「妖怪人間べム」第2回感想

<あらすじ>人の涙で人間になれるというベロ(鈴木 福)の話が気になるベム(亀梨和也)。その頃、化け物が人間を襲うという
事件が発生。人間が化け物の格好をして事件を起こしていると考えたベム達は、犯人を突き止めようとする。緒方教授(あがた森魚
の孫娘・小春(石橋杏奈)が怪しいと感じたベム達は彼女の様子を窺う。そんな中、小春がコンビニ店員・神林(風間俊介)に
万引き犯と疑われる・・・。


妖怪人間達の前に二人の人間が現れる。一人はクラスから浮いた存在の小春。もう一人は自分を馬鹿にする世間に恨みを
募らせる神林。二人に共通しているのは「別の自分になっている」ということだ。


女子高生の小春はいつもヘッドフォンをして自分を周囲から隔絶させている。そんな小春をクラスメイトは「あんた、私は
みんなと違います、みたいな態度とってるけど、自分で思ってるほど特別じゃないし、誰もあんたのことなんて見てないよ!」
と嘲笑する。傷つけられても言い返せないのは、それが事実だからだ。好きで一人でいるわけじゃない。悪口が怖いから、
耳を塞いで一人になった。そして、パンクファッション?に身を包み、好奇の視線を浴びながら、夜な夜な街を練り歩く。
特別な格好をしなければ、誰も自分など見てはくれない。「みんなくだらない!」と世界を見下しながら、それでも寂しくて
仕方がない小春がつくりあげた「別の自分」。
そんな自分を「あんたは弱っちいだけ!」とベラ(杏)に言い当てられ、更には「人の文句を言うあんたの方が、よっぽどくだらない!」
とバッサリ切って捨てられる。本当は分かっている。どんなに奇抜な格好をしても、「別の自分」は小春を強くはしてくれないし、
救ってもくれない。例え世界がくだらないものだとしても、寂しいのなら、まず関わらなくてはならない。小春自身が
変わらなくてはならないのだ。でも、それは小春にとって簡単なことではない。
「誰かと関わるのがどれだけ怖いか、あんたには分からない!」と小春に吐き捨てられ、瞳を震わせるベラ。
人間に関わるたびに傷つけられてきたベラがそれを分からないはずがない。それを承知で、ベラは小春と関わろうとしているのだ。
弱くて寂しい小春の心に寄り添わずにはいられないベラの情の深さが伝わってくる。


一方、コンビニ店員の神林は、大学を卒業しても就職が決まらず、ずっとバイト生活を送っている。結果から言えば、この神林が
「化け物騒動」の犯人だった。年若いバイトには馬鹿にされ、将来の展望も見えない苦しい日々。学歴もない、くだらない人間が
よってたかって自分をコケにしている。世界全部が自分を馬鹿にしているように、神林には思えてならない。
そんな神林の唯一の拠り所は、数年前、強盗にペイント弾をぶつけて逮捕に貢献、表彰されたという過去。あの時だけは自分は
世界に必要とされていた。だから、異様な服装で夜な夜な街を歩き、彼の正義を貫く。酔っ払いやポイ捨て等、罪を犯した人間を
威嚇してペイント弾をぶつける。あの時のように、必要とされる人間に変わる為、化け物のような恰好をしてまで作りあげた「別の自分」。
でも、本当は神林にも分かっている。どんな恰好をして、小さな正義を行おうが、所詮はイタズラの範疇。自分は何も変わっていない。
これはただの自己満足なのだ。
べムとベロには神林の気持ちが理解し難い。人間なのにわざわざ怖がられる格好をする気持ち。「別の自分」に変わりたがる気持ち。
人間になりたいと、自分達はこれほどまでに願っているのに、当の人間は「自分にうんざりしている」などと言う。
「別の自分」にならなければ、世界と関われないと言う。人間である時点で、生まれた瞬間から世界に関わっているはずなのに。
人間なら何にでもなれるはずなのに。醜い妖怪人間は、どんなに心を砕いても人間に関わることは出来ない。夏目(北村一輝
のように心優しい人間でも見た瞬間に彼らを拒絶する。だから、彼らは人間になりたいのだ。しかし、その人間達はちっとも
幸せそうには見えない。寂しい心を抱えた者ばかりだ。


ベム達に諭され「二度としない」と誓う神林。しかし、名前のない男(柄本明)が現れ神林の悪意を増幅させる。ペイント弾どころか、
今度は鉄球で「制裁」を加える神林。その毒牙はコンビニで万引き犯にされかけた小春にも及ぶ。潔白を主張する小春に
「どうだっていい。お前もくだらない人間なんだろ?でも俺は、お前らみたいなくだらない生きてる価値のない人間を成敗して変わる!」
と叫ぶ神林。もはや正義でもなんでもない。自分よりも劣る存在を傷つけることで、心を満たそうとする。心の奥底に潜んでいた
悪意に存分に溺れる神林。異様な格好だけではない。その醜悪な様に、「化け物」の姿となったベムが問いかける。
「これがお前のなりたかった人間なのか・・・?」 ベムの悲痛な叫びが哀しかった。


小春は、神林に自分の姿を重ね合わせ「私もああなっていたかも」と呟く。
小春と神林の違いは何だったのだろうかと思う。二人とも、周囲を見下すことで自分を保とうとしていた。違う自分に変わりたかった。
確かに神林の方が遥かに悪意が強かったかもしれない。でも、小春にはベラが、神林にはベム達が付き、二人は悪意を爆発させる
のを、一度おさめている。二人とも弱い自分を分かっていた。それでも駄目なのだ。
正しいことを望む善意と、人を貶めることで自分を守ろうとする悪意。おそらく人間の誰もが持ち合わせている相反する心。
そのバランスはほんの些細なことで狂わされる。その境界を越えさせないのは、外見を変えた「違う自分」ではない。
脱皮したカニのように見た目は変わらなくとも、日々強くなっていく心なのだと思う。そして多分、心を鍛えるのは一人では
出来ないのだ。人間は弱い。だから、どんなに煩わしくても、誰かと関わることでしか、人は自分の中の善意も悪意も見据える
ことが出来ないように感じる。


最後まで、自分のやり方で小春の心に寄り添ったベラに感動した。
「私はいいと思った相手には、一途なんだよ。」 ・・・惚れたぜ! 姐さん!女殺しだな(笑)。(クーラン)