アイシテル〜海容〜 初回感想

既に第二回が放映されているが、先日録画した「アイシテル〜海容〜」の初回を見たので感想を。
〈あらすじ〉野口さつき(稲森いずみ)は小学5年生の智也(嘉数一星)と夫・和彦(山本太郎)の
3人家族で暮らすごく普通の主婦。
しかし息子・智也が、小沢聖子(板谷由夏)の息子・清貴(佐藤詩音)を殺害した罪で警察に保護され、
さつきは容疑者の母となってしまう・・・。


う〜ん。重い・・・。そして、面白いというか非常に惹きつけられた。
その要因は、それぞれの設定やセリフ、心理描写がとてもリアルに感じられたことだと思う。


まず、被害者側。末っ子の「キヨタン」を溺愛する母・聖子とその家族。
母親に猫かわいがりされる弟に対する姉・美帆子(川島海荷)の少し屈折した心理も含め、
どこにでもある平和なひとときの描写が上手いと思った。
親離れしつつある娘への対応に遠慮してしまう分、弟にストレートな愛情を示す母親の心理を
しっかり描くことで、後の悲劇がこの女性に与える衝撃と後悔の深さを如実に表している。


そして、加害者側。私はこの家族の描き方が非常に面白いと思った。
殺人を犯す子供。当然、親の育て方や家庭に問題があると思うのが一般的だが、第一話を見る限り、
そんなに問題がある家庭には見えない。


母親のさつきは智也の塾代にとウェイトレスのバイトをし、栄養バランスを考えた食事にも気を配る
夫と子供思いの主婦。父親の和彦は、子育てはさつきに任せっきりで調子がよすぎるキライはあるが、
仕事を頑張るごく一般的な男性。夫婦仲も良く教育熱心なごく当たり前の親として描かれている。
家庭崩壊も虐待も放任も貧乏もない普通の家庭。わかりやすい問題を抱えた家族ではないのだ。


しかし、まったく問題の芽がないとも言えない。
さつきは智也が口をきいてくれなくなったことに不安を覚えている。
確かにこの母と息子のまったく成立しない会話を見ると、何かおかしいと感じさせる部分がある。
しかし、その「何か」が何なのかよくわからない。さつきもそれがわからないから不安なのだろう。
最近よく「自分の子供がわからない」という親御さんの話を聞く。
私には子供がいないが、それはこういうことなんだなあ。と漠然と理解できたような気がした。
実際、自信をもって子育てしている親なんて少ないだろう。
今の多くの親御さんはこんな不安を抱えながら子育てをしていて、それもまた「普通」のことなんだなあ。
と思いましたね。


しかし、そんな「普通」の家庭であるさつきの一家に大事件が起こる。
息子の智也が小学生殺害の容疑者として身柄を確保されたのだ。
それに対するさつきと和彦の対応も非常に興味深かった。
ショックで茫然自失のさつきに、「子供と接する時間が多いのは母親なのに、なぜ気付かなかったんだ」
と責め立て、挙句の果てに「会社クビかなあ。今までの努力が水の泡だ」と嘆く和彦。
そんな夫に、「なんでそんなことしか言えないのよ!」とキレるさつき。


これもねえ。確かにこんなことしか言えない父親なんて無責任だし、親が言い争っている場合か!
とも思う。でもこの夫婦は、たぶん36・7歳だと思うんですよね。私と大体同世代。
自分に置き換えて考えると、こんな時、思慮深く振舞えるほど私達の世代は打たれ強くないですよ。
非常事態において「言動の核」となるような理性や精神的な強さもいまだ持ち合わせていないのだ。
だから、この夫婦のやりとりは「情けない」と思う以上に、ある意味「普通」の反応ではないかと
思ってしまった。
(それに対し、清貴の父・秀昭(佐野史郎)は彼らより一世代上に設定しているのも興味深い)
そして、特に問題は見当たらない、しかし、まるでボタンを掛け違えたままのような違和感を抱える
(こと自体)「普通」の家庭をみると、私達はいつ被害者や加害者になってもおかしくないのだと
思えてくる。


そして「(妊娠した時)子供を産まなければよかっんだ」と言う和彦に「私は産んだことを今でも
後悔していない」と静かに返すさつき。
この辺りは、母性と父性というか男女の決定的な違いが垣間見れて面白かったですね。


今後は、殺害の動機、被害者家族と加害者家族の絶望と更に重い展開が待ち受けていると思う。
多少の救いは、現段階では加害者の少年は、殺人衝動や性的嗜好、自己顕示欲で殺人を犯したよう
には見えないということ。
身柄を拘束されうつむくだけだった智也が、家庭裁判所調査員・富田(田中美佐子)の差し入れた
おにぎりを頬張った瞬間、失禁するシーン。
限界を超えても尿意を感じないほど、精神を消耗していたのだと思うと痛々しかった。
展開として、加害者少年が贖罪の心境に至る道筋やそれに伴い生じる罪の意識、そして更正も
描かれると思う。それを踏まえて、視聴者の心理が加害者少年の側に少しでも寄り添える作りに
なっていたのは、非常に効果的だと思った。


被害者家族のみならず加害者家族の苦悩も描こうとする姿勢は画期的だと思うし、それを連族ドラマで
扱うというのは、かなりの覚悟と勇気がいったはずだ。
毎週、重い気分になるのは少々気が滅入るが、これは人として最後まで見届けなくてはならないドラマ
なのかなと思う。今後の展開に期待しています。(クーラン)