行列48時間 初回感想

誘拐事件が絡んでいると聞き、重そうだし見るのを悩んだが、「國村隼主演の連ドラ」という魅力に
勝てず思わず鑑賞(笑)。面白かった。
〈あらすじ〉早期退職目前の中年男・宝福喜朗(國村隼)は、少しだけ人生を変えたいと思っていた。
子会社出向の道も断たれ、妻・聡子(森下愛子)、娘・恵美(岩田さゆり)との家庭の居心地も今ひとつ。
2009年の暮れも押し迫ったある日、喜朗は妻娘から「高倉デパートの福袋がほしい」と頼まれる。
「少しだけ人生が変わるかも…」そんな気がした喜朗は行列に並ぶが、そこは誘拐事件の身代金2億円
の受け渡し場所だった…。


原作は未読なので知らなかったのだが、サスペンスコメディ?的なテイストで観ていてホッとした(笑)。
どこから読んでもおめでたそうな名前の主人公は普通の中年男。子会社出向がダメになったことを
妻にも言い出せない、家族には部屋でタバコも吸わせてもらえない、心優しき「普通」の男だ。
その宝福は家族に頼まれ、大晦日から2日間、寒空の下デパートの福袋の為に並ぶことになる。
最初は嫌がった宝福をその気にさせたのは「高倉デパートの福袋を買うと人生が変わるんだって!」
という言葉だった。
社会で「年功序列」という行列に並び頑張ってきたのに、自分の番が廻って来ると「出向の話は白紙に」
という現実。家族に疎んじられてはいないが、少し軽んじられているといった具合の家庭での位置。
不幸のどん底というわけではないが、心に少し隙間風が吹いている宝福の心情が短い時間で効果的に
語られている。二日間寒空の下という過酷な状況で「少しだけ人生が変わるかも…」なんて、
乙女思考を巡らす強面中年男の図に思わず笑いながらも、行列に並ぶ宝福の心理にも共感できた。


というわけで、大晦日の朝、準備万端整えて行列に臨む宝福だが、なんとそこは誘拐事件の身代金
2億円の受け渡し場所だった。しかも身代金を持った被害者の父・生方(金田明夫)が宝福の後ろに
並んでしまったのだ。ここから宝福は彼の知らないところで、誘拐事件を捜査する警察に容疑者として
徹底的にマークされることとなる。
この警察の張り込み等の模様はしっかり描写されている。それは却って、見当違いの推理をする
責任者・大河原(渡辺いっけい)の滑稽さを際立たせて面白い。
そして、居並ぶ「行列」のキャストは「これでもか」というほどの個性派俳優陣の集まりで期待が増す。


ところが、「行列」だけで話を進めていくのかと思っていたら、元恋人と無理心中を図ろうと、
ポリタンクを持って街を駆けずり回るケバケバ女・駒子(かたせ梨乃)が登場、別の物語が発生し、
「行列」と並行して話が進むことになる。駒子はなんとひき逃げ事故を起こし、現場を目撃した
チンピラ達(半海一晃RIKIYA・TETSUYA) が彼女をゆすろうとたくらむ。
とあれよあれよと登場人物が増え、更には駒子が追いかける恋人は、宝福の妻・聡子が密かに
想いを寄せる古久根(長谷川初範)だった。といった具合に、どんどん話が膨らんでいく。
ここまでで、既に相当な数の登場人物を排出しているが、しっかり整理されているのでゴチャゴチャした
印象にはなっていない。最大の鬼門は「駒子」だったと思うが、かたせ梨乃が徹底的にコミカルに
演じることで、物語に重層的な笑いが生まれていると思う。


そして、主人公の宝福がまたイイ感じ。
彼が行列に並んでいる間、聡子は古久根出席のホームパーティ、恵美はお泊りデートと、
宝福に黙って外出。出かけると知らされていなかった宝福は憤慨するが、聡子に夫を亡くしたばかりの
友人を慰めていると弁明され、深く反省する。
行列仲間で妻を亡くした久保(村松利史)に「奥さん大事にして」と言われたばかりだったのだ。
同じく行列仲間の笹島(佐野史郎)に「妻は友達の為に外出したのに・・・。自分は小さい男です。」と
しみじみ呟く宝福。
本来なら感動的シーンなのに、この笑えないシチュエーションが妙に笑えてくる・・・(笑)。
体よく追っ払われてるとも知らず、「優しい妻と可愛い娘の為に行列に並ぶ私は幸せだ」とほのぼの
幸せを感じる宝福の姿が、可笑しく、愛おしく見えた。


これは三谷幸喜が得意とするシチュエーション・コメディーの類だと思うが、設定・描写・セリフ・
演出の間がハマッていて、面白かった。設定があまりにも現実離れしているとそれだけでノレない時も
あるのだが、その辺りは意外に踏ん張っていたと思う。
個人的には、何といっても國村隼のナレーションですね。もう、心にスッと染みてくる声や語りが最高。
これが毎回聞けるのかと思うと嬉しい。次回もなるべく早く見ます。(クーラン)