不毛地帯 第四回感想

すっかり遅れているが、今更「不毛地帯」第四回の感想を
〈あらすじ〉壹岐正(唐沢寿明)は、防衛庁から近畿商事に流れた機密漏えい事件に関して、
警視庁から任意出頭を求められる。出頭した壹岐は、警視庁捜査二課長・井上(藤木孝)の
追求に対し、事件に対する近畿商事の関与や、部下・小出(松重豊)への指示等を全面否定する。
だが捜査当局は、小出が隠した複写機の場所や、経済企画庁長官・久松(伊東四朗)の関与等も
掴んでいた。その際、壹岐は、漏えいしたグラント社の価格見積表が、実は防衛庁・川又(柳葉敏郎
の物であったことを教えられる。それでも壹岐は、最後まで書類の存在を否定し続ける。


う〜む。これはちょっとすごい展開だった。今回で「第一部・完」ということか。
冒頭の壹岐と井上の対決から見応えがあった。
厳しく追及する井上とそれに淡々と答える壹岐の姿は、やや遠方から同一フレームに収めるショットを
多用しており、二人の表情がはっきりと窺えるわけではない。しかし、ほぼ長廻しで撮られているので、
二人の遣り取りで生まれる静かな緊張の糸は途切れることがない。
照明も効果的でこのシーンの密かなる盛り上がりに大いに貢献していた。
井上を演じる藤木孝氏の台詞回しや演技も絶妙だった。
「ホメ殺し」た後に「人格批判」する井上のアメとムチの尋問テクニック。
川又の件を聞き動揺しながらも、おくびにも出さず容疑を突っぱねる壹岐の図太さには唸らされた。


あと、私はどうしても小出が気になった。井上は、機密事項を防衛庁から入手する具体的方法や
証拠となる複写機隠匿先まで全て壹岐の指示でやったと小出は証言していると言っていた。
しかし、実際にその役目を買って出てプランを考え動いたのは小出なわけで、ここに来て小出は、
保身もあるだろうが、やはり進んで壹岐を落とし入れようとしていると感じる。
でも、それを酷いとはどうしても思えない。確かに情けない男なのかもしれないが、
誰もが壹岐のように忍耐強く賢い人間なわけではない。
こういう人間を手元に置いて遣う際のケアやリスクを壹岐は考えるべきだったのではと思ってしまう。


ところが、事態は急展開する。久松と自由党幹事長・三島(神山繁)が動き、近畿商事が入手した
書類全てを捜査二課に提出することで、検察庁防衛庁官房長・貝塚段田安則)を抑える。
三島は貝塚に、近畿商事の件を見逃せば防衛次官に昇格させる、と持ちかけたのだ。
そして、近日中に、第2次防FXはラッキードF104に正式決定することとなる。
これも皮肉な話で、本来国を守る為にあるべき戦闘機が、政治家の利権に左右され、
適正な物が選ばれない現状をなんとかしようと、これまで壹岐は様々な策を講じてきた。
しかし、それらは決定打にはならず、壹岐が目指したラッキード決定への最終的な要因は、
政治家の個人的な利益に寄るものだったのだ。この皮肉な結末は東京商事の鮫島(遠藤憲一)にも
当てはまることで、利権を餌に政治家を抱き込んだつもりが、同じ類の利益によって今度は手酷い
しっぺ返しを受けている。そして最終的に彼らの勝敗の鍵を握っていたのは、俗物の塊・貝塚だった
という点にもなんとも言えない空しい思いが残る。


壹岐は、流出元が分ってしまう物もある為、提出する書類の取捨選択をしたい、と大門に願い出る。
しかし大門は、防衛庁警務隊が漏えい書類を全て把握していることを理由に、許可しない。
流出元への信義を訴えかける壹岐と、それを承知で民間企業が生き残る道を迷わず選ぶ大門。
さすがの壹岐も反論できない。普段は豪快な社長だが、いざとなると冷徹な決断も辞さない老獪振りを
発揮する大門に、大企業の社長の威厳を感じた。しかし、ここから川又の悲劇が始まる。


貝塚は、近畿商事に漏えいした機密書類が川又の物だったこと、芦田が川又の指示で書類を
持ち出したと証言していることを挙げ、川又を糾弾。更には川又を明日付けで防衛部長から解任し、
中央警務隊長が直々に取り調べると宣告する。
芦田は保身の為に無実の川又の名を出している。芦田にせよ貝塚にせよ、人格的に矮小な人間に
よって、川又のように有能な人材の未来が潰されるというのも、非常に残酷で皮肉だ。
壹岐と小出の関係性との相似も感じる。でも、川又は正攻法過ぎたのではという気もしてしまう。
貝塚のような人間を相手に真正面から対峙し過ぎたのではないだろうか。
ああいう手合いの人間へのそれなりの接し方、裏での話の進め方をしておけば、ここまで決定的に
拗れるようなことは無かったのでは・・・。
でも川又の真っ直ぐな性格ではそれはやはり無理な話だったか。


その夜、川又は辞表を提出すると壹岐の家を訪れる。自衛隊を国民に認められるものにしたかった
という理想を語る川又。しかし翌日、川又は自宅とは逆方向の線路で、轢死体となって発見される。
貝塚が焼香にやってくるが「自殺を公務死扱いにするよう取り計らう。ついては、遺書を預かっていたり、
出てきたりしたら、処分してほしい」という言葉を聞き、思わず胸倉に掴みかかる壹岐。
警察の尋問にも表情を変えなかった壹岐が、貝塚への憤怒を必死に堪えようとする表情。
静かに激する男の眉間には怒りを堪えようとするあまり、深い皺が刻まれていて胸を打たれる。
堪えて堪えてそしてついには感情を爆発させる姿に怒りと哀しみの深さを感じた。


第2次防FXはラッキードF104に決定した。しかし、その為に親友を失った。
勝利に沸き立つ周囲をよそに帰路に着く壹岐。その途中で一人男泣きする姿が痛々しい。
周囲は「残念だ」とか「自殺ではないか」等色々と壹岐に言ってくる。
でも、壹岐の本当の胸の内を、二人の絆の強さを、哀しみの深さを理解出来る者等誰もいないだろう。
だから、壹岐は一人で友に懺悔し別れを告げなくてはならなかったのだ。
暗闇で一人慟哭する壹岐の姿は哀れで、そこに勝者の面影はない。
空しさと運命の過酷さを感じさせる秀逸な終わり方だった。
こういった重い余韻の残る結末をドラマでじっくり描くのは勇気がいると思うが、やり通していた。
作り手の本気が伝わってくる。第二部がますます楽しみだ。(クーラン)