任侠ヘルパー 第七回感想

既に第八回も放映されているが、今頃「任侠ヘルパー」第七回の感想を。
〈あらすじ〉彦一(草なぎ剛)は、晴菜(仲里依紗)とともに、老婦人・孝江(江波杏子)の自宅に
訪問介護に行く。同窓会に出席する娘・初美(西田尚美)の依頼で来たのだが、白内障で視力がきかず
気難しい孝江は彦一らの対応が気に入らず文句ばかりだ。
初美は介護と弁当の配達の仕事をなんとか両立させていたが、それも限界を迎えていた。
彦一は彼女の部屋にある練炭睡眠薬を見てしまう。
一方、羽鳥(夏川結衣)に母親殺しの過去―認知症の母を捨てて男と逃亡。―という記事が雑誌に
掲載される。それが発端となり、ネット上での批判や、フランチャイズ契約の解除希望の声があがる
など、「ハートフルバード」への誹謗、中傷が広がっていく。


今回はシングル介護の現実を描く回だった。
孝江は目が見えず体に麻痺もあるが、筋金入りのヘルパー嫌いで、介護は一人娘の初美が一人で
背負っている。初美はいわゆるシングルアラフォーだが、母親の介護をしながら、昼は弁当屋
夜は内職と懸命に働いている。もう何年も自分の為の楽しみの時間など持ったことはないのだろう。
せっかく都合をつけて出席した同窓会も、着飾った友人と自分の現状との落差に気後れするばかり。
そして矢継ぎ早に入る母からの電話。心身ともに疲れきっている初美の日常が、淡々とそして容赦なく
描かれていく。そのうち、段々と親子の関係性が見えてくる。
孝江はかつて学校の校長を務め、生徒からも慕われていた教育者だがその分プライドも高く、
また孝江自身も認知症の夫の介護をヘルパーに頼らず一人でやり遂げていた。
娘にとっては立派過ぎる母親なのだ。そのせいか初美は孝江に対して盲目的なくらい従順だ。


ところが、初美の弁当屋での仕事が内勤から配達に変わる。
慣れない仕事と母からの電話で業務に集中出来ない初美はミスを連発、とうとう弁当屋を解雇される。
これも一見冷たい職場に思えるかもしれないが仕方がない部分も感じる。
介護とはいえ、業務に身が入らない初美の様子は、仕事に対していいかげんともとられかねない。
彼女自身は決していいかげんな人ではない。それなのに、介護と仕事の両立が結果仕事をおろそか
にし、ある意味社会的信用を無くしてしまう。
何とも理不尽な現実だし、世の中に自分を否定されたような思いになるだろう。
母の希望を満たすには二十四時間傍にいたほうがいい。しかし、現実問題として彼女が働かなくては、
親子は食べていけないのだ。痩せた初美の肩にずっしりと重たい現実が圧し掛かってくる。


一方、羽鳥に「母親殺しの過去」のスキャンダルが持ち上がる。ヘルパーのノウハウも学んだし
そろそろ潮時ではと話し合う任侠ヘルパー達だが、彦一はとりあわない。
その姿に任侠ヘルパー達は違和感を覚える。というのも、このところ彦一がヘルパーとしての仕事にも
慣れ、すっかりタイヨウに馴染んでいるようにみえるからだろう。
彦一は全てに無関心な態度を取りながら、実際は周りをよく見ている。
その注意力で老人の突飛な行動も寸止めし、崩壊寸前の初美の様子にも気が付く。
老人の世話は乱暴だが、その老人達は彦一のぞんざいさなど意にも介さない図太さだ。
意外にも、彦一はヘルパーに向いているのではないかと思わせる。
そんな彦一に影響され、涼太(加藤清史郎)もタイヨウでヘルパーの手伝いを始める。


彦一は羽鳥にスキャンダルの真偽を問いただすが、羽鳥は全て事実だと語る。
認知症の母を捨てて男と逃げ、そのせいで母は死んだ。あのままでは自分が母を殺しそうだった。
でもいくら逃げても逃げ切ることは出来なかった。」 この言葉に先程までの初美の姿が重なってくる。
羽鳥は羽鳥なりに全ての老人を救おうとしているが、初美のように潰れそうになっている家族も救いたい
と考えているのかもしれない。羽鳥の介護事業の原点は母親との哀しい過去だったのだ。


