氷室冴子先生死去

作家の氷室冴子先生が、お亡くなりになった。まだ51歳だったそうだ。
本当に残念でならない。


私や学生時代の友人達にとっては「氷室冴子」と「新井素子」は特別な存在だ。
当時、多少なりとも本を読む少女達は、必ずと言ってもいいほど
この二人を読んでいたと思う。
小説を独特の文体(マンガ的手法とも言われている)で書き、
(当時の)少女達の心をガッチリ掴んだ。
まさに「コバルト文庫」の黄金時代を築き上げた。
今で言う「ライトノベル」の先駆者的存在でもあるはずだ。


全作品を読んだわけではないが、本当に夢中になって読んだ。
特に好きだったのが「恋する女達」「雑居時代」「ざ・ちぇんじ」
「なぎさボーイ」「多恵子ガール」「北里マドンナ」。


そして忘れられないのが「なんて素敵にジャパネスク」だ。(以下ネタバレあり)
内容は「平安時代、貴族・内大臣家のおてんば娘・瑠璃姫が
自分の結婚問題等で大騒ぎをするラブコメ」だ。
途中までは。しかし後半、東宮・帝即位問題の陰謀事件が発生し、
その黒幕として、死んだと思っていた
瑠璃姫の初恋の人唯恵(東宮の別腹の弟)が現われた頃から、物語が一変する。


始まりは、(止むを得ず)彼を拒絶した天皇に対する唯恵の絶望。
それでも、長く自分を抑えていた唯恵が瑠璃姫に起こった「あること」の為に、
とうとう暴走し始める。


「悪魔は、結局人間の中に巣くう邪悪な心だ」とよく言われる。
しかし、私にとって本作が衝撃だったのは、色々な人の思いやりや愛情の連鎖が、
結果的には、唯恵という人間を破滅に追いやる様子を描いていたことだ。
要するに責めるべき人がいないのだ。
みんながお互いの立場を踏まえ、自分の大切な人を守ろうとする。
その結果、自分の与り知らぬところで、誰かが傷ついて苦しんでいる。
それに気付く頃には、あまりにも哀しい結末が用意されている。


あともうひとつ。この小説はほぼ瑠璃姫の一人称で物語が語られている。
前半の瑠璃姫はおてんばで万能感に満ちていた。
しかしラスト、瑠璃姫は文字通り身体を張って唯恵を守ろうとするが、結局は叶わなかった
(遺体は見つからないが、恐らく絶命したと思われる)。
どんなに必死に手を尽くしても、どうしてあげることも出来なかった瑠璃姫の無力感が
一人称の為、より強く伝わり涙を誘う。


当時、子供だった私にはかなりの衝撃だった。
それはハッピーエンドでないからではない。
人間には、どうにもならない運命があるということや、
それに対する無常感が描かれていたからだ。
これらの洗礼を受けて、大人になるんだということが
なんとなく分かってしまったからだと思う。


その後、「なんて素敵にジャパネスク」は「ジャパネスク・アンコール!」
以降続いて、瑠璃姫ももちろん浮上しますけどね。
あの頃は瑠璃姫より、若かったのにすっかり追い越しちゃったよ(涙)。


最後に、素晴らしい作品を残された氷室先生のご冥福をお祈り致します。
(クーラン)