四十九日のレシピ 第3回感想

<あらすじ>百合子(和久井映見)は夫の浩之(宅間孝行)と今後のことを話し合うため、井本(徳永えり)と共に東京へ出向く。
ところが、その現場に不倫相手の亜由美(野波麻帆)が現れたことから酷い修羅場となり、百合子は亜由美の息子・カイトの
世話をする破目に。一方、熱田家では、良平(伊東四朗)と日系ブラジル人青年ハルミ(渡部豪太)が二人きりで四十九日の大宴会の
準備をしていた。良平は一人で生きていくことへの寂しさを募らせていく。


色々と辛すぎる。今回も号泣。
ついに百合子と亜由美の直接対決が実現。感情剥きだしで百合子に離婚を迫る亜由美。自傷行為、子供を締め出し浩之にセックスを
要求、お腹の子と死ぬと脅迫、挙句の果てには、病気の浩之の母に「出ていけ!」と一喝される。まさに、修羅場てんこもり状態。
「私はずっと女でいたいの」と言う亜由美を前に立ち尽くす百合子。女でいたい妊婦と母になれなかった女の対比が痛々しい。
でも、金切り声で痴話喧嘩をする亜由美の姿は、女というよりも「私を見て!一番に愛して!」とジタバタする子供のようにも見えた。
世界は自分中心に回っていると思い込んでいる女の子。子供はもちろん愛してるけど、自分の方が大事。
他にも男がいるらしい亜由美が浩之に執着するのは、経済的なこともあるのだろうが、誰かの夫だからではないかという気もする。
私を一番に愛してくれなければイヤ。私より他の誰かを大事にしている人が許せない。そういった心理もあるのではないかと思った。
でも、亜由美を一番に愛してくれる存在はすぐそばにいる。カイトにとっては何をされても誰よりもお母さんが一番なのだ。


亜由美の暴走におろおろするしかない浩之。いまだ百合子との離婚届も提出せず、亜由美には責められ、それでもどちらも
選ばない優柔不断男。ダメさ加減が更に際立ち見ていて最高潮にイライラする。
その夫の苦悩を百合子は聞くことになる。
「今思えば、家族ごっこに溺れていた」亜由美との関係をそう振り返る浩之。
「子供が出来なかったから、私とは本当の家族にはなれなかったの?」と問う百合子に「それは違う」と静かに返す。
「治療に失敗する度、百合子に泣いて謝られるのが辛かった。家族を作ってあげられなくてごめんね。と言うが、子供がいなければ
家族ではないのか。横にいる俺は家族ではないのか。俺達の幸せを勝手に決めつけないでくれと思っていた。でも、一番子供を
欲しがっているのも、頑張っているのも百合子だから言えなかった。落ち込む百合子を励まして、励まして、励まして。疲れてしまった。」
意外だった。浩之の悩みは、子供が欲しいという望みと百合子への愛情の間で苦しんでいるのだと思っていた。
でも、元々の苦しみは百合子と心が通わなくなっていたことだったのだ。二人は同じ方向を向いていると百合子も信じてきただろう。
でも、実はベクトルを違えたところで、この二人はずっと苦しんでいたのだ。
深い場所に落ちていく百合子を自分にはどうにも出来なくて、見ていて辛くて、そんな時に亜由美が現れ、素直に甘えられ頼られて、
空白が満たされた気持ちになったのだろうか。その結果が、亜由美の妊娠というのだから皮肉な話だ。
浩之の言葉に顔色を無くす百合子。
「全然気付かなかった。こんなことならもっと早く夫婦喧嘩をしておけば良かったね・・・。」
本当にその通りだ。もっと早くぶつかっていれば、歩み寄っていれば。「どうしてこんなことに・・・」と嘆く浩之の母の姿が思い浮かぶ。
互いを思いやる心は、気付いた時には途方もなく隔たっていて、取り返しのつかないところまで来てしまった。
ここまで無様な姿を晒して、更に百合子を傷つける真実を語らなければならない浩之も苦しかったのだと思った。
「今までありがとう。」と告げ、浩之のもとを去っていく百合子。東京に来たのは、今後のことを話し合うためだった。
百合子にとって、浩之の本心を知ることは「本当に終わりにするための儀式」となってしまったのだろうか。


熱田家では、良平が寂しさに打ちのめされている。亡き妻達への贖罪の気持ちや後悔が良平を追い詰めているのだ。
百合子は自分の苦しみで手いっぱいで気付かないが、井本やハルミ、良平の姉の珠子(水谷八重子)はそれをしっかり見抜いている。
良平の嘆きや苦しみを井本やハルミは気付かないふりをしてそっと受け止めるが、珠子は違う。
四十九日も済まないうちから「シルバー人材派遣」の案内を持って来たり、生前の乙美に対する良平の態度をぴしゃりとやり込める。
そのあまりのスパルタぶりに逆に感動した。初回の珠子を見て、固定観念に凝り固まった無神経な婆さんだと思っていた。
でも前回、乙美を良平の後妻にと見初めたのが、実は珠子だったことが明かされる。
身寄りもなく、これといった経歴もない嫁き遅れ。でも珠子はそんな乙美の気立ての良さを見込んだのだ。
この人は意外に物事の本質を見極めている人なのではないか。
今回も「百合子を手放してやれ」と良平に忠告する。良平が寂しさで押しつぶされそうになっていることを知りながら、
それでも言って聞かす。離婚した娘が実家に戻り、やもめになった父親の面倒を見る。世間的にはたいしておかしなことでもない。
周囲からすればむしろその方が安心だろう。でもそれは、互いに依存し寂しさや傷を舐め合うだけの親子になってしまうかもしれない。
例えば浩之と亜由美のような。珠子にはそれが分かっているのではないだろうか。百合子の将来も考えた実のある忠告だと思う。
無神経だし、うるさい人だけど、家族だからこそ出来るおせっかいだと思う。


熱田家に戻った百合子は乙美がよこした絵手紙を年表に張っていく。それは良平のことばかりが書かれたものだった。
「乙母は大切な人のことをしっかり見ている。浩之さんはずっと優しかったのに、私はその優しさに気付くことが出来なかった。
私がダメだったの」ポツリと打ち明ける百合子。
「夫婦のことはどちらがどうというのはない。だから、お前だけが悪いなんてことはない!」叱りつけるように励ます良平が印象的だった。
頑固者親子が初めて苦しさを伝えて共有する場面で、哀しくて温かい気持ちになった。


「夢は叶わぬこともある。努力が報われぬこともある。正義が勝つとは限らない。でも、やってみなくちゃ分からない。だから頑張ろう」
学習塾の垂れ幕を冷笑して、井本が宣言した「本当のこと」。百合子が自分の空白にこの言葉を書き込める時がくるのだろうか。
次回最終回。早く見なくては。(クーラン)