一方、初美がついに崩壊する。現実からの逃避か、同窓会で再会した滝本(小市慢太郎)に衝動的に
連絡をとるが、罪悪感で楽しめず、母からの数十回の着暦で慌てて家に帰る。
しかし孝江の「用事」とは「テレビのリモコンが見当たらない」だったのだ。
この一言でついにキレる初美。孝江を怒鳴りつけ、無理心中を図ろうと包丁を持ち出す。
そこに間一髪、彦一が駆けつける。彦一は向ってくる刃を素手で握り初美を制止すると、
孝江を一週間タイヨウで預かると宣言する。それでも「母は私が支えていく」と言い張る初美に、
「そんなにいい子でいたいのか。このまま自分の人生、棒に振るのか。」と言い放つ彦一。
その言葉に初美は「毎日辛くて辛くて仕方がなかった。」と呟く。
今まで誰にも言えなかったのだろう。そんなことを言うのは悪いことだと思っていたのかもしれない。
孝江に向けた刃は、母が憎いというよりも、苦しい現実や母への想いからいますぐ解放されたいという
初美の心の現れだったように感じる。


勝手にタイヨウに放り込まれた孝江はパニックに。何もかもが気に入らずヘルパーに当り散らす。
しかし、彦一はタイヨウの「最終兵器」涼太を投入。案の定、涼太は孝江のハートを鷲掴み、
二人は仲良しになる。孝江という人は、「私、私」でいつも「自分一番」に物を考える人に思える。
同窓会から帰った娘に真っ先に聞くことと言えば、娘が楽しい時を過ごせたかどうかでは
なく、彼女に代読させた自分のスピーチの評判だ。もとからそうだったわけではなく、不自由な体で娘と
二人だけの生活を送るうちに、段々と自分のことにしか思いが至らなくなってしまったように感じる。
そんな孝江に「先生の子供は悪い子なの?」と聞く涼太。孝江はその問いに絶句する。
初美は「悪い子」どころではない。ずっと孝江に尽くしてくれた。むしろ「いい子」だったのだ。
それに、例え悪い子だったとしても子供を愛さない親などいるだろうか。
娘が感じていたプレッシャーや負担に気付く孝江。
そんな孝江に彦一は「懸命に親の面倒を見る生徒がいて、あんたは立派な先生だ。
でも、四十過ぎても生徒のままじゃたまらない。そろそろ娘を卒業させてやれ」と言う。
黙って聞いていた孝江だったが、その日からヘルパーの手を借りて食事を取り始める。


一方、職探しを始める初美だがなかなか決まらない。自殺の為の練炭睡眠薬を捨てる初美。
その時花火が上がる。夜空に浮かぶ花火を見る初美の目に浮かぶ涙。
美しいものを美しいと感じる心が自分にもまだある。そのことに初美自身がどれだけ救われたか。
心を落ち込ませるのも、楽しませるのも結局は自分次第だ。
自分を救えるのは最終的には自分だけだと思う。初美は自分自身を救ったのだ。初美のこれからの
支えは、いつでも死ねるという覚悟ではなく、自分の為に生きるという意志なのだと感じた。
介護をしながら自分の人生を生きるというのは、もしかしたら以前より更にハードルが上がることに
なるのかもしれない。けれども、これからの初美ならそれができるような気がした。


一週間が過ぎ孝江は初美の元に帰る。厳しい現状は変わらない。でも変化がないわけではない。
孝江は「訪問介護」を受けることにしたのだ。指名ヘルパーは彦一。
彦一がこの親子に「冷却期間」を設けたことで、二人は互いのこと、自分のことを見つめ直すことが
できたし、初美は母親を捨てずに済んだ。
老人とその家族がそれぞれの人生を生きる為のサポートをする。
ヘルパーとして知らず知らずにそれを実行していく彦一。
タイヨウで行われた彦一のサプライズ誕生パーティー。利用者・職員に囲まれ憮然とした表情で
ケーキの蝋燭を吹き消す彦一を、任侠ヘルパー達は複雑な表情で見つめる。
彦一はいまやタイヨウで無くてはならない存在になりつつあるのだ。
しかし、彼らの本来の目的は「良いヘルパーさん」になることではない。
少し前の過去と現在の変化はいまや大きなものになりつつある。彼らの今後はどうなっていくのか。
(クーラン)