任侠ヘルパー 第三回感想

既に第四回も放映されているが、「任侠ヘルパー」第三回の感想をひっそりと。
〈あらすじ〉彦一(草なぎ剛)とりこ(黒木メイサ)は、「タイヨウ」を利用する老婦人が
自宅で虐待されているかもしれないと聞き、その家を訪ねる。
応対したのは老婦人・渡辺節子(森 康子)と暮らす孫・高志(忍成修吾)で、日中にも関わらず
節子は寝てしまったのだと話す。ところが台所で音がするのを見ると、節子が流しにいた。
その腕には、赤黒い縄目と思われるアザが・・・。
彦一達は、鷹山(薮宏太)、黒沢(五十嵐隼士)、六車(夕輝壽太)、二本橋(宇梶剛士)ら
任侠ヘルパー”と、ヘルパー・和泉(山本裕典)に虐待の疑いがあることを告げる。
しかし、虐待の判断は難しく本人がそれを認めない限りこちらが勝手に動くことはできないのだという。


今回は、老人虐待とヘルパーの限界を描く非常にシビアな回だった。
冒頭、りこの兄の一周忌の様子が描かれる。
そこで、兄の跡を継ぎ女だてらに組長をやってはいるものの、他の組からはナメられ四方木組内ですら
若頭・久米(田中哲司)が幅を利かせて、りこを軽んじている現状が明かされる。
さらに、組のシマでクスリの売買をしている素人がおり、久米を含め「組がクスリを仕切るべき」と
考える者達も出始めていた。「四方木組は昔も今もクスリには手を出さない!」とりこは断じるものの、
「なら、かわりのシノギを得る為にも、幹部の座を持ち帰って箔を付けてくださいよ」と
久米からは当てこすられる。女性だからとナメられる。どんな仕事をしていても、程度の差こそあれ、
こういったことはある(と私は考える)。「男の世界」で長を務めるならなおのことだろう。
適当に流して円滑に治めるか、とことん闘って鎮めるか。どちらもアリだと思う。
しかし、どちらにせよ、結局は自分の力で解決しなければならないことなのだ。


焦るように、ヘルパーの仕事に取り組むりこ。
そんな時、老婦人・節子の腕に縛られた痕を見つける。おそらく孫・高志による虐待と思われるが、
和泉らに相談しても、虐待の判断は難しいのだと言われる。
最初「難しい」というのがどういうことなのか、私もよく分からなかった。
節子を演じているのは森康子さんだがこれまでのゲスト御老人とはうってかわってのリアルお婆ちゃん。
シワシワで背中も丸いちっちゃなお婆ちゃんが孫に容赦なく虐待されている光景はとても残酷に
見える。なので、節子がなぜ目の前の彦一達に助けを求めないのか、最初は不思議に感じた。
高志に脅されているからなのだろうか? しかし、話が進むにつれ、そんな単純な問題ではないことが
分かってくる。


りこは、節子の家に何度も通い続け徐々に親しくなる。晴菜(仲里依紗)もそこに加わる。
幹部昇格の点数稼ぎのつもりが、段々と節子に入れ込んでいくりこ。
そんなある日、りこは只ならぬ気配の節子に「お願いだからもう来ないで」と懇願される。
節子を思っての訪問は逆に高志の虐待を激しくしていたのだ。
その事実に胸を突かれながらも「高志に虐待されている」ことを認めてくれと訴えるりこ。
しかし節子は「私にはあの子しかいない。あの子は家族だから。ヘルパーさんはずっといてくれる
わけじゃないけど、あの子は私の傍にいてくれる。だからあの子は悪くない。」と嗚咽する。


「幸せ」についての考え方というのは、人それぞれ異なっているだろう。
でもこの節子のように「家族と一緒に暮らすこと」を幸せと感じる人は大勢いると思う。
節子にとっては、虐待による肉体的苦痛よりも孤独による精神的苦痛の方が遥かに勝っていたのだ。
どんなに節子のことを思っていても、家族にはなれない。ヘルパーのりこには彼女の望みを叶えることは
出来ないのだ。たった一人の家族を取り上げることは節子を悲しませるだけ。その事実に苦悩するりこ。


