Mother 第五回感想

先日「Mother」第五回を見たので、今更ながら感想を。
〈あらすじ〉葉菜(田中裕子)を実母と確信した奈緒松雪泰子)は、籐子(高畑淳子)に
会ったことを告げた。一方、藤吉(山本耕史)は“誘拐”をネタに奈緒に金銭を要求し始める。
心配した継美(芦田愛菜)から助けを求められた葉菜は貯金を渡そうとするが奈緒はそれを拒否。
そんな奈緒に藤吉は自分の過去を話し始める。奈緒が葉菜の通帳を返そうと自宅を訪ねると、
そこに籐子が現れる。


なんだかものすごい回で見終わってぐったり。様々な人達の感情のもつれが波紋を呼んでいた。
葉菜を頑なに拒絶する奈緒。親子だと互いに分かっても核心に触れる言葉を決して口にしない二人は、
そういうところが結構似ているんじゃないかなと思う。
でも奈緒に知られてしまったことで、葉菜は娘を思う気持ちをもう隠すことが出来なくなってしまった
のではないか。あの通帳はその現われだったのだと思う。
通帳を差し出し奈緒に一歩踏み込む姿に、娘に近づかずにはいられない親心を感じる。
俯きながらも一歩もひかない葉菜の姿はちょっと怖いくらいで、娘の力になろうと無我夢中になっている
のがよく分かる。また、通帳の中身というのが、毎月一万ずつ17年かけて貯金したもので、
おそらく初めて籐子の元に奈緒を訪ねた時から積み立てていたのだろう。
苦しい生活の中、娘を思ってコツコツ貯めてきたに違いない。この通帳は葉菜の奈緒への思いが
形になった唯一の物なのだ。そう考えると金額よりはるかに重いものを感じる。


しかし、奈緒や藤子にしてみればいままで「いないひと」だった葉菜の存在など許せるものではない。
あれほど待ち望んだ母の手を握ることも出来ず、きつい言葉で葉菜を詰る奈緒
でもその姿はとても苦しそうで言いたいことの半分も言えてない。
しかし、もっと凄かったのが藤子で、二人の前に現れた彼女は今度こそ葉菜を張り倒す。
「こんなお金で母親になったつもり?こんなものであたしと奈緒の30年壊さないで!」
と掴みかかる藤子の姿は、娘を奪われまいとする母親の本能そのもの。
子供の為なら鬼にも夜叉にもなる親の気迫が後姿でも伝わってきた。
奈緒は藤子のこんな姿を見たことがなかったのではないかと思う。
「娘を奪わないで」と泣き叫び、奈緒も覚えていない母子の思い出を愛おしそうに話す母の姿は、
彼女の何かを変えた。また捨てられるのを恐れそこにいることにいつも申し訳なさを感じていた奈緒は、
初めて母親の愛情を信じられたのだと思う。
それを素直に受け取ることが親の喜びでもあり幸せなのだと理解できたのだ。


そして、それを奈緒に分からせてくれたもう一つの存在が継美なのだと思う。
藤子が奈緒に出会ってしまったように、奈緒も継美に出会ってしまった。
継美を愛すれば愛するほど、藤子が奈緒へと寄せた思いが胸に迫ってくるに違いない。
藤子が奈緒を大切に思い、奈緒は継美を必死で守り、そして継美は奈緒の思いを受け取る。
「大事。大事。」と頭を撫でられ、「大事。大事。」と返す二人の姿はとても満ち足りている。
この擬似親子は互いの愛情を信じることが出来る。ようやく家族になれたのだと感じた。
その反面糾弾され打ちすえられる葉菜の姿に胸が痛む。子供を捨てた罪は消えることはない。
仕方がないことなのだ。でも、そこには人が完膚なきまでに叩きのめされる姿がこれでもかと
描かれていて、天罰とはこういうことかと思わされる。
通帳とカーネーションを抱きしめて小さくなる葉菜に、気分が悪くなるほどの哀しさを感じた。


藤吉の脅迫の理由と顛末は意外だった。
彼も過去に虐待児童と関わったが救うことが出来なかったのだ。
脅迫は、奈緒の覚悟を試していたのか、それとも自分が出来なかったことをしている彼女への
羨望なのか。分かりかねたがたぶん両方なのではないかと思う。
藤吉は結構複雑なキャラクターのようにも感じる。悪い人でもないが決していい人でもなさそうだ。
大体仁美(尾野真千子)に奈緒の実家の電話番号を教えたのは藤吉ではないのか?その真意は?
奈緒と継美のその先を見てみたいと言いながら、仁美と怜南の真実の姿も確かめたいと望んでいるの
だろうか。それはつまり継美にとっての本当の幸せは何かという問いにも繋がってくるのかもしれない。


今回特に印象に残ったのが、藤吉が言った「他の方法を考えなかった?」という台詞。
奈緒はこのままでは継美が親に殺されると確信して連れ去った。藤吉にはそれが出来なかった。
なぜ奈緒にそれが出来たのか?と考えると「女性だったから」という理由もあるんじゃないかと
思ってしまった。もちろん女性も男性も大部分の人は誘拐なんてしない。
藤吉のように法律に則った方法を冷静に考える。しかし、それでも救えない命を前にした時、
どうしようもない感情に突き動かされるのはやはり女性ではないかと思う。
それを母性と呼ぶのかは分からない。でも、今回の葉菜と藤子の壮絶な修羅場を見ると、
子供の為なら壊れることが出来る女性の脆さと強さと激しさを感じるのだ。


怜南(継美)の母親・仁美の心境にも、気付かないうちに変化がおきているような気がする。
「娘を亡くした母親らしい顔をしろ」と恋人に言われ、「そんな顔わからない」と答えていたが、
先週の葬儀の最中の顔、また電話の向こうの継美に「怜南?」と呼びかける顔は、母親の顔だった。
そして思わず「ママ・・・」と答えてしまう継美。
驚いて、懐かしくて、親には嘘をつけなかった継美が痛々しい。奈緒に「忘れるよ」と言っていたのに。
でも、忘れられるはずがないのだ。真実を知った仁美の今後の行動が気になる。(クーラン)