信念はどうなってしまうのか。次回もなるべく早く見ます。
(クーラン)