「ハゲタカ」(ネタバレ)

ナゼか、有楽町界隈では上映がない大友啓史監督作品「ハゲタカ」。
近所のシネコンでは上映していたので、観賞す。


最近珍しい「大人の男」が活躍する映画。
主役の鷲津を演じる大森南朋さんはHUGO BOSSのスーツの着こなしも鮮やかに
TVシリーズ同様、企業買収のプロフェッショナルを魅力的に演じる。→ TVシリーズ雑感ココ


今回は中国系投資会社の大手自動車メーカー買収を救うべく、再び一線に復帰するという話。


中国系投資会社の代表 劉一華を演じるのは玉山鉄二さん。
演技派としての地位を確立した南朋さんの相手役とあって気合充分。
(映画「ロッカーズ」のグラム・ロッカーも別の意味で、かなり気合入っていたケド)
といっても、大上段に構えた芝居をする訳ではなく、同世代の派遣工(高良健吾)に対するフラットな
語りなど非常にリアルに演じている。


で、劉は、そんな気安さで派遣工を巧くノセる訳で、
彼らの出会いのシーン
劉は派遣工にこう言う。
「君はおもしろい奴だな…
 警戒心は強いのに、
 差し出されたコーヒーは遠慮なく受け取る…」
さも「君は『冷静』にして『大胆』。そこらの奴らとは違う。」と言っているかのよう。


それでも「俺達は部品とかわらないんだ…誰でもいいんだ…」と呟く派遣工に
「誰かになれ!」とゲキをとばす劉。


そう、こころのなかでは、誰もが皆「人とは違う」と思いたい、そして、思われたい。


果たして、派遣工はまんまとノせられ、劉の思惑通り利用される。


では、この劉という男はいったい何者なのか。


派遣工を利用し、労働条件改善のデモ行進を誘発
しかし、直前でそれを鎮圧
すべて計算とおり事を運び、メーカーの信頼を得て、勝利の美酒に酔う男、劉。
そんな彼の前に、鷲津が現れこんな会話を交わす。


鷲津「お前はだれだ」
劉 「オレはあなただ」


そう、彼ら二人は同様に、金も学歴もコネも…何もないところから出発し、
今の地位を築いたのだった。


それならば、出発点は、あの派遣工も同じだったはずではないか。
つまり、派遣工 は 劉 であり そして 鷲津なのだ…。


そして、映画を観る わたし や あなた の現実も「派遣工」のようであり、
いつかは 鷲津のようになりたい と 思っているはず…。


本作が我々を惹きつけてやまない作品となっているのは、このためだ。
映画は欲望を映す鏡だ。


同時に本作は、良質な社会派エンタテインメントとなっている。
社会派たる所以は、世界金融危機派遣社員の不安定な雇用状況など、我々の日常のシリアスな
問題を扱ったドラマであること。
エンタテインメントたる所以は
「引退した、かつての英雄が、再び一線に復帰して活躍する」という娯楽映画の王道をいっていること
からである。
そしてそれは、かつては名を馳せたが、今は酒浸りの老ガンマンが、無法の街を守るため
再び立ち上がる といった、いにしえの西部劇そのままではないか。(○)