ネタバレあり「アフタースクール」

過日、内田けんじ監督作品「アフタースクール」を観た。


以下、映画をご覧になっていることを前提に話を進める。


冒頭のシーン。
団地の一室で妊婦さん(常盤貴子)と若い会社員(堺雅人)が朝食を食べながら会話している。
男「ご飯まで作ってもらっちゃってありがとう」
女「これくらいしか出来ないから。最近、疲れてるみたいだからあんまり無理しないでね」
そこへ、初老の男性が入って来る。
初老の男「これからは、少し無理してもらわんとな」
などと、会話している。
窓からは、柔らかな光がさしこんで、幸福な空気が三人を包み込んでいる…


…ように見える。


これが、クセモノで、映画やTVドラマで、同様のシーンを何度も見ている我々は、無条件に
このシーンを「ああこの若い二人は夫婦で、夫は妊娠している妻を気づかって
食事、無理して作らなくていいよ、といっているにもかかわらず、妻は健気にそれを作り、
愛し愛されている関係が成立している。
そして、妻の父親はそんな夫のやさしさを、どこかたよりなさからくる甘さと感じ、もう少し
頼れる男になってくれないかな、と感じている」
そんなシーンだと勝手に解釈してしまう。


しかし、作り手はそんなことひとこともいってない…。
実際、若い二人は夫婦ではないし、初老の男は父親でもない。


この、観客が過去の映画等の記憶からシークエンスを「勝手に解釈」してしまうことを逆手にとる
という演出、これはなかなか上手い。
本作は、このあともそれを多用して、観客及びモニターごしに映像を見る劇中の人物たちも
みんなが「勝手に解釈」の勘違いをしてしまい、そこから生じる騙し騙される状態が
上質のミステリーを作り上げている。


更に、新宿の裏通りを徘徊するカメラが、非常にヤバイ雰囲気を盛り上げていて
お人好しの中学教師(大泉洋)が、ひょんなことから、やくざな探偵(佐々木蔵之介)に
かかわってしまったばっかりに、平和な日常の裏側に口を開けている暗く汚れた世界に
引きずりこまれる、という怖さが上手く表現されていて、この辺りとても映画的。


後半、いきなり逆転して主役に躍り出る大泉氏の演技も出色で、心地良く騙される快感を味わう事ができる。


そして終盤の大泉教諭が、アウトローを気取る佐々木探偵に放つひとこと
「おまえみたいな生徒、クラスに必ずひとりはいるんだよ。
わかったような顔して、斜に構えて、全てくだらねえとか言って
勝手に人生つまらなくしてるヤツ」
これは心にズシンときたなー。高校時代のドロップアウトしたオレやアナタだ!


という訳で、キラリと光るなセリフあり、達者な演技あり、見事な脚本あり、秀逸な描写あり
の充実の逸品でした。(○)