任侠ヘルパー 第十回感想

周回遅れとなってしまったが、今頃「任侠ヘルパー」第十回の感想を。
〈あらすじ〉送られて来た写真のせいで彦一(草なぎ剛)達の正体がばれた。
「ハートフルバード」は、「タイヨウ」とのフランチャイズ契約の解除を宣告する。
一方、病状が進む羽鳥(夏川結衣)は自殺を図る。
一命を取り留めた羽鳥に、園崎(大杉漣)は、「タイヨウ」に来ないか、と提案するのだった。
園崎は、任侠ヘルパー達にも、新しいヘルパーが来るまでいてほしい、と慰留するが、
晴菜(仲里衣紗)達は、彦一らを白い目で見始める。また、写真はマスコミにもばらまかれ、
記者らが「タイヨウ」に押しかけて、園崎らは対応に四苦八苦する。


今回は正体がばれた任侠ヘルパー達と刻一刻と病が進む羽鳥の厳しい現実を描く回だった。
任侠ヘルパー達の正体が分かると、晴菜達の態度は手の平を返したように変わる。
あからさまに怖がる態度は如何なものかと思うが、白い目で見られるのはどうしようもないだろう。
例えば、晴菜は「ぶっきらぼうだけど優しい人だと思っていた」と彼らの本質を理解している。
それでも、やはり「怖い」のだ。人間は、「個人」は良い人であっても、「集団」となると別の一面を
見せることもある。そして、彼らは「元ヤクザ」ではなく「現役構成員」だ。
犯罪や事件に巻き込まれないとも限らない(現に初回の彦一は老人から金を巻き上げていた)。
恐れをなしたヘルパー達は続々とタイヨウを辞めていく。
「給料も安いし、所長のやり方も限界だ。」不満を言い捨て、利用者を放り出して去っていくヘルパー達。
そんな対応に苛立つ五郎(五十嵐隼士)は「組に入ってもう一人じゃないと思った。
でも、ここで働くうちに自分がマシになった気がしたのに。」と語る。
「個人」の彼らは孤独で、そしていつの間にかヘルパーとしての自分に価値を見出していたのだ。
ヘルパーの仕事から精神的充足感を得ている。こんなにヘルパーに向いている人材はいないだろうに
と思うと、歯痒く感じる。


一方、一時的とはいえ涼太(加藤清史郎)すら分からなくなった羽鳥。
発作的に自殺を図った彼女は、その後、涼太とともにタイヨウに入居する。
しかし、病の進行は二人を待ってくれない。毎日撮っているビデオメッセージの録画方法が
わからなくなり、夜中には徘徊して涼太に怪我を負わす。
羽鳥を懸命に支える涼太だが幼い子供が抱えられるキャパはとっくに超えている。
夜中に泣きだした涼太の傍で眠る彦一。彦一の布団を縋るように握る涼太の手をそっと握り締める。
どうすることも出来ない残酷な現実を目の当たりにして寄り添う彦一と良太の姿に、
この二人が出会っていて本当に良かったと思わされた。


羽鳥はりこ(黒木メイサ)に、「身体拘束して。その方が楽なの。」と懇願する。
羽鳥にとって、涼太やヘルパーに負担をかけているという事実こそが辛いのだ。
そんな羽鳥にりこは「強いな、あんたは。あたしもあんたくらい強かったら良かった」と呟く。
羽鳥は確かに強い。事実を受け止め、涼太の今後を元夫(陣内孝則)に託して、いつか来るその日への
準備を始める。ヘルパーの負担を考え、人間の扱いからは程遠い身体拘束も自ら受け入れようとする。
でも、そんな羽鳥が一番恐れるのは、涼太に嫌われることなのだと思う。
病が進みわけが解らなくなった自分を涼太は嫌いになってしまうかもしれない。それが一番辛いのだ。
「ここへ来て本当に良かった。ママのことを涼太一人に背負わせたくなかったから。
ママが涼太を忘れても、涼太は忘れないで。ママが涼太を大好きだってことを」
ビデオの中で語りかける羽鳥。
彼女が「姥捨て山」と呼んだ介護施設が、この親子に最後の時間を保障している。
お互いが大好きでいるための場所が、介護施設というのも一つのあり方だと思った。


