アイシテル〜海容〜 第八回感想

大分遅れてしまったが、「アイシテル〜海容〜」第八回の感想を。
〈あらすじ〉さつき(稲森いずみ)は、智也(嘉数一星)が犯した罪をともに背負い生きるために、
懸命に智也と向き合おうとしていた。
そんなさつきの思いは少しずつ智也にも届き、智也はついに家裁の担当者・富田(田中美佐子)に
事件当日の全てを話し始める。


う〜ん。重い。今回は非常に痛々しく残酷な回だった。
まず被害者の小沢家。さつきから2度目の手紙を受け取った小沢家は大揺れ。
聖子(板谷由夏)と秀昭(佐野史郎)の意見が対立。
美帆子(川島海荷)は、自分が「死んで償え!」と糾弾したさつきが生きていて安堵する。
しかし「ホッとしたことにムカついて、でもやっぱり生きてて良かったと思って・・・」と
複雑な心境を語る。
憎悪というか負の感情を抱き続けるのは酷く疲れることだ。
しかも、その相手が生きていて良かったとも感じてしまう相反する感情にまでいちいち向き合うのでは、
本当に心を消耗するだろう。秀昭が案じるのは「そこ」なのだと思う。
加害者を知れば知るほど言い様のない感情が被害者家族を襲う。
家族や自分をそんなものに関わらせたくないし、第一、事件のことを思い出したくもない。
それに、辛い記憶を一番思い出したくないのは秀昭自身なのかもしれない。
家族を守ること第一で、自分の「辛い気持ち」は家庭には持ち込まず、居酒屋での一人飲む酒で
紛らわす。そんな秀昭に更に事件と向き合うことを求めるのは酷なようにも感じる。
彼の苦しみの深さを改めて感じた。


しかし、聖子は「もし自分がさつきの立場だったら」と考え、「私達は事件のことを何にも知らない。
一番辛かったのはキヨタンなのに可哀想だ」と秀昭に語る。
聖子はさつきの手紙を読み、この母親が特別酷い親だとも自分とかけ離れた女性だとも思えなかった
のではないだろうか。そしてその母親が息子の心を取り戻そうとする姿勢を感じて、同じように聖子も
自分の息子を取り戻そうとしたのでは。
聖子の記憶に残るキヨタンは事件の朝別れた時のまま。このままでは聖子は納得出来なかったのだ。
息子は最後までどう生きたのか。親の自分が知っておかなければ、息子が可哀想だし聖子もキヨタンと
お別れ出来ないと思ったのではないだろうか。
例え、残酷な事実であったとしても、その全てを知りたいと望む聖子に母親の強さを感じた。


そして今回、審判で読み上げられた智也の日誌により、ついに事件の真相が明らかになった。
あの日、智也はトイレに行きたくて困っている清貴(佐藤詩音)を自宅へ連れて行ったこと、
「ただいま」といわない智也を清貴が「ヘンだヘンだ」と言ったこと、
智也よりキャッチボールのうまい清貴が「いつもお父さんとしているから」と自慢したこと、
清貴の些細な言動が「僕は悪い子」だと思っている智也の神経を少しずつ逆撫でしてくる。
そのうち「ママが待っているからもう帰る」と清貴が言い出す。
思わず「待ってなんかない!」と答えた智也に清貴は激昂。
「お兄ちゃんすげーヤナ奴!お兄ちゃんはすごく『悪い子』だから、ママもパパもみんな
お兄ちゃんのことが大っ嫌いなんだ!」
自分を睨み付ける清貴の後ろには「ママはアナタが大好き」と書かれたアノ看板が・・・。
更には、お母さんが買ってくれたグローブを地面に叩きつけ
「ママはキヨタンが大好きなんだ!お兄ちゃんのママとうちのママを一緒にしないで!」と
言い出した清貴を、智也は「僕のお母さんを悪く言うな!」と叫んで引き倒し・・・。


不幸な出来事だと思った。
あの日二人が出会わなかったら。誰か大人がついていれば。智也の身に「鐘突き婆さん」の事件が
起こっていなければ。他にも不幸な偶然が幾つも重なり起こってしまった事件にも思える。
何より二人とも幼すぎたのだ。子供だからこそ考えなしで残酷な言葉を口にしてしまう。
また自分を抑えられずカッとなる。でも、子供は本来、こういうことをイヤッてほど繰り返して、
人との接し方を学んでいくものであるはずだ。それがどうしてこんな悲劇に・・・。
二人とも「お母さん」が大好きな子供だった。
清貴は疑う隙もないほど聖子に愛されていたし、智也の世界の大部分はさつきだった。
だからこそ互いに譲れなかったのかもしれない。
智也が清貴を手にかけたのはさつきを侮辱されたから。
これまで動機を隠し続けたのもさつきを悲しませたくなかったから。
智也が懸命に守っていたものが、自分であることを知り愕然とするさつき。
「僕は悪い子です!」と錯乱する智也を抱きしめ「お母さんを許して・・・」と涙する。
母親への愛が残酷な殺人を引き起こしたのかと思うとあまりにもやりきれない。


そして、その事実は「これで最後にしよう」と裁判所を訪れ調書を読んだ秀昭夫婦にも衝撃を与える。
秀昭は到底受け入れることが出来ず苛立つが、聖子は「少年も母親を愛していたのだ」と悟る。
「その子に会って、清貴は傷つけるつもりで言ったんじゃないと伝えたい。
その子の中で清貴が酷い子のままだなんて息子が可哀想過ぎる!」
しかし、被害者家族が犯人の少年に会うことは禁止されている。
聖子にとっての「息子を取り戻す」ことは、もしかすると、加害者少年に清貴を少しでも
わかってもらうことになっていくのだろうか。
だとしたら、どうすればそれを為し遂げることが出来るのだろう。
例えそれが出来たとしても、もちろん清貴が帰ってくるはずもない。
聖子にとってそれは辛いだけなのではと思うと、色々考えさせられた。


ところで、今回少し違和感を感じる部分もあった。
智也の同級生の遥が「智也に学校に戻ってきてほしい」とさつきにノートを差し入れる。
遥はよっぽど友達想いなのかもしれないが、「学校に戻る」というのはちょっとありえないんじゃ
ないかと思ってしまった。さつきも少し前を向き過ぎているような気がする。
智也は確かに苦しみながら「真相」を明らかにした。
でも、彼にはまだやらなければならないことがあるはずだ。
それは清貴とその家族への謝罪と、「命の尊さ」を本当の意味で理解すること。
犯した罪の重さに彼が気付くことが出来なければ、さつき達のそして聖子達の苦しみや涙は
無意味になってしまうのだから。(クーラン)