ソンドラ・ロックの「インパルス」

本日よりフィルムセンターでクリント・イーストウッド回顧上映会開催中!
しかしながら、ソンドラ・ロック共演作が一本も上映されないとは如何なることか。
(権利の関係とか色々あるのでせうか?)


ソンドラ・ロックが公私共にパートナーであった時期のイーストウッド監督・主演作、即ち
アウトロー」「ガントレット」。
これらの作品は、イーストウッドが役者として最もアブラの乗った時期の作品であり、また
演出家としても西部劇、刑事ものという勝手知ったるジャンルにおいてそのエンタテインメント
性を最大限発揮することのできた傑作だと思うだが、かえりみられることが少ないような。


ところで、上記二作品にはソンドラ・ロックのヌードがちらり。
(どちらもラブシーンにあらず、レイプシーン!)
続く「ダーティハリー4」においても、しつこいくらいのレイプ描写(またしても!)の餌食に。
実生活の愛人にそんな役ばかりあてがうイーストウッドの倒錯した嗜好は正に「白い肌の異常な夜」。
しかし、ほどなく決別。


ソンドラ・ロックがイーストウッドに対し慰謝料未払いを提訴していた90年代初頭、突如、彼女は
刑事映画を監督した。


テレサ・ラッセル主演「インパルス」。
イーストウッド回顧展に鑑み再観してみた。


本作は、大口径の銃を所持した刑事もの、
しかも「ガントレット」よろしく重要事件の証人が絡む筋書き。
なぜこの時期にこうした作品を…、あてつけか!?


しかし、本作はイーストウッド監督作に負けず劣らずの秀作となった。


粗筋。ロサンゼルス。風紀課の刑事ロッティ(テレサ・ラッセル)は上司のセクハラ被害に遭い
ながらも囮捜査に精を出している。
ある日、検事(ジェフ・フェイヒー)から潜入捜査官の派遣要請が。
内容は、重要事件の証人である麻薬ディーラーが、彼の地へやって来たという情報を入手したので、
誰でもいいからLAドラッグ・コネクションに潜入して身柄を確保してこい、というもの。
セクハラ上司はロッティを推薦する。
潜入捜査の夜、同僚の手際の悪さから、危うく命を落としそうになったロッティは、憤懣やるかたなし
でヤケ酒を煽っていた。そして、声をかけてきた男に付いていってしまう。
しかし、その男こそ、NYで麻薬取引中に仲間もろともその場にいた全員を射殺、金とブツを独占した
当該麻薬ディーラーだった…。


と、何やらマイアミ・バイスを思わせる展開ですが、さにあらず。


夜の闇、瞬くネオン、銃撃戦…と、この種の映画のルーティンに沿ってはいるものの
孤独な女刑事の内面描写が本作の主眼。


セクハラ、パワハラが日常的なロス市警…
そんな環境でタフに振舞ってみせるロッティ。
平凡な日常など耐えられないとうそぶき、犯罪捜査の過剰な刺激に身を任せる。
または、夜のハイウエイをポンティアックトランザムで疾走する。
囮捜査でストリートに立ち、男を誘い、まんまと付いてくる男の顔を見て優越感に浸る。


しかし、そんな刺激中毒な自分にウンザリもしている。
セクシャルな身体から世の男どもの好奇の眼に晒されることはあっても、周囲は誰も
ひとりの人間として見てくれない。そして自分もまともな人間に接するのが慣れていない…。


野獣の街のピンナップ・ガールの苦悩…なんかとてもリアルで胸をうつ。
演じるテレサ・ラッセルの持て余し気味の身体がまた一層説得力を感じさせる。


「愛すれど心さびしく」の少女は、イーストウッドの男性映画のなかでもまれ、
自我に目覚め大人になった。そして、タフで繊細で、ダーティで美しい映画を撮った。
本作は、劇場未公開でDVDの未発売なのが惜しまれる好編。


インパルス(1990年 アメリカ映画)原題IMPULSE
監督ソンドラ・ロック
製作アルバート・S・ラディ(←あの「メガフォース」の!)アンドレモーガン
出演テレサ・ラッセル ジェフ・フェイヒー