アイシテル〜海容〜 第四回感想

周回遅れだが、「アイシテル〜海容〜」第四回の感想を。
〈あらすじ〉さつき(稲森いずみ)は担当の調査員・富田(田中美佐子)の励ましで、
母親として智也(嘉数一星)と向き合う決心をする。
さつきは富田から事件当日智也が困っていた清貴(佐藤詩音)を自宅のトイレに案内したと聞かされる。
「やさしい気持ちでその子に声をかけていた…」許されることではないと知りつつ、わずかに救われた
気分になるさつき。だが、そんなさつきの様子を清貴の姉・美帆子(川島海荷)が偶然目撃してしまう。


う〜ん。重い。今回は非常に見ごたえのある回だった。
まずは加害者の野口家。
わずかに救われた気持ちになって微笑むさつき。それを見てショックを受ける美帆子。
いや〜。これは難しいですよね。美帆子からすれば、被害者の自分の家は、すっかり笑顔が消えた
家庭になってしまったのに、なんで加害者家族は笑ってられるんだと思うだろう。
私もそう思っていた。しかし、本作をずっと見ているうちに段々と考えが変わってきた。
生きるにはやっぱり笑顔が必要なのだと思う。どんなに悲しくてもお腹はすく。
それと同じように、人間って、希望を感じたりおかしいことがあれば微笑を浮かべてしまうものなのだ。
それすら出来なくなったら死ぬしかないではないか。


しかし、例えわずかな希望を感じたとしても、智也とさつき夫婦の背負う十字架が消えることは無い。
慰霊台に花を手向け改めて罪の重さに打ちのめされるさつき。加害者家族に謝罪の手紙を書き送る。
ここら辺は、いわゆる世間の感覚とさつきの感覚がようやく合わさってきたように感じましたね。
第二回で清貴の葬儀に参列できなかった後のさつきは「智也を理解したい」という一点に意識が
集中していたと思う。
しかし、ここにきてようやく智也がしてしまったことの重さに向き合うようになってきた。
謝罪の手紙を何度も書き直し、清貴の家の郵便うけにいれるさつき。
その手は震えていて、二話で「とにかく葬儀に」と駆けつけた時とは明らかに罪の意識が違っていると
感じた。その後も、結婚が決まった綾乃(田畑智子)に事件が影響しないかをとっさに考えるなど、
加害者家族に向けられる視線を意識する心理状態になっている。
拒絶し続ける智也に愛情を感じる分、贖罪の気持ちも大きくなり、さつきを追い込んでいるように感じた。


また、冨田に語った育児サイトの件には考えさせられるものがあった。
「育児って常に自分が試されているような気がして。孤独な作業だし。絶対に失敗は許されない。
そう思うと追い詰められた気持ちになる。そんなときに書き込みを」と語るさつき。
しかし、富田の「育児は苦行ですか?」との問いかけにハッとなる。
その後、さつきは「智也が乳児の時、泣き止まない子供を持て余し苦痛に感じていたこともあった。
それと同じように今まで自分は智也から逃げていたのかも」と和彦に打ち明ける。


私は、育児サイトに書き込みをするのが「逃げ」だとは思わない。
それよりも、このお母さんが、相談する相手もいない孤独な状況で、そんなに張り詰めて育児を
していたのかと思うと、そちらの方が気になった。
現に、和彦(山本太郎)は「何で今そんなことを言うんだ!だからって『あんなこと』しないだろ!」
とさつきを受け止めるどころか逆切れ。
この家では子育ては母親任せで夫婦間での相談等なかったことがわかる。
こういう状況のお母さんは決して珍しいケースではないのではないだろうか。


その和彦だが、頼みにしていた先方の意向で、やる気満々で取り組んできたプロジェクトから外される。
すっかりやる気を失くし「会社辞めようかな。」と呟く。
先週までのKY振りが信じられない程の落ち込みよう。
「世間はどこまでいっても俺達を許さないんだよ」と言っていたが、逆にそんなことも解ってなかったのか
と感じてしまう。この人の打たれ弱さが前面に出ていると思った。
しかし、仕事は和彦がいなくても回るだろうが、智也の父親は和彦だけなのだ。
いつまでも「親になりきれない男」でいていいはずが無いと思うのだが。
現にさつきは母親として智也に近づこうと精一杯努力をしている。
このままではさつきにも追いつけなくなってしまうのではないだろうか。


そして、被害者の小沢家。
ついに美帆子が大爆発した。聖子(板谷由夏)に「ママとパパの目には昔からキヨタンしか
映ってなかった。ママだってキヨタンじゃなくて私が死ねばよかったと思ってるんでしょ」と叫ぶ。
今まで美帆子の苦しみに全く気付いてやれなかった聖子はショックを受ける。
こういう気持ちは兄弟がいれば一度は味わうものだと思うけど、それに対する親の対応って
ほんと重要ですよね。下手をすればその子の人生に一生消えない心の傷を残すことだってあるのだ。
聖子が書き溜めた「美帆子の育児日記」を偶然読み、母の愛情を感じて涙する美帆子。
そんな美帆子を抱きしめる聖子。これまでの美帆子が可哀想で、正直見ていて辛かったので、
今回早めに吐き出してしまえて本当に良かったと思った。


今回の秀昭(佐野史郎)も印象深かった。
美帆子の苦しみに対し「どうしたらいいんだろう」と悩む聖子の問いかけに、秀昭は
「愛しているときちんと伝えていくしかない」と即座に答える。
このシーンが凄く良かった。聖子には相談して一緒に考えてくれる相手がいる。
この秀昭はあくまでも家長というか、頼れる夫であり父親でありそして家族なんだなあとつくづく
感じましたね。野口家とは対照的だと思った。
しかし家族にはどこまでも深い愛情を注ぐ分、加害者とその家族に対する憎悪の感情を抑えきれない。
さつきが書いた手紙を読み激怒する秀昭。当たり前だと思う。
自分を支え家族を支えるのに必死なのだ。こうなった原因の犯人を憎まなければ生きていけない
だろう。さつきは今後、何回も謝罪の手紙を突き返され、その度に苦しむと思う。
しかし、それはどうしようもないことなのだ。


そして今回驚いたのは聖子だった。
特別に富田が語った「少年はトイレに行きたがっている清貴をみかねて自宅のトイレを貸した」という
話を聞き「犯人の子は清貴にやさしくしてくれたんですね」と答える。
「なぜ自分の子どもが人の命を奪ったかわからない」というさつきの手紙にも
「本音なのかも。私も美帆子の気持ちがわからなかった」と共感めいた感情を抱く。
普通は秀昭のように怒りに駆られると思うのだが、正直意外な展開だった。
美帆子との感情のすれ違いを共感の理由に挙げていたが、それだけでは納得しにくい気もする。
ただ私が感じたのは、この聖子も子育てに関して不安に感じることがこれまでも多々あったのだろうと
思う。だから、子供がわからないと正直に書いてくるさつきの不安な気持ちを察することが出来たのかも
しれない。それとも「母親」にしか分かりえない感情なのだろうか。


智也も何かを重大な秘密を抱えているように感じる。次回も期待大です。(クーラン)