任侠ヘルパー 初回感想

既に第二回も放映されているが、今頃初回の感想を。


正直全く期待していなかったのだが、意外に面白かった。
面白く感じさせた要因は、ここで描かれる「任侠」というか「ヤクザ」の描写だと思う。
「ヤクザ映画」と言えば、古くは高倉健さん主演の任侠物とか、東映ヤクザ映画とか、今で言えば
Vシネマとかがポピュラーだと思う。
そこで描かれる世界は、ある意味男のロマンだ。男はとことん豪快で強くなければならない。
金も女も酒も暴力もとことん極める。そんな漢に男は憧れる。
しかし、ここで描かれる「極道」はどうか。


主人公の翼彦一(草なぎ剛)は、隼会・翼興業組長。舎弟に“振り込め詐欺”をさせている事務所での
彦一は、ジャージに金ピカネックレスを下げ、鉄砲玉にしか見えない。
そんな彦一が若頭・鷹山源助(松平健)の命を受け、幹部候補として、他の五人とともに老人ホームに
ヘルパーとして送り込まれる。問題の老人ホームは「身体拘束」等は行わず、利用者の自主性を
重んじる方針の施設らしい。しかし、もちろん真面目にヘルパーなんかやりゃしない。
入居老人達の家族構成を聞き出しカモにしようと企み、自分を息子と思い込んでいる認知症老女
(池内淳子)からは金を巻き上げる。
やってることはもちろん酷いことだが、その内容が抜け目ないというかセコイ(すみません)。
その彦一の酷さというかセコさが象徴されているのが、老女から巻き上げた金で買ったロレックスで、
確かに高価だけど全然似合ってないその時計は、彼の視野の狭さや成熟していない部分も語っている
のではないかと思った。


しかしやってることはセコいが、彼の内面はどうなのか。
無愛想な彦一は内心では義理人情を貫く「任侠道」に生きるというのが理想らしい。
しかし現実は、シノギとして“振り込め詐欺”にせっせと手を染める毎日。
彼が何かというと呟く「任侠で飯は食えない」。というせりふは、「結局世の中こんなもんだろ」という
諦観に感じる。というか自分も含め人生わかった気でいる人間が、小さく纏まろうとしている言い訳の
ように感じてしまうのだ。
豪快で強い男の世界に憧れながら、自分の思うようには生きられず、内心苛立ちながらも結局は
流されて生きている。ここで描かれている彦一のキャラクターは自分とかけ離れてはいないように
感じられ、そこに親近感を持った(やってることには共感できないが)。


他の幹部候補生もスケールを感じさせない。若い女性の組長(黒木メイサ)。
喧嘩上等のチンピラ(五十嵐隼士)。鶏ガラみたいなチャラ男(薮宏太)。
潔癖症インテリヤクザ夕輝壽太)。もっさりした中年オヤジ組長(宇梶剛士)。
とこれでもかというほどのスケールの小ささ。しかし、キャラはたっている。
第一こいつら、上を目指す為、言われるがままに、やりたくもないヘルパーやってるのだ。
サラリーマンか!ここにも豪快さや憧れを感じる「男のロマン」は存在しない。
つまりこの作品は老人介護の繊細さとヤクザの豪快さとのギャップで笑いを取ろう等という意思は
毛頭ないのだ。この点にも好感を持った。


しかし、中盤までは非道?の限りを尽くした彦一だったが、老女を夜中に徘徊させたことをその家族に
謝罪しにいった辺りから状況が変わってくる。
工場経営がうまくいかず母親どころではない息子。冷たい息子に怒りを感じながら、表の世界でも
しのぎで苦悩している人間を目の当たりにして、彦一は何も言うことができない。
それまで金のなる木としか思わなかった老女に相対するのが辛くなり彼女を避け始めるが、
それが事件を引き起こし、彦一は老女をかばって敵対するヤクザにボコられる。
ここらの展開は少々強引さも感じたが、乱闘後に、花見に来たのに桜は散ってしまったと落胆する
老女に、花火の明かりで彫り物のサクラを見せる展開には、ちょっとグッときた。
しかし、ラストでは、息子は工場をたたみ妻の田舎に引っ込むこととなる。
老女はその近くの老人ホームに入れられることとなり、息子との同居は出来ない。
更には、老女は彦一のことをすっかり忘れている。
ありえない展開のドラマではあるが、口当たりよくは終わらせず、厳しい現実や哀しみを描いている
ところも好感を持てた。
介護の実態についてはこんなものではないと思うが、ドラマとして割り切ってみることは充分出来ると
思う。


今後は大手介護施設社長の羽鳥(夏川結衣)との対立を軸に描かれると思う。
しかしこの二人、第一印象は近親憎悪というか、お互いの胡散臭さが気に入らないという感じなのが
面白かった。彦一は第一話の段階では、羽鳥と対して変わらないスタンスだと思うんですよね。
でも今後様々な老人と関わって変わっていくのだろうと思う。
でも、草なぎ氏のシラケヤクザのキャラも面白いので、あまり早く更正はしないで欲しいかな(笑)。
冷えた目で相手を睨みつける演技はうまいと思いましたね。
冒頭の長廻しの立ち回りのシーンも良かったです。今までとはかなり違った役どころなのに、
毎回、海千山千のゲスト俳優(殆どがベテラン)と演技対決するのは大変だと思います。
今回の池内淳子さんの美しいお姿にも感動しました。とりあえず次回も見ようと思います。(クーラン)