映画における治安を考える

大阪でタクシー運転手の方が相次いで襲われる事件が続いている。
本当に酷い事件だ。亡くなった方のご冥福と怪我をされた方の回復を心よりお祈り致します。


タクシー強盗自体は珍しいものではないのかもしれない。
けれど、暗い世相とか言われているこの時期に連続して起こると、日本もいよいよ治安が
悪くなってきたなあ。と思わざるをえない。
そのうち、タクシーに「アレ」が取り付けられ日も近いのかもしれない。


「アレ」とはアメリカ映画に出てくるタクシーに付けられている、運転手と客の間を仕切る
板のようなもののことである。
70年代のアメリカ映画にはよくタクシーが出てきたが、その殆どが運転手と客の間に
透明のプラスチック?の板やら、鉄格子のようなものを取り付けていた。
もちろん、客を装った強盗から運転手が身を守るためだ。
ハナから客を信用してないわけだが、それほどに治安が悪かったということだろう。
あれを初めて見た時なんだか分からなかったが、親に説明されて驚いた。
やっぱりアメリカって怖い国なんだ。日本は安全で良かったなあ〜。等と思ったものだ。
タクシーの「アレ」は、私にとって「アメリカの治安の悪さ」の象徴でもあったのだ


それからかなりの年月が経ち、日本も大分様相が変わってくる。
ある時「鉄と鉛」(主演:渡瀬恒彦 監督:きうちかずひろ)を劇場で観て、唐突にそのことを理解した。
あらすじは、ヤクザに逆恨みされ命の期限を切られた中年探偵が、最後の仕事を請け負う。
依頼主の少女の兄を探すという仕事が、少年の誘拐事件ひいてはヤクの売買事件に繋がっていく
というストーリー。
ところが、ここで探偵が対峙する「金光」(岸本祐二) という男はヤンキーと言うか
その当時チーマー?とか言われていた輩なのだ。
こいつがとにかくメチャクチャ凶暴で、モラルのない、衝動で生きる獣のように描かれている。
終盤ヤクでラリッてる姿もゾッとしたが、映画全体に流れる金光がもたらす物騒な雰囲気に心底慄いた。


監督は何故、中年探偵が闘う相手を「若いヤツ」にしたのだろうか?
特に驚きのある設定では無いのかもしれない。
しかし、当時の若いヤツらと彼らがたむろする街、ひいてはこの国全体を覆う不穏な空気を
敏感に察知して、この「金光」という男に投影したように思われてならない。
観終わった後、虚構にも関わらず「日本はもう安全な国ではないのかも」とぼんやり思ったことを
憶えている。しばらくの間は夜一人で歩くのが怖かった。


これと闘う探偵は、体力的には圧倒的に劣りながら、本能で体が動くといった感じの身のこなしで、
さすが武闘派の渡瀬恒彦氏だった。
くたびれた中年探偵が徐々にギラギラしていく様はかっちょよかったですね。


ところがである。
日本も「安全な国」から徐々に遠ざかっているのかも、等と思い出した翌年、アメリカ映画
ワン・ナイト・スタンド」(出演:ウェズリー・スナイプス 監督:マイク・フィギス)を観た。
そこで、少し引っ掛かるシーンがあったのだ。
映画の序盤、ナスターシャ・キンスキー演じる美人でハイソな婦人が、夜中ニューヨークの街を
一人歩き、人通りの少ない街角に差しかかった時、強盗に襲われるのだ。


「え〜???」正直驚いた。何に驚いたかって、ナタキンの無防備さにである。
冒頭書いたとおり、私にとってのアメリカは、怖い国でもあるのだ。
夜中、街でオンナが一人で歩こうものなら、やられたうえ、身ぐるみ剥がされ、殺られてしまう
恐ろしい国なのだ!(←父親の付き合いでチャールズ・ブロンソン主演映画をテレビで見すぎた弊害)
しかも、歩いているのはオバハンではない。ナタキンである!
これは「襲ってくれ」とプラカードをもって歩いているようなものではないか!


まあ、これは言い過ぎだが(笑)、このシーンを観て私は「こんな無防備に歩けるほど、今のアメリカって
治安いいの?」と思ったのだった。
そう言えば、70年代のアメリカ映画や刑事ドラマって、かっちょいい街並と通りを一歩入った
小汚い街並みが同じくらい映されていて、それが混沌とか怖さを醸しだしていた。
最近の映画って、そういったものが画面に納められていることは少ないと思うのだけど、
それは街もキレイになったということなのだろうか?地下鉄の落書きも、もうないのだろうか?
治安もその分良くなったのだろうか?いや、そうでもないよなあ。


どちらにせよ、日本も治安に関しては、良くない傾向にあると思うので、身の回りには
充分注意しなくてはいけませんよね。(クーラン)


ワン・ナイト・スタンド [DVD]

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↑言い忘れましたが、ナタキン間一髪助かります。
映画の内容は、皮肉が効いた大人の寓話?といった感じですかね。
ラストの展開には、狐につままれた気持ちにさせられました(爆)。