刑事の現場2リミット 初回感想

既に第二回も放映されているが「刑事の現場2 リミット」の初回感想をひっそりと。


〈あらすじ〉名古屋市街で通り魔殺人事件が発生。
中央署に着任早々、現場に向かう啓吾(森山未來)は犯人を容赦なく痛めつけるひとりの男と出会う。
彼こそ署内で悪魔と恐れられる梅木(武田鉄矢)刑事だった。
取り調べ室で黙秘を続ける犯人は「暴力をふるったことを謝れ」と梅木に怒鳴るが、
「お前みたいな奴は死ね」と梅木は返す。
啓吾は絶望する被害者の父親(斉藤洋介)を前にして無力さを痛感していたが、梅木は父親の
首をつかんで、「俺を殴れ」と叫ぶ・・・。


ついに今期大本命のドラマを鑑賞。
本シリーズの前作にあたる「刑事の現場」も見ていたが、次作がこれほどにハードな展開になるとは
思いもしなかった。
ところで本作は「リミット」と副題が付いている。
「警察組織としてのリミット」「捜査のリミット」「時効のリミット」等様々なリミットが
語られるのだろうが、その中心となるのは明らかに「人間のリミット」なのだということを初回で
思い知らされた。


既にアバンからMAXの緊張感を漂わせている。
ナイフを振り回す通り魔犯人を挑発し、向かってきた男の首を、殺すかと思われる程に締め上げる梅木。
この登場は梅木という男の特性を端的に現していたと思う。
一連の登場シーンは、彼のタフガイさを語るためのものではなく、彼が恐怖や自身の生死に対して
無頓着であることを示すエピソードに思える。
梅木は、啓吾の親以上の年齢でありながら、人間としてどこか壊れかけているような危うさを
抱える人物なのだ。梅木という不気味な存在に啓吾が侵食されていくような不安を感じさせる。


啓吾はその梅木と組まされることとなる。
「どうしてこんなことが起こったのか。遺族に何が出来るのか。僕は知りたい。」と梅木に語る啓吾。
二作目でも相変わらず優しい啓吾に思わず苦笑したが、その後まったく笑えない展開になってくる。
というのも本作は、啓吾の美徳である優しさや善意の限界をとことん炙り出していくつもりなのでは
ないだろうかと感じてきたからだ。そして、その答えはすぐにやってくる。


冒頭に捕まえた通り魔犯人を、啓吾と梅木は取調べる。しかし、犯人はこともあろうに
「人権侵害だ!誤れ!」等と言い出し、「親も学校も職場も誰もオレのことをわかってくれない。
どうしてオレだけがこんな目に遭わなくちゃいけないんだ!」と叫ぶ。
そんな犯人に「今の世の中、理不尽で不公平で何に救いを求めていいのかわからない。
俺も一歩間違えばこうなっていたかも。」と啓吾は同情を寄せるが、梅木は「それは違う!」と断じる。
「人間は殺したいほど憎い相手がいても殺さない。そいつにも惚れた相手がいるのだと思えば
人間に見えてくる。だから人は人を殺せない。しかしこいつは、憎くもない人を自分より弱い相手を
選んで殺した。なぜそんなことが出来たか?それはこいつが人間じゃないからだ!」


人権どころか、犯人を人間としてすら認めない梅木。
家庭や社会に問題がある?そんなことは、梅木にとって考える意味さえないことなのだ。
しかし、通り魔事件の経緯、そして犯人の態度を見て、梅木が間違っていると言えるだろうか?
法律や人権以前の、人間として根本の倫理を問う梅木の正論の前では、「罪を憎んで人を憎まず」
という啓吾の主張は、影が薄くなるばかりだ。


そして話は新たな展開に進む。
通り魔犯人が本部に移送される当日。啓吾は、娘を喪い、後追い自殺で妻までも喪いかけている
父親の絶望を目の当たりする。しかし突然梅木は、父親に自分を殴らせ啓吾に逮捕させると、
父親を犯人が収容されている独房に送り込む。足元に蹲る人影に興味を示さない犯人だったが、
娘を喪った恨み言を呟く男が何者かわかりパニックに陥る。
しかし梅木は犯人の口元を押さえ込み、叫びを上げることも逃げ出すことも許さない。あまりの絶望と
嘆きで常軌を逸した表情の父親に縋り付かれて、犯人は目を逸らすこともできず涙を流す。


父親は凶器となりそうなものはあらかじめ没収されて犯人と向き合った。
彼は犯人に自分の嘆きを訴えただけだ。しかし、そこは人間の剥き出しの慟哭や憎悪を吐き出す
地獄絵のような現場と化し、立ち会った啓吾は身動きも出来ない。
啓吾はおそらく今までこんなにも生々しい負の感情に接したことなど無かったのではないだろうか?
そしてあえて負の感情をぶちまけさせる梅木に言い知れぬ不気味さを感じたに違いない。


けれど、梅木は間違っていたのだろうか?
確かに、こんな方法を取らなくても法廷で顔を合わせ心情を語ることは出来るだろう。
しかし、独房で父親に縋り付かれて犯人は涙を流していた。
それは罪を反省したという意味ではないだろう。
本能的な恐怖と衝撃が彼に涙を流させたのだと思う。と同時に、今まで自分のことしか
考えられなかった男が、己が何をしでかしたのかということを、初めて肌で理解できたのだと感じた。
父親に身体を触れられ、その生々しい表情を目の当たりにして、人をここまで破壊したという事実が
身に迫ってきたのではないだろうか?


被害者の父親はどうか?釈放された後、憑き物が堕ちたような表情で梅木に礼を言う。
殺したいほど憎い相手に、恨み辛み憎しみ嘆きを、顔を突き付けてぶつけることによって、
彼は人間として一線を越えないで済んだように感じる。


冒頭、啓吾が語っていた「被害者の家族に何が出来るのか」という言葉を思い出す。
それをいうなら、結果的に梅木は被害者家族が一番求めていることを施して人間のリミットを
越えさせないようにしたし、それはリミットを越えた犯人を人間に一歩戻すことにもなった。
常識や組織に縛られて啓吾が出来なかった事を、梅木はやってのけたということになってしまうのだが。


しかし、警察という組織、自分自身、なにより人間という生き物に絶望し愛想をつかしている梅木を
見ていると、私達が生きる殺伐とした社会というものを、より意識させられうっすらと寒気を感じる。
このスタンスで人間の境界を描いていくということなのだろうか?


セリフの意味や言葉の力を、更に強く際立たせる武田鉄也の演技が出色。
森山未來は前作では寺尾聡を相手に攻めの演技をしていたが、本作は逆に守りの演技を
見せていくことになるのだろうか?それも、相手が黒金八では相当荷が重いとは思う。
しかし、梅木に翻弄される啓吾と今の森山氏は相当シンクロしていると感じる。
早めに次回も見たいと思います。(クーラン)