勝手に「堺雅人祭り」

オット(○)が前述していたが、「壁男」を鑑賞した。
私がこの映画を観たいと思った理由は、
第一に諸星大二郎作品の久し振りの映画化であったこと。
第二がその主演が堺雅人だったことである。
結果はオットも前述していたが、時には優しさ、時には恐怖を感じさせる彼の演技は
素晴らしかったが、映画自体には全体的にどうしようもないユルさが漂っていた。
私としては、以前テレビ東京で深夜に放映されていた「ウルトラQ」(新作)を見ている感覚に
陥った(しかも映画館で)。
初めからそういうつもりで撮っていたのであろうか?はなはだ疑問に思う。
堺氏の演技を代表する映像化作品が生まれるかもと期待していたので非常に残念だ。  


私達が役者堺雅人に注目したのは、ありきたりで申し訳ないが、やはりNHK大河ドラマ
新撰組!」(脚本:三谷幸喜 主演:香取慎吾)の山南敬助役である。
それまでも彼の演技は時々テレビで見ていたにもかかわらず、この役を演じる彼に
どうしても眼が吸い寄せられてしまった。 
山南は最初から最後まで微笑を絶やさなかったが、その微笑が時間の経過とともに喜びから
哀しみに変わっていくさまは見ていて本当に胸が苦しくなった。
彼の最後の出演シーンは私達にとって忘れることのできない永遠に残る名シーンです。


余談であるが、賛否両論分かれた「新撰組!」であるが、私個人は幕末の歴史については
疎いこともあり非常に楽しめた。
本作における歴史上の人物に対する三谷氏の解釈は面白いと思わせる点が数多くあり、
それを最良に表現するための、妥協のないキャストは大河ドラマを見る醍醐味を多いに
味あわせてくれた。  


堺氏出演の映像化作品でもうひとつ私が好きな作品が映画「ココニイルコト」(監督:長澤雅彦 
主演:真中瞳)である。
こちらは大河ドラマより数年前に上映されたものであるが、主演女優にどうしても興味が持てず
上映当時観ることは無かった。
新撰組!」放映後にテレビで見たわけだが、映画館で観るべきだったと非常に後悔した。
作品自体がそれほど素晴らしい出来だったのである。


本作で堺氏は、心に傷を受けたOLが転勤先の大阪で出会う一風変わったたたずまいの青年を
演じている。
彼がなぜそうなのかはラスト近くに明らかにされるが、堺氏演じる青年の笑顔は優しさや希望、
労りの気持で満ちていて静かに心に沁みてくる。
投げやりな主人公と青年はぎこちない会話の中で徐々に打ち解けていくが、カンタンに
「男女の関係」に等なったりはしない。けれど「男女の友情」とも違う。
もう少し近い、まるで家族のように相手を思いやり寄り沿う心に、主人公の凍った心が
溶けていく様子が、冬のピンと張った空気の中で描かれていて、心を打たれる。
人と人との繋がり、温かな思いやり、明日を生きる為の希望、言葉にしてしまえば陳腐だが
これらは人が生きていく為にはどうしても必要なもの。
それをこの映画は、さりげなく静かに、しかし緊張感をもって伝えてくる。
見終わった後、確かにそうだと自分も心から思うことが出来た。
私も精神的にまいっている時にこの映画に救われた。心からオススメする映画である。
(クーラン)