園崎は羽鳥に「身体拘束はする方もされる方も辛いもの。介護をシステマティックにして負担を減らせば
結果的に優しい介護になる、というあなたの考えは立派だが、小さな施設ではなかなか出来ない。
気持ちで無理を通すしかないのだ。」と語る。
アホな話だが、今まで身体拘束される方の辛さは想像しても、する方の痛みについて考えたことが
なかった。人を人として扱わない身体拘束。それをするにあたり、一度たりとも戸惑いを感じない人など
いるわけがない。園崎は、利用者、そしてヘルパーの心を守る為に身体拘束をやらないのだ。
しかし、肉体的負担は増える。そのジレンマを乗り切るのが、気持ちで押し通す。ということなのだろう。
人が人を世話するかぎり、完全な「システマティック」等、ありえないのかもしれない。
でも園崎がそこにこだわるのは、彼は介護施設を「姥捨て山」だとは考えていないからなのだと思う。
孤独な人、困っている人など、弱者が肩を寄せ合って暮らしていく場所と考えているように感じる。
「利用者の笑顔と自主性を重んじる」タイヨウのモットーの重みをヒシヒシと感じた。


しかし、園崎の理想主義も限界に近づく。極端な人手不足により、ヘルパーの負担は増大、施設内の
雰囲気は荒み始める。疲れきった晴菜は言う事を聞かない利用者を怒鳴りつけ、そんな自分に
ショックを受ける。いっぱいいっぱいの労働力と資金の上で、ギリギリに成り立っている。
そんな厳しい状況を抱える介護施設は現実にたくさんあるのではと考えさせられた。
安全管理もずさんになりやがて起こる火事。晴菜はパニックに陥るが、駆けつけた任侠ヘルパー達は
焦りも見せず、冷静に利用者達を避難させる。
その姿は立派に「タイヨウ」の利用者を支えるヘルパーだった。


涼太へ撮り溜めたビデオメッセージが炎に包まれ泣き叫ぶ羽鳥。
彦一は「残したいものがあるなら面と向かって言え、子どもにとってはあんたはこれからもあんただろう」
と一喝する。かつて羽鳥が彦一に言った、「親子の絆は断ち切れない」という言葉を思い出す。
それは、彼ら親子にしても同じこと。全てを忘れても羽鳥は涼太の母親であることに変りがない。
どんな姿になっても、負担を感じても、涼太だって羽鳥が大好きなのだ。
そのことに早く気付いてほしい。


一方、タイヨウの為に身を引き、研修をリタイアした六車(夕輝壽太)は、鷹山(松平健)のもとに
押しかけ、一通の書状を差し出す。
それは隼會系列で借金を抱えた者の中でヘルパー資格所有者のリストだった。
六車は鷹山に借金と相殺で彼らをタイヨウに送ることを要求する。
「これが頭の思惑でしょう。」 見上げる先には「任侠道」の文字が・・・。
ついに、テーマに近づいてきた。
任侠道 ― 「弱きを助け、強きを挫き、命を捨ててでも義理人情を貫く」
このドラマで今まで様々な介護の現場が描かれてきた。どれも厳しい現実で、それらは簡単に
乗り越えられるものではない。しかし、懸命に働くヘルパーが過酷な現場で踏みとどまれるのは、
園崎が「気持ち」と言い、極道の世界では「任侠道」と言われる精神なのかもしれない。
彦一達は、既にそれを体現しているのだ。


しかし、その頃、県庁からタイヨウに、無情にも認可取り消しと業務停止命令が下される。
タイヨウ、涼太親子、そして任侠ヘルパー達はどうなってしまうのか。(クーラン)