任侠ヘルパー 第四回感想

周回遅れだが、「任侠ヘルパー」第四回の感想を。
〈あらすじ〉彦一(草なぎ剛)とりこ(黒木メイサ)は、顧問・羽鳥(夏川結衣)から、
「ヘルパーは家族になれない」と言われて以来、利用者との関係性について思いを巡らせていた。
そんな折、彦一が車椅子の老婦人・ナツ(島かおり)の散歩の付き添いをしていると、ナツがひとりの
女性(山田優)を見つけて声を上げる。ナツが玲子と呼びかけた女性は、かつて訪問介護専門の
ヘルパーとして働いていたという。その後、玲子は「タイヨウ」にやってくる。
美人で気立てのいい玲子は、利用者だけではなく、施設のオーナー(大杉漣)達からも人気となる。


前回の節子の一件以来、彦一とりこは「ヘルパーの限界」を感じ気持ちが晴れない。
ヘルパーがどんなに心を砕いても、利用者が一番必要としている「家族」にはなれない。
その家族は利用者を施設に入れてほったらかしだ。
実務的にもヘルパーには色々と制約があり、利用者の要望に応えられる範囲は限られている。
一体何のためにこの仕事をしているのか。晴菜(仲里依紗)は「これは誰かがやるべきこと。
ヘルパーが家族の代わりなのだ」と言うが、りこは納得することが出来ない。
働いて達成感を得るのは幸せなことだと思う。
しかし、ヘルパーはある意味利用者を完全に満足させることは出来ないのだ。
もしかしたら、達成感を感じることが非常に難しい仕事なのではないかと思った。
肉体的・精神的疲労ももちろんのことだが、これではモチベーションが保てないのではと感じる。


介護の現状は、経営という切り口で羽鳥の視点からも語られる。
ヘルパーの労働条件を改善する為に効率化を図りヘルパーの離職率は下がった。
しかし、利用者や専門家からは、システマティックすぎる・高齢者のメンタル面のケアをと要望は
高まるばかり。ニーズに応えるには人員が必要だが、コストがかかる。
コスト面をクリアするにはヘルパーの賃金を抑えるか、利用料金を上げるしかない。
次々と要求される介護の理想に「だったら家族が世話をすればいいのよ!」と思わずキレる羽鳥。
ここでも介護の理想と現実の乖離が語られ、そのジレンマが伝わってくる。
羽鳥が言う「料金が安い施設が介護をするには、ヘルパーがボランティア精神で働くか、利用者が
施設のレベルに合った介護を受け入れるかしかない」というシビアな現実がようやく分かってきた。
また「介護施設が理想から遠い場所なら、それを変えていこうとは思わないのか」という彦一の問いに、
「安い賃金で労働条件は過酷。そのうえ理想まで求めたらヘルパーの数は減っていく。
ヘルパーの減少で孤立する高齢者が増えるよりまだマシだ。自分は目の前の老人だけ救えれば
いいとは思えない」と答える。彼女は彼女なりに「全ての老人を救いたい」と考えているのだ。
「老人で金儲けをしている」という批判を甘んじて受けている羽鳥だが、彼女には彼女の視野で考える
「介護」についての信念があるのだと思わされた。


そんなある日、「タイヨウ」の利用者ナツが玲子という女性と再会する。
それを期に玲子は「タイヨウ」に通うようになり施設の人気者になる。
美人でお年寄りの扱いがうまい。それだけではない、無認可の訪問介護福祉士の玲子は、
制約がない分、自由に介護が出来るのだ。お年寄りに家族同然に尽くし利用者に慕われる。
これがヘルパーの理想の姿なのだろうか。


しかし、世の中そううまくは出来ていない。
玲子はなんと詐欺ヘルパーで、しかも隼会と敵対する鷲津組と繫がっていたのだ。
孤独な年寄りに近づいて金を巻き上げる。それは「タイヨウ」にきたばかりの彦一もやっていたことで、
そのことを思うと、彦一は苛立つ。
やがて姿を消す玲子。だがその背景が徐々にわかってくる。
彼女は父親の経営する介護施設で働く介護福祉士だったが、施設はつぶれ父親は過労死。
鷲津組からの借金を玲子が背負うことになったのだ。


