「ダークナイト(監督:クリストファー・ノーラン)」を観た(ネタバレ)。

暗く、爽快感皆無のヒーローもの。オリジナル・サウンドトラック ダーク・ナイト
ここまでの徹底ぶりは類稀ではないか。


昨今のハリウッド映画は「ミスト」や「ハプニング」など
先行き不透明で絶望的な状況を描く作品が立続けに登場して
いるが本作も同様。




  ゴッサム・シティは最悪のテロリスト、ジョーカー(ヒース・レジャー)によって
  無法地帯と化していた。
  破壊・強奪・買収・殺人…等あらゆる悪行を実行する彼の次なるターゲットはバットマン
  街を牛耳る犯罪組織に自らを売込み、バットマン暗殺を約束する。
  時期を同じくして、犯罪組織撲滅のスローガンを掲げた新進気鋭の地方検事
  (アーロン・エッカート)が登場。
  ブルース・ウェインバットマンクリスチャン・ベール)は、その清廉潔白な姿に
  共感するが…。


この作品では、
頼まれもしないのに現れて騒動を起こすバットマンを過剰な自警団とみる人々も多い
というように描いていて、必ずしも皆の期待を一身に背負ったヒーローではない。
富野由悠季(旧・富野喜幸)監督の「無敵超人ザンボット3 」を思わす展開だが、
ザンボット…は、最終的に人々に「神ファミリー」の戦いが理解されるからまだいい。
当該バットマンは、他人の犯した罪をも被り、誰からも受入れられることなく、
犯罪者として暗闇に消えて行く…。なんという重苦しい展開!


ゴッサム・シティでは、日常的に警官の買収が行われていて、誰も信用出来ない。
人間不信の世界の「暗闇の騎士(ダークナイト)」って、
今の我々にはとってもリアルなヒーロー像と思わないかい?


または急逝したヒース・レジャー扮するジョーカーという男。
口の両側を「殺し屋1」の浅野忠信みたいに切り裂かれたこの男は、
幼少期にネグレスト及び身体的虐待を受けていたかもしれない。
薄汚い身なりやメイクアップ、又は破壊衝動はその象徴のように見えなくもない。


彼は、金や女に執着しない。行動の起点が煩悩ではない。


彼は、バットマンが「この狂った世界をなんとか良くしよう」という信念を持って行動
しているのと同様に「この狂った世界をさらに悪くしよう」という信念を持って行動している。
二人とも頼まれもしないのに使命感を持ってその行動に及んでいるあたり共通していて、
つまり、彼とバットマンは表裏一体の存在である。
故に彼は、バットマンに興味を示し、その素顔を確かめようとしたのだ。


(ジョーカーが、もしバットマンの素顔を見たなら狂喜しただろう。
解り易いほど自分とは正反対の
何不自由ないイケメンでアルマーニを着こなす大富豪がその正体だったのだから。
やはり人生は平等ではない。)


彼の行動は、いきあたりばったりに見えて、実に理にかなっている。
このクソみたいな世界を憎み、人々に平等に
(一般市民もマフィアも、金持ちも貧乏人も、美男も不細工もわけへだてなく)
災いを齎したい無差別殺人者なのだ。


こんな悪役の存在もまた、
今の我々にはとってもリアルに感じないかい?


あまりにも空虚な絵空事をスクリーンの上に展開されるのはもう飽き飽きだ。
我々は、暗く過酷な現実を生きている。そんな現在の息苦しい状況を、
たとえエンタテインメント映画であっても反映させるべきではないか。
映画は時代を映す鏡だ。


…と、作り手は言っているようだ。秀作!!(○)
                  
←DCコミックスのバットマン
                   ニール・アダムス描くところの、この扉絵は
                   まさに「暗闇の騎士」のイメージ