しかし、セツ子を放っておけないりこと彦一はある方法で虐待の現場を押さえると、高志を「タイヨウ」
へと引っ立てる。そこで、節子と高志の両親は絶縁状態であること。
高志も節子と幼い時に一度会ったきりだったこと。
しかし高志が親に勘当されて節子のところに転がり込んだことが明かされる。
「頑張って介護した。でもつい・・・。」と俯く高志。


これは確かに虐待が起こりやすい状況だと思った。祖母と孫とはいえ殆ど面識のない二人。
世代の違いは、日々の活動時間や食事の違い等、様々な生活様式の違いにどうしても繫がる。
お年寄りと接する機会のない若者が、そこを理解し、対処し、意思の疎通を図るには、
それなりの時間が必要だ。そのうえ介護も同時進行というのでは相当な重圧だろう。
こちらの希望通りに動いてくれないお年寄りにイライラすることもあったのだろうとは思う。
所長(大杉蓮)は責めたてる様な事はせず「大変な時は我々プロも手伝うから」と声をかけるが、
高志はサービスの利用を再開するとは言わない。しかしその夜、静かに謝罪の言葉を口にする高志。
二人にようやく穏やかな時間が訪れたように見える。


ところが、事件は急展開する。四方木組のシマでクスリの売買をしている素人は高志だったのだ。
節子の家に駆けつける彦一とりこ。高志は既に久米達に連れ去られ、後には縛られた節子の姿が。
しかし、病院に付き添おうとするりこを、「自分のシマのことは自分でけじめをつけろ!」と彦一は
一喝する。厳しい言葉だなと思う。しかし、りこの選んだ世界はこういう理で成り立っているのだ。
そして彦一は、組の頭が背負うケジメに男女の区別は無いと考えているのだなと感じた。


シバかれる高志の前に現れたりこ。しかし高志は「最初は世話してやろうと思ったんだよ。
お前らに分かるかよ!呆けたババアの世話を四六時中している家族の苦労が!」とキレる。
そんな高志の横面を張り倒して「自首させろ!」と命じるりこ。
久米の脅しともとれる抗議にも屈せず「組長の命令」を押し通す。


ここで叫んだ高志の言葉は真実なのだろうと思う。というか、アシがつかないように節子の家に
隠れていたのも、節子を世話しようと思ったのも、最初は介護を頑張ったのも、全部本当のことだと思う。
ヤクの売人なんてもちろんとんでもないが、悪い人間ではないのだろう。
節子が高志を見捨てなかったのも彼の優しい一面を知っていたからなのだろう。でもやっぱり、それでは
ダメなのだと思う。そんないい加減な優しさでは自分も周りの人も幸せに出来ないのだ。


高志が自首した後、節子は「タイヨウ」に入所する。
ようやく穏やかに過ごしてもらえるとりこは安堵するが、それは最悪の事態への始まりだった。
高志がいなくなったショックからか節子の認知症が進行する。高志の名を叫び施設を徘徊し暴れ回る。
「あんたが高志を」とりこに掴みかかり、やがて自傷行為も出始めた節子に、ついに身体拘束の処置が
為される。「ここでも縛られるのかよ」りこの嘆きが哀しい。節子の現状に胸を痛めるりこと彦一。
しかし羽鳥(夏川結衣)はそんな二人に言い放つ。「これがヘルパーの限界よ。
私達はむやみに人の心に踏み込むべきではない。ヘルパーは家族ではないのだから。」
羽鳥の言うことは真実なのだろうと思う。実際一人一人にここまで精神も肉体も消耗していたら
ヘルパー自身も疲弊してしまう。


ヘルパーは仕事。しかし介護する対象は人なのだ。ヘルパーの仕事の難しさを知れば知るほど、
利用者との距離や関係のあり方について思い悩む彦一とりこ。次回はどうなるのか。(クーラン)