浪花の華 総評

「浪花の華」が終了した。以下感想。

〈あらすじ〉抜け荷の銃の事件は一件落着かと思われたが、蘭方医・佐伯(加藤虎ノ介)は
手傷を負いながら生き延びていた。章(窪田正孝)の前に現れた佐伯は、
「天游(蟹江敬三)の身は預かった。抜け荷の銃・二百丁と交換だ」と言い残し立ち去る。 
章は心配するお定(萬田久子)や耕介(杉浦太陽)に事情を説明し、左近(栗山千明)や
若狭(池内博之)達、在天別流の力を借りて天游の救出に向かう。
しかし、佐伯のもとに乗り込んだ章は、抜け荷の割り札を奪われ天游と共に牢に閉じこめられてしまう。
二人を助ける為、駆けつけた左近に、佐伯は刀を捨てるよう告げる…。


ついに終わってしまった。
全体を振り返り、濃縮されたとても面白いドラマだったと思う。
一人の青年が段階を踏み、徐々に成長していく姿を見させてもらった。
今はすっかり錆び付いた己の純な部分をフル稼働させながら、楽しく見ることが出来た(爆)。


たった9話だが、一話と最終回の章は、明らかに変わったと思わせてくれる。
一話ではひきこもりで本の虫だった医者の卵・緒形章が、師匠一家や男装の麗人・左近と知り合い、
様々な人達の人生模様に立ち会って、徐々に視野が広くなっていく。
後半は、章が目指す医者という仕事の根本の精神と背負う責任を理解し、人として逞しくなっていく。
また、在天別流という闇の世界に生きる左近へ淡い想いを募らせる。
決して結ばれない想いだと知りながら・・・。


武士でありながら武芸よりも学問第一という独自の信念を持って生きている章だが、声高にそれを
叫ぶことは無く、最初は常にキョドッていた(笑)。
しかし、回を重ねる毎に、オドオドが無くなり、言うべき時にはっきりと自分の考えを相手に
伝えられるようになる。
そして、学問で全ての事柄がわかると思っていたが、それだけでは推し量れないものもあると悟る。


例えば、それは、左近への想いであり、左近が生きる在天別流の世界もその一つであろう。
最終回、猛火の中、左近とともに脱出した章は、思わず彼女を抱き締め、
「無茶をしないでくれ、これ以上左近殿が傷つく姿を見たくはない」と言うが、
左近は「これが私の務め。お前も、私が言ったところで『江戸行き』を止めたりはしないだろう?
それと同じことだ」と静かに告げ去っていく。
章には理解出来ない(もしくはしたくない)信念を抱く左近。彼女が棲む世界との違いは、最後まで
一貫して描かれ、それは簡単に乗り越えられる類のものではない。それ故に切なさが募る。


最終回、力による民の啓蒙の必要性を熱弁する佐伯に、天游が語る言葉が心に沁みる。
「人の心を変えるのは『人の思い』だけだ。人を育てるのも世の中を変えるのも長い時がかかるもの。
自分の思いも新しい考え方も、誠意をもって少しずつ根気良く伝えていくしかない。
人々が求める真実がそこにあれば、小さな種でもいずれ花を咲かせる。それが世の習いなのだ」
佐伯に語られる言葉を、まるで自分が諭されているかのように聞き入る章。
章をそして思思斎塾の生徒達を、師匠夫婦がどんな思いで育ててきたのか、初めて悟ったのだ。


このお言葉には私も感じ入りました。
言いたかないが、今の世の中、結論や結果を急いで求めすぎるというか、自分も含め、そんな風潮に
なってきていると思うのだ。結果が出るのにはそれなりの過程や時間が必要なわけです。
充分な努力や過程も経ずに人間が一人前になれるわけはないし、娯楽にしたって良い作品が
出来るわけがないと思うのだ。


江戸へ旅立つ日、天游は章に
蘭学で得た知識は自分の為に使うものではない。世の為、人の為に使うのだ。」という言葉を贈る。
その言葉通り、後の緒形洪庵は適塾を開き、彼のもつ知識を惜しみなく塾生に与え、福沢諭吉
優れた人材を輩出している。
本作で描かれた緒形章は、天游の信念を長い時間をかけて体現した存在だったのだ。


ラスト、章と左近の別れ。
「日の本一の医者になれ」と送り出す左近に「いつか大阪に帰る。だから・・・。」
とその先がどうしても言えない章(爆)。
左近の前では最後までへタレの章に「お前は日の本一ハッキリしない男だ!」と返す左近殿(笑)。
最後まで男前であった。
しかし、章には最後まで決して見せることはなかった涙が頬に流れた時、初めて彼女の女心が
胸に迫ってきた。その位、美しい泣き顔だった。


主演の窪田正孝栗山千明始め、ドラマの主旨をきちんと理解し表現するキャストの演技は非常に
見応えがあった。
全体を通して言えば、幾分駆け足気味だったり、喰い足りなかったり、セリフに頼らず役者の演技で
見せてほしいなあ。と思う部分もある。欲を言えば45分枠でじっくり見たかった。
しかし30分の時代劇でこれだけ見せられたのはスゴイことだと思う。


青春時代の悩ましく輝いていた日々を、常にほろ苦さを漂わせ、描ききった本作。
充分楽しませていただいた三ヶ月でした。(クーラン)
(最終回で聞いたくるり↓の沁み具合は尋常じゃなかった。ホントいい曲書くよなあ)

三日月

三日月