リアリズム映画?

スティーブン・スピルバーグの「ミュンヘン」を観た時に、その描かれる時代が70年代で
あるという理由だけで、何故にこんなにも当時の「大統領の陰謀」みたいな映画になったの
かしらん、と思ったものだ。
「大統領…」は極めて写実的なタッチの映画で、大袈裟なハッタリや現実離れしたアクション
・シーンを極力排し、粛々と我々の日常に即した描写で話が綴られていた。
当時は、こういうのを知的な大人の楽しみで、この面白さをわからないヤツはバカ!といわん
ばかりに評価する風潮があった。(キネマ旬報ベストテン10位)
あとシドニー・ルメットの社会派映画(「セルピコ」「ネットワーク」等)も同様に。
スピルバーグはこのころ、そういうムズカシイ映画に反旗を翻し、エンタテインメントなくして
何が映画か、といわんばかりに人食いザメの映画やUFO映画を撮っていた。


が、「ミュンヘン」。
根岸吉太郎の「絆」を思わす超テキトーな銃撃戦、いや徹底したドキュメント・タッチ(注1)。
しかもクライッマックスがないぞ、この映画。
あなたは、そうした映画へのアンチテーゼたる存在だったはずでしょう。
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コンピューターグラフィックスの急速な進歩によりアニメよりもアニメな表現
が可能になってしまった事で、マーベルコミックの実写化みたいな映画が
溢れ、ジェリー・ブラッカイマーの映画に代表されるテンポが極めて速く、
何が何だかわからないうちに映画が終わっちゃう作品が市場を席巻する
昨今のハリウッド映画界に対し「いやいや、俺もそういうの好きで作ってた
けど、そればっかりじゃ…」というスピルバーグの嘆きが聞こえてきそう。


何で今「ミュンヘン」なのか、というと最近観たリドリー・スコット
アメリカン・ギャングスター(注2)」とあまりにも作品の構造が酷似していたから。
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どちらも良心的な作りではある。
そして、その上映時間の長さから、それを観きった直後の充実感はかなりのものだ。
しかしリアリズムを追求したあまり、結局、地味な作品だったんじゃないのという印象は否めない。
やっぱり「大統領の陰謀」みたいな映画じゃいけないんじゃないか。
エンタテインメントと、ある種、観客を突き放した面が同居しているコッポラの
「カンバセーション…盗聴」(注3)のような作品じゃないと、ね。(○)
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注1:でもドキュメント・タッチが効果を上げている場面もあって、色仕掛けの女スパイが
射殺されるシーンの血しぶきは今までに見たことないリアルな描写で秀逸。


注2:ラッセル・クロウのあまりのセルピコぶりが笑える。
これに反してデンゼル・ワシントンの地味なたたずまい。スカしたブラザーに、おまえは
スーパーフライか!といって窘める。
ラスト近くの突入シーン、子供が邪魔でジリジリ…ここデ・パルマの如きケレン味ある
サスペンスが欲しかった。


注3:盗聴繋がり