しかし、玲子と老人達の関係は実に奇妙なものだった。
ナツは玲子が詐欺師だと知っていた。時間や条件に制限があるヘルパーとは違い、玲子はどんなこと
にも対応してくれた。あんなに優しくしてくれたのだから、詐欺師でも構わない。とまで言うナツ。
そして、玲子に金を盗られた他の老人達も、親身に世話をしてくれた彼女を慕いこそすれ、
恨んではいなかった。盗まれた金も少額で老人たちは警察に届けてはいないと言う。
玲子は関わる全ての老人を細やかに世話している。金の為だけでここまで出来るだろうか。
また、孤独な老人の心、ヘルパーの限界についても、改めて考えさせられる。


ナツの夫の墓に玲子が現れる。足が悪く、自分では来られないナツに代わって墓参りをすると約束して
いたのだ。そこに踏み込む彦一とりこ。しかし玲子は
「安い給料で規則に縛られるより、自由に世話して家族代わりになったほうがずっといい。
だから私は悪いことしたなんて思っていない。
お年寄りをほったらかしにしている家族の方がろくでなしではないか。
実際世話して喜ばせているのは私なんだから、詐欺だろうがあれは貰って当然の報酬だ」と開き直る。
玲子の主張は納得させる部分がある。特に身勝手な家族への批判などは、一見正論に思えてしまう。


しかし、彦一は玲子を「タイヨウ」の老人達の前に引きずり出す。そして「詐欺師が感謝されたまま
逃げるのは筋違いだ、逃げるなら憎まれて逃げろ、許してほしいなら謝罪しろ」と迫る。
彦一達に啖呵を切った玲子も、親身に世話した老人達の前では顔を上げることが出来ない。
すると、ナツが声をかける。「私にやさしくしたのもお金のため?」
頷く玲子を「こんな寂しい年寄りを騙して酷いじゃないの!」と責める。跪き「ごめんなさい」と謝る玲子。
そんな玲子の背を優しく撫でながら「いいのよ。待っているから必ず返してね。」とナツは語りかける。
ナツは自分の為もあるが、玲子の為に彼女を責めたのだと思う。
本当は後悔して苦しんでいる彼女が素直に謝ることが出来るように、玲子を叩いて責めたのだ。
長く人生を歩んできた人の徳を感じる。
介護と考えると、こちらが一方的に「してあげる」ものだと思い込んでしまいがちだ。
でも、相手から受け取るものも確かにあるのだな。と思わされた。


玲子は自首し、彦一と鷹山(松平健)の尽力で鷲津組は玲子から手を引く。
ナツと晴菜の会話が印象的だ。「来年の墓参りはどうしよう」というナツに、晴菜は「ナツさんが
行った方がご主人喜ぶと思いますよ」と声をかける。「でも足が悪いから」言うナツに晴菜は言う。
「甘えないでください。明日からリハビリ一緒に頑張りましょう!」「きびしいわね」と微笑むナツに
晴菜は答える「ヘルパーですから!」
これがヘルパーと利用者の関係なのかなと思った。
ヘルパーは家族にはなれない。家族の替りにしかなれないのだ。それでも癒されない孤独があったと
しても、その心は各々個人で請け負うものだと思う。
そのうえで、彼らに寄り添い支えるのがヘルパーの仕事なのだと感じた。


意に染まぬ悪事に手を染める女を任侠の理でカタをつけさせた彦一だが、鷹山に思わず問いかける。
「ここで身につけるシノギとは、年寄り騙すことなんですかね」「その答えは自分で考えるんだな。」
ドラマは中盤に差し掛かろうとしている。彦一の答えは見つかるのだろうか?(クーラン)